夏祭り1
季節外れもいいところだけれど、夏祭りに行く約束の話です。
夏休み。
演劇部である私と十月は演劇部の部室で喋っていた。
わが校の演劇部は、部員はたった12名。
三年生が4名。二年生が5名。一年生が3名だ。
練習は週4日。
夏休みは、ほぼ毎日一日中練習。
といっても、そこまで熱心ではなく半日はおしゃべりで終わる日もある。
今日は、三年生が全員用事があってこれず二年生は遅れると言うことなので暇なのである。
「暇だよねー。先輩まだかなー。」
3人目の一年生、斉藤智衣が頬杖をついて暇そうに呟く。
「そうだねー。練習しようにも、発声練習は終わったし筋トレもグランド五周走ったからねー。やることないよね。」
「あー、暇。暇だし、郁斗くんでも見に行こうかなー。」
「見に行ったの金沢先輩に見つかったらまた言われるよ。リア充め!って。」
十月がふふっと笑う。
金沢先輩は、彼氏あるいは彼女持ちの人を目の敵にしている。
ノロケ話を聞けば、爆発しろぉぉぉぉぉ!!と叫んでポカスカ殴るのだ。
それが可愛くてわざとする人もいるんだけどね。
「あー、でも、うーん。…よし、やっぱ暇だからいってくる。十月もいかない?里岡を見に。」
「え!?えっと…、い、いく!」
智衣の彼氏の橘郁斗は里岡とあいつと同じバスケ部。
県内でも一位、二位を争う強さであるわが校のバスケ部。
そんなバスケ部の中でも、橘と里岡とあいつはホープとして注目されている。
「香月は?相沢を見に行かない?」
「な、何であいつを見に行かなきゃいけないの!行かないわよ。先輩が来て誰もいなかったらいけないでしょ。私は、お留守番でもしてるわ。」
「そう、わかった。じゃ、いってくるー。」
「い、行ってきます!」
「いってらっしゃーい。」
二人が出ていって、手持ちぶさたになる。
お茶はあるが、暇なので財布をもって自動販売機に向かった。
「あれ?北条?」
「え…、相沢?」
自動販売機とにらめっこしていると声をかけられたので、後ろを向くと相沢がいた。
「何であんたがここにいるの?」
「いちゃ悪いのかよ?休憩だから、飲み物買いに来ただけだよ。お前こそ何してんだ?つぅか、一人?」
「智衣と十月はバスケ部の見学。私は、暇だから見に来ただけ。」
「ふぅん。…まぁ、ちょうどいいな。」
あいつは、回りをキョロキョロ見て誰もいないことを確認すると近づいてきた。
「今度、夏祭りあるだろ?緋月、誰と行くの?」
「あぁ、私と。」
「そうか。なら、いいよな?」
「うん。十月も喜ぶだろうし、それとなく伝えておくよ。」
「おう。…にしても、何で俺たちがこんなことをしなきゃいけないんだ。まったく…。」
「しょうがないでしょ。二人とも奥手なんだから。」
二人してため息をつく。
実は、里岡も十月のことが好きなのだ。
でも、二人とも奥手なのでこうやって周りが手を回したりしている。
「じゃ、頼むな。詳しいことはまたあとで。」
「ん、了解。…練習頑張ってね。」
「おう。お前もな。」
相沢は、手を振ると立ち去った。
さてさて、十月にどう伝えようか。
* * *
見学から帰ってきた十月に早速夏祭りのことについて話した。
「え!?隆也くんと!?」
「うん。自動販売機で偶然、相沢と会ってさ。里岡と一緒に行くみたいだから誘ったら、OKでた。これで、夏祭り里岡と一緒に行けるね。」
「う、うん!ありがとう!あ、でも、隆也くん私と一緒に行くの嫌じゃないかなぁ。」
不安そうな表情をする十月。
「大丈夫よ。ほら。」
さっき、相沢から来たメールを見せる。
メールには、"隆也もいいってさ。"と書いてあった。
メールを見て、ホッとしたのかすごく嬉しそうな顔をしている。
うわぁ、十月すごくデレデレしてる。
きっと今頃、私の送った"十月もいいってさ。"というメールを見て里岡も同じような顔してるんだろうなぁ。
思わず、笑ってしまった。
「おはよー。遅れてごめんねー。って、どうしたの、十月!?すごい嬉しそうだけど。」
「あ、金沢先輩!おはようございます。えっと、隆也くんと夏祭り一緒に行けることになって…。」
「あー、そういうこと。いいわねー、青春ねー。…私も青春したーモガッ。」
「はいはい。もう聞き飽きた。それより練習。地区大も近いし、張り切って練習しようぜ。」
「はい!」
「がってんです!」
「了解しましたー!」
二年の青山先輩が金沢先輩の口を塞いで、指示を出す。
いつものことなのでさほど気にせず私たちは、返事をした。
金沢先輩は、何とか青山先輩の手をはがすと慌てて青山先輩に文句をいった。
「ちょ、ちょっと、青山!最後まで言わせてってば!」
「あー、はいはい。じゃ、もうやってると思うけど筋トレからやろうか。の前に、準備運動始めるぞー!」
「ちょっと、青山無視すんなーー!」
青山先輩は、金沢先輩を軽くいなしながら準備運動を始めた。
私たちも、笑いを噛み殺しながら準備運動を始めたのだった。
* * *
部活からの帰り道。
「ねぇ、香月。浴衣着ていこうよ!」
「浴衣!?私も?いいよ。十月だけ浴衣着なよ。」
「そ、そんなの恥ずかしいよ。ね、お願い!私、隆也くんと浴衣で夏祭りまわりたいな!」
「うぅ…。」
十月が、少し背の高い私を上目使いで見てくる。
あぁ、こんな目で見られたら断れない…。
私は、ガクリと肩を落としながら了承した。
浴衣と下駄は、十月に貸してもらう。浴衣を何着か持っているらしい。着付けは、十月のお母さんにしてもらうことになった。
浴衣、嫌だなぁ。
動きにくい浴衣で行く自分の姿を想像して、気が重くなった。