第八話 情報屋からの依頼
10/9 スキルが使えないのは今後不便になると思い、急遽編集。
鬱蒼と木々が生い茂る森、その森の中で激しい戦闘が繰り広げられていた。彼らの戦いは想像を絶しており、見るもの全てを圧倒していると言っても過言ではなかった・・・・・・。一人の青年は剣を巧みに操り敵へダメージを着実に、それでいてガードもこなしている。一匹の魔物は己の拳でひたすらに殴り続ける、しかしそのパワーは計り知れない、自らの身体の黒い剛毛によりダメージを通りにくくし、尚且つ防御力が驚くべき程に高い。
・・・・・・マズイな補助魔法の効果が切れる時間は刻々と迫ってきている、だったら効果が切れる前に倒してしまえば良い。そう考えた俺は目標部位を心臓と首の二つに定めた。しかし放った攻撃は何度か胸の部分を斬るが、それ以外はガードされるか避けられるか。それにこのダークベアー、妙に強いと思っていたらどうやら群れのボスっぽい、身体は他の個体よりも少し大きく顔には俺が攻撃する以前に傷が付いている。動き方も他の個体とは比べ物にならない、攻撃・防御・速さと何をとってもそこはボスらしく仲間達よりも高い。
アイツは遠距離攻撃が使えないから一旦距離を開けて、魔銃を撃ち込んだ方がダメージを負う可能性が低くはなるな・・・・・・だが問題は距離をどうやって開ける? もし仮に距離を開けられたとしても直ぐに距離を詰められてしまうだろう。
「はッ、ほッ、よッ!」
三連続バックステップで距離を取る、そして銃口をダークベアーに向けてトリガーを何度も、連続で引く。何発か避けられるが構わず撃ち続けていく、そして放たれた弾丸を撃ち落とそうとダークベアーが腕を振り上げ、自慢の爪を剥き出しにする。しかし、爪に弾丸は当たったものの弾丸は太い爪を巻き込み遠くへ飛んでいった。一瞬、ダークベアーの顔が苦痛で歪む。更に流石に今のは堪えたのか吹き飛ばされた爪の有る拳を強く握り締めて、怒りに身を任せて全力で此方に向かって突貫してきた。
「くそッ! いい加減にしやがれ!! サンダーランス!」
魔法を唱えると目の前に黄色い稲妻が槍の形をして現れる、そして向かってくるダークベアーに向けて驚くべきスピードで、分厚い体毛に覆われた腹を貫いた・・・・・・。サンダーランスは腹を貫いた後役目を果たしたかのように音も無く消えていった。
「グ・・・・・・ォ・・・・・・」
腹を貫かれたダークベアーは仰向けに倒れる、既に息は虫に息。恐らく腹部の損傷が原因だろう。俺は魔銃を懐のホルスターにしまい、仰向けに倒れ伏して殺せとでも言いたげに何の抵抗も見せないダークベアーに近づき、魔剣を上に上げ・・・・・・振り下ろす。降りおろされた魔剣は首をスッパリ切断していた、傷口から真っ赤な血が流れ出してくる。
そのまま魔剣はしまわずに生き残っている奴が居ないか、辺りの様子を確認する。・・・・・・どうやら今倒したので最後だったようだな、魔物が居る気配が無い。タッタッタ・・・・・・俺は急ぎ目にエーリの隠れている木まで走る。此方に向かってくる足音に気づいたのか隠れている木からひょこっと顔をだす。
「怪我はないか?」
「有りません、それよりマコトさんは大丈夫何ですか?」
「ああ、心配いらないさ」
片手をぶらぶらと振って元気と伝える、するとエーリは心底嬉しそうに溜め息をついた。魔剣に着いた血を一回振って落とし、真っ黒な鞘に紅い剣を収める。
「そんじゃ早いトコ帰るか? またアイツみたいな奴らが出てきたら同じ事の繰り返しだ」
「あ・・・・・・待ってください!」
ここから近い森からの出口の方向へ足を向け、数歩歩きだした時だった。突然、焦った声でエーリに呼び止められた。何だ? と思ってくるりとその場で振り返る。するとエーリはダークベアーの死体を指さした、その死体の周囲にはドロップアイテムが降り注ぐ太陽の光に反射していた。確かアイテムが消えるのは三十分経ったらだったよな? 補助魔法が切れたのはだいたい最後のダークベアーを倒してエーリの居る木に着いた辺りか? だとすると、急ぐほどの事では無いな。
「ダークベアーの黒い体毛、それと・・・・・・何だ? この宝石みたいなのは?」
アイテムを拾い集めていると、光り輝く透明で綺麗な結晶が死体の近くに落ちていた。試しにエーリに聞いてみる。エーリはアイテムを回収し終えたらしく此方に戻って来ている様だったらしく、俺の声を聞くと小走りで此方に来た。
「なぁエーリ、この宝石みたいな奴は何なんだ?」
宝石をエーリに渡しながら、そう尋ねる。エーリは色々な角度からじっくりと宝石を眺めている、眺め終わるとその宝石について説明を始めた。
「これは“魔結晶”と言って、魔物を倒すと極稀に落とすもので、その魔物のランクが高い程高値で取引されています。ダークベアーはランクSS、ですので恐らく売値は・・・・・・数十億」
俺は耳を疑った、あの数を倒して一個しか無かったのは残念だったが。まさかこれ一個で数十億か・・・・・・あまり表には出さない方が賢明な判断だろう。世の中善人だけじゃない、俺が数十億の売値を持つ魔結晶を殺してでも奪いに来るだろう、そうなったら護衛を雇うか・・・・・・。俺のアイテムウィンドウにしまい込んでも良いがそれだと、何時も持ち歩いている事になるからな・・・・・・安全とはいえ此方は純日本人だ、大金を持つのは少し気が引ける。
「エーリ、これの事は他言無用で頼むぞ? 知られたら厄介だ・・・・・・」
「え? どうしてですか?」
「どうしてって・・・・・・こんな大金の元を持ってたら、少なからずそれを聞きつけた奴らが奪いに来るだろうが」
するとエーリは納得したらしく、それ以上の事は聞いてこなかった。やがて俺の分のアイテムの回収が終了し、城下町へ戻る事にした。帰り道では魔物と遭遇することなく城下町にたどり着いた。
城下町へたどり着いた俺達は一先ず、ギルドへ行きゴブリンの棍棒を見せてクエストを完了した。そして俺達は疲れた身体を休めるために宿屋に戻った。さて、ここで漸く錬金術師の本領、錬金術を使ってのポーションの調合だ。予め買っておいた道具を使い、ポーションを造る。まず薬草を磨り潰す、それが終わったら今度は火属性の魔法で沸騰させておいたフラスコに磨り潰した薬草を入れて、錬金術師のスキルを唱える。
「調合錬金」
短いスキルを唱えると磨り潰した薬草でお湯が少し緑色になっていたのが、スキルを発動した事で一気に濃い緑に染まっていく。それを約五分程冷まして完成だ。冷ましたポーションを試験管に注ぎ、コルクで蓋をする。そうして大量に買った材料の約半分を使い切って漸く作業を終えた俺は、造ったポーションをアイテムウィンドウに入れた。これでいざと言う時に回復できる、効果も高いだろうから売値も期待できる、まぁ・・・・・・味は保証出来ないがな。
「マコトさんってこんな事も出来るんですねぇ~」
横でずっとポーション造りを見ていたエーリが、感心しながらそう言った。
「俺は錬金術師だからな、これ位朝飯前さ・・・・・・っとそうだ、俺はこれから一度冒険者ギルドに行くが・・・・・・エーリはここで待っていてくれ。直ぐ戻ってくるから」
「分かりました。気を付けて行ってきてください、マコトさん」
一言、分かったと返事をして俺は宿屋を出た。
空がオレンジに染まり始めた夕暮れ時、次々と街の街灯が点灯し始めた。夕食の買い物などで賑わいつつある城下町の商店街を黒髪黒目、真っ白な白衣、鞘の真っ黒な剣。白衣を着た剣士を道行く人々は珍しげな表情で彼を見ていた。だが彼は人々の視線を気にする事無く、颯爽と商店街を抜けて行った。商店街を抜け冒険者ギルドの門を潜り中へ入る、ここに来たのは冒険者なら必然とやらねばならない情報収集だ。
俺はクエストボードの横に配置されているテーブルの椅子に腰掛け情報屋らしき者を探していく。ゴツイ装備で身を固めた剣士、とんがり帽子に白いローブの魔法使い、バンダナを頭につけている悪そうな顔の盗賊、どうもこの時間帯はクエストが終わった冒険者達が集まるため、それなりに人が集まってくるらしい。
「アンタ・・・・・・何か情報が欲しそうだな」
「全くだ、それらしい奴が見つからねぇ」
・・・・・・やっぱりここより裏通りを当たった方がいいか? 大体こんな所に堂々と情報屋が居るわけねぇし・・・・・・。
「・・・・・・ってうおわッ!? 何時の間に!」
椅子から飛び上がって背後を見ると、黒いローブと大きいバックを背負っている男がゆらりと立っていた。男は隣の椅子に腰掛けたので、俺も再び椅子に腰掛ける。顔はフードを被っているので良く分からないがどうにも怪しい。何者か聞こうと口を開きかけたが男の方が先に言葉を口にして、話し始めた。
「まずは自己紹介から始めようか? オレは見ての通り情報屋だ、世間ではちょっとばかり名が知れている。さて、情報屋は気安く名前を言えないんで、ここではシャドーと名乗らせて貰う。それじゃ、次はアンタだぜ?」
「・・・・・・」
「まぁそう警戒しなさんなって、言っただろう? 世間じゃちょっとばかり名が知れてるって」
男はテーブルに肘を付いてフードの奥に隠れている瞳をギラつかせる。その鋭い瞳に一瞬臆するが、自分に情報を得るためにここに来たのでは無いのか? と言い聞かせ自分に付いて語った。
「ド田舎からやって来た冒険者ねぇ・・・・・・それと連れが一人、だが冒険者と言う割にはその白衣は何だ? ・・・・・・まぁいいさ、名前は・・・・・・そうだな、ジャック、とでも呼んで置こう」
「それよりも、情報は金を払うのか?」
俺は重要な事を訪ねた。金が無いと情報は買えないからな、まさか“タダ”何て事も無いだろうし。
「当然その情報に対等な額は支払って貰うぜ? 勿論、常識的な事じゃあ金は払わなくていい」
そうは言うが・・・・・・いい加減その瞳をギラつかせないでくれ、頼むから。金になるあの“魔結晶”を俺は持っているんだが、物が物だからな・・・・・・何せランクSSのダークベアーが落としたのだぞ? しかも魔結晶自体が非常に稀だって言うじゃないか。売って金にしてアイテムウィンドウにしまって置けば問題は無い、でも精神的な問題が・・・・・・。
「・・・・・・じゃあ常識的な事を聞こう、この近くで何か祭りとかが開催されてるとか。開催される予定があるのは何処だ? これなら常識的だろう?」
「あぁ、これは常識的だ、最もとある国の国家機密の情報を教えろ、とかとなるとかなりの金は頂くぜ? っと話がズレたな。そうだな・・・・・・ここの近くのクローラクロス大都市って所で年に一回、武闘大会が開かれる。優勝商品は何と百万Gと聞いて驚け、“聖剣”だとよ。でだ、アンタそこに行くんだろ?」
「あぁ、その予定だ」
「だったらよ、一つ頼まれてくれねぇか? クローラクロス大都市に『カジノバー』って所があるんだ。その名の通り、中はカジノとバーが合ってな、そこの店長に合って予約していた物を持ってきてくれないか? オレはここに後一年は居るからよ。」
請け負ってやっても損は無い、頼み事の一つや二つ、請け負ってやっても良いだろう。
「分かった、それでその店長ってのはどんな人なんだ?」
「ん? あぁ、何か凄い博打好きでな。名前は確か・・・・・・“エイスケ・サイトウ”だ」
その言葉を聞いた瞬間、俺の心に衝撃が走った。エイスケ・サイトウ、前世に似たような奴が居た、博打が好きで、名前が“斎藤英介”。俺の親友だ、小学生から高校生まで世話になった親友・・・・・・何故お前がこの世界、グランアースに来ているんだ? 気が付けば俺は椅子から立ち上がった。
「シャドー、アンタの情報に感謝だな、一つ借りが出来た。待ってろ、予約してた物持ってきてやる」
「行ってきな、ジャック。そいつが気になってるんだろう? アイツも親友がどうとかって言ってたしな・・・・・・」
その言葉を聞き終わるか終わらないかの所で俺は既に走り出していた。ったく! 英介の野郎めお前からは聞かなきゃいけねぇ事が山程あるんだよ! あの遊び人が!! 俺は心の中で親友を毒づきながら夜の城下町を駆けていった。空は日が沈み、雲一つ無い空に大きな月がゆっくりと昇ってきていた・・・・・・。
誤字脱字、矛盾などが有りましたら報告よろしくです。