第七話 黒き獣
何か少し遅くなりました、すんません。
「エーリ! 補助魔法をありったけ掛けてくれ! それが終わったら隠れて補助魔法の効果が切れたらまた掛けてくれ!!」
ダークベアーが突進してくる中、急いでエーリに補助魔法を掛けさせる。勿論、錬金術師も補助魔法や回復魔法は使えるのだが・・・・・・ダークベアーと戦っている時には唱えられない、いや、唱えられるが俺は戦いに集中しなくてはならないので、攻撃魔法と回復魔法は唱えるが補助魔法まで唱える余裕は無い、詠唱に多少時間が掛かるがダークベアーは俺に注意を向けているのでエーリは気にすることなく補助魔法を俺に掛けられる。
「神よ、その者に全ての力量を与えよオールブースト!」
成程、詠唱ってのはこういうものなのか。補助魔法をエーリに掛けてもらった瞬間、俺に力がみなぎってきた気がする・・・・・・。だが一々ステータス画面を開いている余裕はない、もう直ぐそこまで来ているダークベアーに向かって魔銃を構え、撃つ。放たれた弾丸は軌道を逸らすことなく直進し、ダークベアーの目に直撃した。
「グオォッ!?」
ダークベアーが目に感じた痛みを受け怯んだ、俺はそのスキにステータスウィンドウを開き、ステータスを確認する。補助魔法を掛けられている俺のステータスは補助効果によって大幅に引き上げられていた、そして驚くべき事に、撃つとMPが減るはずのMPが一ドットたりとも減っていない。何故だ? 俺のMPがある限り自動で装填されるとは聞いていたが・・・・・・神様がミスったのか・・・・・・意外とドジっ娘なんだな、神様は・・・・・・まぁいいや、その御陰でMPを気にすることなく撃てそうだ。
「エーリ、補助効果が切れたら頼むぞ? それまでは隠れてろ」
「は、はいッ!」
なるべくダークベアーを刺激しないように、そろそろと静かに木の後ろに隠れるエーリ。それを確認すると、俺は怯んでいるダークベアーに視線を戻す。
「グ、グオォォォォォォォォ!!!!」
おおっと、随分とお怒りのようだな・・・・・・そういえば大抵、魔物が怒り状態になったら色々とステータスが上がったりするから気を付けねぇと・・・・・・。怒りの咆哮を挙げたダークベアーは空高くジャンプし、空中で自慢の尖った爪を振り上げる、その巨体からは考えられない程高く飛び上がっている為、俺は空を見上げながら一瞬、唖然としたが直ぐに攻撃を防ぐために魔法で上空から迫り来るダークベアーを撃ち落とす為、魔銃を撃ちながら魔剣の剣先から魔法を発射する。
「クリティカルレーザー!」
この魔法はその名の通り非常にクリティカルの出る確率が高く、一発の威力も強い。それを魔銃の弾丸と一緒にモロに喰らったダークベアーは・・・・・・歯を食いしばり、苦悶も表情を浮かべ、それを耐えきった、それなら・・・・・・。
「トルネード!」
「グオッ!?」
俺に爪が直撃する直前で発動したトルネードにより吹き飛ばされ、大木の幹に激突した。ズドンと重い音を立て、地面に落ちるダークベアー、そこに立ち上がらせる暇を与えることなく俺の中で最上級、ドラゴンメテオと同じ威力の魔法をダークベアーに狙いを定め・・・・・・魔法を発動する。
「ダイヤモンドダスト!!」
空中に現れた鋭く尖っている氷の結晶がダークベアーに向かって突撃した、それらは全て鋭く尖っておりダークベアーに刺さっていった、身体の至る所に尖った氷が突き刺さり血が流れ出している、それに追い打ちを掛けるかの様に上空に15m程の巨大な氷の塊がダークベアーに向かって落ちた。衝撃で氷の破片がそこらに飛び散る、氷の塊の着弾地点は白い霧で覆われており様子がハッキリと認識できない。少しずつ白い霧が晴れて行き、完全に晴れた時、黒い獣、ダークベアーが血溜まりを作って絶命していた・・・・・・。
「・・・・・・死んだのか?」
ゆっくりと警戒しながらダークベアーに近づく、そして魔剣の剣先でツンツンとつついてみる・・・・・・反応無し、魔銃で撃ってみる・・・・・・反応無し、全力で頭を蹴り飛ばしてみる・・・・・・反応無し。
「はぁ・・・・・・倒したのか・・・・・・何かあんまり強くなかったなぁ・・・・・・」
いや、俺が強すぎたんだと思う、多分リクライさんとほぼ互角に殺り合えたのはリクライさんのスペックが俺とほとんど同じだったと言う事だ・・・・・・リクライさんマジパネェっす。絶命したダークベアーの近くに何かアイテムが落ちている事に気が付いた、それを屈んで拾い、チェックで確認するとダークベアーの牙と表示されていた。ドロップアイテムをアイテムウィンドウに入れて、隠れているエーリの所へ歩いて戻る。
「エーリ、終わったぞ? さっ、早いトコここを抜けよう」
そして俺は魔剣と魔銃をそれぞれの鞘に収め、木の後ろでしゃがんでいるエーリに手を差し伸べ、それをエーリが掴もうとしたが・・・・・・まだ、終わってはいなかった・・・・・・いや、始まったと言うべきか。
「っ!? マコトさん! 後ろッ!!」
その声に急いで振り向こうとするが、背中に重い一撃が直撃して俺は1m程の木まで吹き飛ばされた。鉄っぽい血の味が口の中に広がる、一体何が起きたんだ? 俺は霞む視界で先程まで立っていた場所に複数の巨大な黒い物体が居るのが分かった、そして俺に向かって走ってくる人影が一つ・・・・・・エーリだ。木にもたれ掛かる俺に近づいてきたエーリは何かを呟く、そして呟きが終わった瞬間、背中の痛みが嘘の様に消え去っていた、そうか、回復魔法を掛けたのか・・・・・・。木に手を当てて何とか立ち上がる、その姿はまるで生まれたてのヤギの様だった。
「マコトさん・・・・・・大丈夫ですか?」
「あぁ・・・・・・それにしてもアイツ等は・・・・・・ダークベアーの群れか?」
仲間を殺された事の報復か・・・・・・或いは偶然にもダークベアーの群れが現れて、俺を餌か何かと思って狩りに来たか・・・・・・しっかし何匹居るんだ? 少なくとも八匹は見えるな。ダークベアーの数を目で確認していた時、三匹のダークベアーが絶命しているダークベアーをその鋭く尖った牙で噛み付いた、肉を噛みちぎり血が飛び散る。同種でも死んでしまえばただの餌・・・・・・アイツ等には仲間意識って物が無いのか? やがて死骸を食べ尽くしたダークベアー達が此方を向き、紅い目を光らせる、そして・・・・・・約六匹のダークベアーが地面を揺らして走り出してきた!
「エーリ! まだ補助魔法の効果は切れてないな!?」
「はい! 後十分まで持ちます!」
そんだけありゃあ充分だ、俺は全力で此方に走ってくるダークベアーに向かって同じく走り出した。まず一匹視界に捉えて魔剣を抜くと同時に斬りつける。魔剣はダークベアーの腹を切り裂き、血飛沫が上がった。
「グオッ!!」
「らぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
魔剣を下から上へと斬り上げる、その位置は・・・・・・首。ごとりと鈍い音と共にダークベアーの切断された首が地面に落ちる。ダークベアーは声を挙げる暇も無く絶命した。だが休んでいる暇は無い、近くまで接近していたダークベアーの攻撃を魔剣でガードする。補助魔法が効いているのか重い爪の一撃を耐え抜く事が出来た、一気に力を込めて押し返す。
押し返された事により大きなスキが出来る、俺はそのスキを見逃す事なく黒い体毛に覆われている腹の下へと潜り込み、魔剣を振り回し、滅多斬りにする。大量の血が顔に付着する、それを拭う事なく斬り続けた腹は黒い体毛が紅い血でドス黒く変色している、斬られた箇所はとめどなく血がドバドバと地面に流れ落ち、地面にはまさに血の池が出来上がっていた。
「グ・・・・・・オォ・・・・・・!」
俺はトドメに心臓の部分に魔剣を突き刺す、ドバッと一気に刺された心臓部分から血が溢れてくる。差し込んでいる魔剣を抜き、そこから更に血が噴き出してくるがそれを気にすることなく無視して、倒れ込んでくる巨大な黒い身体に一発蹴りを入れて後ろへ押し返す。倒れたその先に見えたのは纏めて突っ込んでくる三匹のダークベアー。咄嗟の判断で魔銃を抜いて連射していく、銃弾は三匹いるうちの二匹の頭に吸い込まれていった。全ての銃弾を避けた一匹が恐る事なく走り続けてくる。
俺は再び狙いを定め、二発撃つ。その二発は両目に当たりダークベアーが突進を止めて地面に倒れ込んだ、目が見えないので有れば、と思い地面をのたうち回るダークベアーの所まで走り、助走を付けてジャンプする、そして魔剣を振りかぶり・・・・・・頭に突き刺す。暴れていたのが頭を突き刺されそれがピタリと止まる。魔剣にこびり付いた血を魔剣をひと振りしてそれを地面へと落とす。
「さぁて・・・・・・お前で最後だな・・・・・・?」
「グルルルルル・・・・・・」
低く唸り威嚇しているが俺にはそんな物は効かない。・・・・・・暫しの沈黙がこの森を支配する、そして風が吹き止むと同時に両者が一斉に地を駆けた。
「グルゥ!!」
渾身の力が込められた拳がうねりを上げて襲いかかってくる、俺は魔剣でそれを何とか防ぐ。そしてもう片方の腕に握っている魔銃を撃つ、近距離で動きが止まっている目標はただの動かぬ的だ。近距離で放たれた弾丸が左目を潰す、しかし仲間達の死に様を見て学習したのか仰け反る事も、力を緩める事も無い、しかも更に力を強めてきた、ただでさえ片手だと言うのに・・・・・・・。
「ぐぬぬ・・・・・・でりゃあぁぁぁぁぁ!!!」
踏ん張っている足に全力で力を入れて、何とか押し返すことに成功した。背中から地面へデカい音を立ててぶつかる、直ぐに起き上がろうとするが魔獣を撃って腹に何発か弾丸を送り込む。するとまたしてもコイツは驚くべき事に腹の激痛を顧みず倒れている態勢から、俺の腹にその黒い体毛が生えているデカい足で蹴った。下から腹を蹴り上げられ、威力が強かったのか俺は宙へと飛ばされた。しかし錬金術師は空を飛ぶ、浮かぶなどと言った類いの魔法は習得できないので俺は必然的、いやほぼ反射的に受身の態勢を取った。
「ぐあッ!!」
結構なスピードで空から落ちた俺は、地面へと叩き落とされ背中に激痛が走った。するとタイミング良くエーリが回復魔法を唱えてくれた。
「その者に大いなる癒しをヒール!」
名前からして初級魔法みたいだが、それでも充分に効果はあった。あの激痛はまだ少しとは言え残っているもそれほど気にはならない。俺は立ち上がり地面から立ち上がったダークベアーと互いに目が合う、幸いにも彼方には回復魔法は唱えられない様だ、ならチクチクダメージを蓄積させるか・・・・・・或いは一気に攻撃を仕掛けて打ち倒すか・・・・・・二つに一つ、だが俺にはやはり後者の方がお似合いだ。飛ばされた時地面に突き刺さった魔剣を引き抜く、魔銃はしっかりと握っていたので手元にちゃんとある。
ダークベアーの表情からは怒りが見て取れる、鋭い牙を剥き出しにし、どすどすと己の拳を地面に打ちつけている。・・・・・・恐らくもうそろそろ補助魔法の効果が切れるだろう、あれが一瞬切れただけでそれはとてつもないピンチに、俺は陥るだろう。それに・・・・・・この世界にはどうやら携帯できる時計がない、(「街に行けばあるはず」とエーリが言っていた)自分の感で図るしかない、そう、補助魔法の効果が切れても大体の時間は分かるが秒単位などは正確にできない、この戦いは一瞬が勝敗を決める。最悪の場合、一分程までエーリが気付かなかった場合は補助魔法無しでコイツを倒すしかない・・・・・・! 俺はダークベアーをキッと睨んだ、それに反応したのか彼方も負けじと低く唸り声を挙げる。
「・・・・・・」
数秒の間、両者は動くことなくただ攻撃の機会を伺い続けていた。そして先手を打ったのは・・・・・・一気にケリを着けるため、攻撃に打って出た俺だった・・・・・・。そしてそれをまるで待ち望んでいたかのように一際大きな咆哮を挙げるダークベアー。
「行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
「グオオオオオオオオオオ!!!」
二つの雄叫びが、森へ響いていった・・・・・・。
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