第二十五話 壊滅都市
僕達はその場から全力で駆け出した。逃げる場所は考えていない、けれど通路が狭くて天井が高い、この条件さえ揃っていれば、僕ら男の前衛三人で一~ニ匹を相手にできる。それか通路が広くて天井も高い、これなら魔法使いの二人が魔物達を殲滅してくれる。
でも・・・・・・それが何時までも続けられる訳じゃない。これがゲームだったらどんなにいいことだろう、僕はそう思った。負けてもセーブした所からやり直し、間違ってもリセットでやり直せる、けれど現実にはセーブもリセットも無い。死ねばそこでゲームオーバーだ。
「待ってくれ! この男はどうするんだ!? 置いて行く気なのかい!?」
「もう無理だ! それに担いで逃げた所で追いつかれるのがオチだ!」
僕が息を切らして走っていると、後ろからそんな会話が聞こえた。仕方がない、助けられなかったんだ。今の僕には逃げるしか頭になかった、昔からだ、極度のパニックに陥ると周りが見えなくなって自分の事を最優先にする。
それが仇になったんだ。だから助けられる命が消えた。僕は罪悪感で心が埋め尽くされた、もう直ぐ、もう直ぐにあの男は魔物達に殺されるだろう。残酷だ、でももう後戻りはできないんだ、直ぐそこまで奴らは迫ってきているのだから・・・・・・。
「何だあれ!? 魔物か!?」
「おいこっちに来るぞ!!」
「うわああああああああああ!?」
自体に気が付いた人が叫び声を上げて逃げ始める、そしてそれは連鎖し、大衆が一斉に逃げ出した。しかし、それと同時に魔物達が分厚い扉の前に集結し、扉を叩き始めた。このままではいずれ扉は壊される、それまでに何処かに逃げよう。
けれどここに留まっても無駄だ、なら街に出る必要がある。でも待ちがどこまで安全かは分からない、ひょっとすると出た瞬間魔物に囲まれるかもしれない。だけど見つからないように忍んで行けば或いは突破できるかもしれない、そのまま街を脱出しよう。それから誠の所へ向かおう。
僕はようやく冷静になってきた。そして走りながら叫ぶようにして必死に考えた事を口にした。もう少し早くに言えていればよかったけど、今は言えただけでもいい、結果が良い方向に転べばそれだけで満足だ。
「闘技場に向かおう! そこなら広いし戦いやすい!」
そう叫んだ時だった。遠くからも聞こえるほどの音量でガラスが破れる音と瓦礫の音が耳に入った、それは考えれば直ぐに分かった、その正体は扉が壊され魔物達が侵入してきた音だった。
複数の咆哮が轟く。それは魔物達の物だ、それに続いて様々人達の悲鳴が響く。これから何人殺されるのだろうか? 僕には恐ろしくて考えられない、けれど既に街の犠牲者と合わせるとしたら数えられないほどの人が犠牲になるだろう。
ああ、ダメだダメだ! こんなに鬱思考になっちゃダメだ! そう、こんな時だからこそポジティブに行こう! マイナス思考は無駄だ、ポジティブにプラス思考で行こう!
僕は頭を振って鬱思考を振り払った、ついでになるべく人の悲鳴とか生々しい嫌な音とかも聞き流すようにした。
先頭を走っている僕は真っ先に闘技場に繋がる通路にたどり着いた。ここらへんにはまだ事態に気が付いていない人で溢れかえっている、それを僕らは縫うようにして走り抜けた。そしてまた誰かの悲鳴が上がった、もう魔物達がここまでやってきているのか?
だけどもう少しだ、もう少しで闘技場に着く、そうすれば魔物達を返り討ちにできる。それまでの辛抱だ。
僕は大きく鼓動している胸を押さえ、息を切らしながらも走り続けた。何度か躓きそうになりながらも転ばないように強く床を踏みしめる。ああ、僕も誠みたいに剣道でもやってればよかった、まぁ誠のアレは誠と美咲さんの一族にしか出来ないものだけどね。でもホント体力って皆無だよね、僕ってさ。自分が嫌になるよ。
と、自らを毒づく。でもそうしたところで体力が増える訳ではないので、結局は息を切らして走り続けるしかない。
「着いたぜ! 早いトコ片付けちまおうぜ!」
「アンタ馬鹿!? あの数を片付けるのは無理よ! 精々撃退が良いところだわ!」
「んだとこの野郎! まずテメーから片付けてやろうか!?」
「まぁまぁ、二人共落ち着いてくださいよ」
闘技場に着いた瞬間にヴァイスさんとリラさんがまた喧嘩を始め出し、それを宥めようとミントさんが割って入る。てゆーかこの人達仲が悪いのに何でチーム組んでたんだろう? 知り合いだからかな? まぁいいや、そんなのは後回しだ。
僕は走るのをやめてその場に立ち止まり、後ろを振り返る。すると後ろからは必死に魔物達から逃げている人達、そしてその後ろを魔物達が食糧となる人間を食うために追いかけていた。
それを見て僕は気を引き締め、腰の鞘から誠と交換で貰った魔剣を抜き放って迫り来る魔物達を睨み付けた。そうして、次々と同行者達が自らの武器を構える。僕はそれを見て、何だか不思議と恐怖心は何処かへ行ってしまっていたようだ。
そして、僕は魔法使いである二人に指示を出した。何時の間にか、僕がリーダー的な役割を担って居たみたいだ、何だか性に合わないな~僕は正直人の後ろに着いていくタイプの人間なんだけどね~、ま、いいかな? これはこれで貴重な体験になりそうだしね。
「よ~し! 生きてる人間に当たらないように魔法をぶっぱなせ!!」
「は、はい!」
「言われなくても当てないわよ!」
ヴァイスの指揮により魔法使いの二人が魔法を発動する。リラさんの魔法は燃え盛る業火の火炎玉で、ミントさんの魔法は槍のように鋭く伸びた雷撃をそれぞれ魔物に向かって飛ばした。
放たれた魔法はそれぞれ魔物に直撃し、爆風によって更に数体の魔物が吹き飛んだ。何て威力だ、人に当たったら同じように消し飛ぶんだろうな・・・・・・当たらないように気を付けなきゃ。武者震いに震える身体が震える、まさに燃える展開って奴かな?
「それじゃ、僕らも行こうかな?」
「おうよ! 久々に腕が鳴るぜ!」
「ええ! 奴らに目にもの見せてやりましょう!」
魔法が当たったのが合図となり、僕ら剣士組は魔物の波に突っ込んでいった。
「これで最後ッ!」
魔物の波も残り一匹となり、僕は最後に残った銀色の毛皮を持つ狼型の魔物に魔剣を振り下ろした。あーあ、この魔物かっこよかったんだけどな~、調教すればペットになってたかも。・・・・・・なーんて考えてみる。
狼型の魔物はギャン! と甲高く一鳴きして、バタリと倒れる。これで終わりだ、何時間戦ってたかな? 二時間半ぐらいかな? でも途中からは逃げる人間が見えなくなったから広範囲の魔法を使い始めて、それからは結構な速さで魔物を片付けたんだよね。
まぁ、僕ら剣士組の活躍なんて微々たるもので、やっぱり広範囲の魔法で魔物を倒した魔法使い組のほうが活躍してるんだよね。まっ、いいか。生き残れたんだし。
「よし、終わったみたいだね?」
「キー君! 怪我しなかった?」
「ああ、大丈夫だよ」
・・・・・・そう言えば忘れそうになってたけど、この人達はリア充だったね。ぐすん、いいよ、どうせすぐに僕も彼女見つけるからいいよ。別に。・・・・・・悲しくなってきた。どうして僕の周りはリア充ばっかりなんだ。
自分の不遇に心を痛めつけられるが、いつか見返してやるという儚い希望を胸にして、取り敢えず今は堪え忍ぶ事にした。何時か誠達に胸を張って彼女を見せつけられるその日まで・・・・・・。
「じゃ、そろそろ行きましょうか。確かあっちに非常用の出口が有ったはずです、そこから街に出ましょう」
若干機嫌が悪い僕は少し声のトーンを下げて言う、俗に言う嫉妬って奴ですよまったく。
「うわぁ・・・・・・こりゃ酷い・・・・・・」
「街が壊滅状態ね・・・・・・」
「まさに絶望・・・・・・って感じだなこりゃ」
闘技場から繋がる非常用の通路を通って僕らは街に出た、けれどやっぱり街も安全な場所では無かった。判りきっていたことだけど・・・・・・、街の至るところに魔物が居る。上空をうるさいくらいの鳴き声を上げ続けて飛び回る飛行系の魔物。地上を我が物顔で歩き回る魔物。
それと、殺された人間の屍。
老若男女が殺されていた。至るところにその屍が有り、道の端で魔物に喰われている屍も有った。更には身に付けている衣服を脱がされ、比較的弱い魔物であるゴブリンやオークに犯されている女性もいた、子供であろうが老女であろうがだ。
あんなに賑わっていた街道も、今は人間ではない魔物が占領している。綺麗だった道が、今は所々血に塗れている。
「・・・・・・どうやって街を抜けるんだい? 流石にこの状況は魔物と戦わざるを得ないよ?」
シーフの男の問いに、僕は数秒間思考を巡らし、出来上がった策を伝えた。
「・・・・・・僕らの最終目的は誠の居るフィンシア王国、その城です。ですが、馬車で精々半日、徒歩で丸一日か約二日は掛かります、でもこの状況で馬車は無いと考えてもいいでしょう。乗って逃げた人も居るでしょうし・・・・・・、それにあんなに魔物が彷徨いているのだったら馬車での移動は囲まれる危険があります」
僕はそこで一旦区切って、また話を続けた。
「となると、やはり徒歩しか有りません。ワイバーンやグリフォンを扱う店も魔物に占領されて殺されているか、逃がされているかでしょうしね」
今話したワイバーンやグリフォンは、馬車とは違い空中を飛行して移動する乗り物であるが、その分希少ま為に値段が張るため、一流の冒険者や貴族などしか購入できない。更にエサ代や、休憩を取らずに飛行し続けると野生化して暴走する、などといったデメリットもあるため、乗りこなすのは至難の業である。
「なので僕らは一気に街の門に向かいます、恐らく外にも魔物は居るでしょうから魔法で邪魔な魔物を倒しながらの進行となります。幸い、食料の方は僕がこんな時のために溜め込んでいましたのでそこは心配いりません」
「って、持ってないように見えるんだけど?」
「あー・・・・・・そういう魔法を習得しているんです。ちなみに保存は効きますよ」
僕はまた話を再開した。
「走りながらでも丸一日は掛かるでしょうし、休憩を取りながらだとすると二日は掛かる想定をして。補助魔法が使える人が居れば、切れそうになったら掛ける、その繰り返しで目的地まで向いましょう。・・・・・・それで、誰か補助魔法を使える人は居ませんかね?」
ふぅ・・・・・・喋り疲れた。何だか僕が本格的にリーダーっぽくなってきたような気がする。
「・・・・・・私は無理よ、攻撃系の魔法しか覚えてないから」
「あたしは使えます。中級魔法の物までなら・・・・・・」
ミントさんが恐る恐ると言った感じで手を挙げる。
「よし、それじゃテキトーに色んな補助魔法を掛けてみて。それが終わったら直ぐに門まで走るから」
僕がそう言うと、ミントさんは手に持った杖を空に掲げて魔法の詠唱を開始した。
んで、長ったらしい詠唱の内容から考察すると、多分攻撃・防御・速度・回復速度・闇耐性・・・・・・だったかな? まぁ兎に角、補助魔法が掛け終わった事により、僕らは早速行動を開始した。
「行こう! 邪魔な魔物だけを倒しながら門まで向かう!」
「おう!」
「ええ!」
「ああ!」
「はい!」
誠、こっちは色々と大変だよ。君はもう美咲さんには逢っているかい? 僕も直ぐに行くからそれまで待っていてくれよ? 僕も美咲さんに逢ってあげたいんだ、だから誠、僕がそっちに着くまでに美咲さんを立ち直らせてあげてくれ・・・・・・やっぱり最後は君じゃないとダメなんだ・・・・・・!
僕は街道を駆けた、魔剣を振るい、歯を食いしばりながらも必死に駆けた。あの二人も元に向かうために・・・・・・!
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