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錬金術師の魔王討伐  作者: 水晶
~~フローリック大陸 対抗編~~
25/26

第二十四把 非常事態

「はぁ・・・・・・誠はエーリちゃんを連れてさっさと行っちゃったし、確かに美咲さんに逢いたい気持ちは分かるけども、せめて棄権の手続きぐらい手伝ってくれてから行ってもいいと思うんだよね。でも誠は美咲さんの事となると真っ先にそれを優先するからね、誠の悪い癖だよ」


 誠達と別れた後、僕は受付で棄権の手続きを済ませた。勿論、理由を聞かれたけどそれに付いては急用が出来た、と言っておいた。まぁ、それ以上は聞かれなかったんだけどその手続きが異常なくらい長かった。何とか終わらせたけど。


 歩きながら銀縁メガネを取って、ハンカチでレンズを拭く。別に汚れていたとかじゃないけど長年の癖でついやってしまう。特に困ってはいない、綺麗なのは良いことだと思うしね。


 拭き終わった銀縁メガネを付けて、ボヤけた視界からくっきりとした視界に戻る。その途端、僕は人に囲まれているのが見えた。まぁそうだろう、準決勝まで行ったチームが突然棄権したんだから文句も言いたくなるよね。しょうがない、ここは僕の華麗なスルーで乗り切ろう。マスコミに問い詰められてる芸能人みたいにね。


「ちょっとそこのバーテン君? キミ達のチームが棄権した事について聞きたいことがあるんだけど」


「それについてはノーコメントで・・・・・・って、アンタ達は僕らと戦った・・・・・・」


 言葉の途中で気が付いた、今僕を取り囲んでいるのはさっき戦ったチームだったとね。どんな奴らかと思ったらこの人達か・・・・・・一応事情は説明しておこうかな? それじゃなきゃ納得してくれそうにないし。


「一切合切喋ってもらうわよ」


「逃げようとは思うなよ? 小僧」


 おおっと、いきなり喧嘩腰ですかいお二人さん。今にも僕は殺されてしまいそうです、タスケテーマコトー。


「逃げようとは思ってませんよ、何より囲まれてるじゃないっすか。逃げようがないですって。それに元から説明する気でしたよ? 僕はね」


「そうか、じゃあ早いトコ説明してもらうぞ? ただでさえタイムオーバーで負けてるのに勝ち逃げされてたら腹が立つんでね」


 剣士の男が明らかに殺気を出して言う。変な事言ったらマジで殺されそうだ、マジで。


「ええっとですね、掻い摘んで説明するとですね。誠が姉さんが居るかもしれないって情報を何処かで掴んできたらしくて、それで急遽その場所に向かったんですよ。僕を置いてね」


 取り敢えず大まかな部分を切り出して説明した。でもこれだけじゃ納得はしてくれないだろう、もっと細かく説明する必要があると思う。


 僕の説明が終わると、早速シーフ(リア充)の方の魔法使いさんが疑問符を浮かべた。


「でもそれって何時でも会えるんじゃないんですか?」


「そうだね、普通はそうだ。けど誠の場合は例外なんだよ」


「例外? どういうことだ?」


 僕は言っても良いのだろうか? という衝動に駆られた、けどここで言わなきゃ理解はしてくれない。言わなきゃダメだ、スマン誠。正直気が進まないけど・・・・・・言うしかないよね。


 一呼吸置いてから僕は話し始めた。親友でもあり家族でもある誠に、あまり喋らないようにと言われていた事を僕はゆっくりと喋り出した。


「・・・・・・実は誠は、行方不明になっているということにされていたんだ。勿論、家族は心配するだろう? けどそれが弟を異性としていてみていて、心の支えでも有った弟が突然行方不明になった姉はどうなると思う? 気が気じゃないだろうね。それが誕生日前に行方不明になった言うのならなおさらにね。そして時は過ぎて、遂に姉は精神が不安定になった。そう、弟の事しか考えなくなったんだよ」


 ここまで説明して、もう一度一拍置いてから説明を再開した。


「弟がいたのはこのクローラクロスだった、僕がそれを見つけてね。そうして行方不明になったのは自らの意思じゃない、って言っていたんだ。そうだろうね、実際誠もその姉を愛していたからね。それで、戻るまでの間にこの武闘大会に出場していたんだ」


「おい、ちょっと待て。何で大会に出場したんだよ、直ぐに行ってやるべきだろう?」


 戦士の男が異論を唱えた。どうする? その姉は別世界にいます、とか言っても殴られそうだし・・・・・・何とかして誤魔化すしかないか。


「かなり遠かったんだよ、地図にさえ載っていない場所だったしね。勿論、そんなんじゃ移動手段が限られてる。だから転送用のクリスタルを買って、それが届くまでの間に大会に出場したんだ。OK?」


「・・・・・・そうか。話を続けてくれ」


 どうやら納得してくれたみたいだ、危なかった。何とか誤魔化せたみたいでよかったよ。


「それで、丁度準決勝前にそのクリスタルが届いたんだ。で、どうやら姉は必死に探していたみたいで、近くにあるフィンシア王国まで来ていたらしんだ。それを誠が聞きつけて直ぐに飛んでいった、と。以上です、説明終わり! 質問は一切受け付けません! 僕はこれからさっさと誠の後を追わなくちゃいけないんだ! だから通してくれーい!」


 必要な事を全て話終わり、その場を立ち去ろうする僕。すると剣士が驚くべきことを言い出した、それにシーフも続いた。


「よし、そういうことなら俺達もついて行かせてもらうぜ?」


「ああ、僕達も着いていこう」


 その言葉を聞いた瞬間、僕の思考が数秒間の間停止した。ええと? ついて行かせてもらう? え? この人達がですか? 何故ですかい? 僕にはさっぱり・・・・・・。


 思考を再起動させて答えを探す、けどやっぱり見つからなかった。僕らに着いてきても何か特が有るとは思えないし・・・・・・何だろう? この世界の人間にしか理解できないのかな? それならそれで納得がいくね、僕らの世界とこの世界では常識が違うんだから当然といえば当然だったね。僕らの世界は魔法なんて無かったし、科学がこの世界に比べると飛躍的に進歩してる世界だからね。


 で、話がズレたけど、要は何も分からなかった訳です(キッパリ)。


「ど、どうして?」


 僕が尋ねると、それぞれが口々に言った。


「どうして、と言われてもね。あたし等はアンタ等に納得がいかない負け方しちゃったから、決着を着ける為に着いていくのよ」


「だな、このままじゃ一生抱え込むモンになっちまうからな。要は子供の頃にやっておけばよかった事を大人になってから思い返す、まぁそんな事になっちまうから、それを避ける為に着いてくんだ」


「一度、どちらかが倒れるまで戦ってみたいものだね。じゃないと僕の気が収まらないからね」


「あたしはキー君について行くよ。それと、あの人の他の魔法も見てみたいしね」


 ・・・・・・つまり、全部誠の所為、って事でイイんだね? だってこれ全部誠の事じゃんか、僕なんかオマケ程度にしか認識されてなかったよ? あ、そう分かると心が痛くなってきた・・・・・・おのれ誠め、女の子までに留まらずファンまで着けるとは・・・・・・いつかこの屈辱を晴らしてくれるわ。僕は何時でもぼっちだと言うのに・・・・・・。


 心の中で家族でもあり親友でもある誠に負の呪詛を送りながらも、僕は相槌を打った。


「・・・・・・はぁ、それじゃあ僕は転送クリスタルを探してくるよ。有ると良いんだけど・・・・・・」


 実は転送クリスタルは中々市場などでは手に入りにくいのだ、便利なのだが如何せん金が掛かる。なので購入する人の大体が貴族だったり、一流の冒険者だったり、兎に角金は掛かるし市場などで出回っている数は少ないのがネックだ。


 それと誠とエーリちゃんが転生クリスタルを持っていたけれど、それは冒険者ギルドからの支給品だ。確か無料で貰えたはずだ、冒険者なら月一で支給されるんだけど・・・・・・僕は冒険者じゃないから貰うことはできない。だから市場とかで入手するしかない。


 でも手に入るかどうかは運次第だ、いくら僕が運のステータスが高いからってそれは確実なものじゃない。幸を引く確率が高いだけで、不は存在する。それは揺るがない。


「・・・・・・ちょっと待て、この人数の転生クリスタル何て揃えられるのか?」


 剣士の男が、疑問符を浮かべて僕に向かって尋ねた。それを聞いたとたん、僕は頭を抱えた。そうだよ、例え一つ入手出来てもこれだけの人数の数を揃えることは容易ではない。数としては五個、合計金額なんかは・・・・・・商人によって変わるけど、多分何百万円ぐらい・・・・・・かな?


 つーかそんなに持ってないよ、買えやしないよまったく。手が届かない予想金額に絶望を隠せない僕、これじゃ徒歩で行くことに・・・・・・馬車を飛ばしてもこっからフィンシア王国まで半日は掛かるっていうのに・・・・・・あーあ、転送魔法でもないかな? ルー〇みたいなの。でも魔法職の誠は先に行っちゃったし・・・・・・ん? 待てよ、居るじゃないか・・・・・・魔法職が二人も!


「ねぇねぇ! 転送魔法的なもの使える娘居ない!?」


 この世界には魔法が在るんだ! 転送系の魔法の一つや二つ、有るに決まってるじゃないか! この方法ならお金は掛からないし一瞬で行ける、良いことづくめじゃないか!


 けれど僕の期待は鮮やかに打ち砕かれた。


「転送魔法? あたしは使えないけど」


「あたしも使えないなー」


「ナッテコッタイ・・・・・・」


 どうしよう・・・・・・これじゃ馬車を飛ばすしかない、でももしもその馬車が無かったら・・・・・・徒歩になってしまう。うーわ! それだけは嫌だ! 


「・・・・・・馬車しかなさそうだね。それじゃ、僕は馬車を確保してくるから皆はここで待っててよ」


「気を付けろよ? 最近は何かと物騒だからな、魔物が人間に化けてたりとな。まぁお前に限ってそんな事はないとは思うけどな。それに街中だし」


 そうだ。このクローラクロスでは最近になってから魔物達が人間に化けて、人を殺す事が多くなってきている。僕もこの世界に来てから少ししか経っていないけど、噂を聞いてこの事を知った。御陰で情報屋のシャドーと知り合ったわけだけどね。


 いくら街中だとしても油断は出来ないかな、外の魔物も凶暴化してきてるって噂だし・・・・・・。これも魔王が蘇った所為なのかな? だったらいい迷惑だよ。どっかに平和主義の魔王は居ないモンかねぇ・・・・・・。


 僕は一つ溜め息を吐いた。そしてロビーを抜けて外へ出ようとした時だった。


「っ!? 何だぁ!?」


 突然扉が開いて、外から男が転がるようにして入ってきた。それによく見てみれば血塗れだ、何かあったのだろうか?


「あの・・・・・・血、出てますけど大丈夫ですか?」


 僕は直ぐに駆け寄ってその男に問い掛けた。どうやら肩をやられている様で、出血が激しい。それにしても何だろう? 刃物で切られたにしては傷が大きいし・・・・・・まるで噛み付かれたみたいな傷だ。これはもしかして・・・・・・。


 すると男は苦痛に顔を歪めながらも、声を張り上げて言った。それは悲痛な叫びだった。


「魔物が門を突破して街の中に入ってきてるんだ! もうダメだ! 皆殺されるんだ!」


 魔物が街の中に入ってきた!? しかも門を突破してきた? となると一匹じゃないのか?


「おい! 何があった!?」


 事態を聞きつけて皆が集まってくる。


「魔物が門を突破して街の中に入ってきたようです!」


「何だって!? 魔物が!?」


 僕が事情を説明していると、魔法使いのリラさんが回復魔法で男の傷を治癒する。けれど出血が収まる程度で、肩の傷は無くならない。当たり前だ、ここはゲームの世界じゃない。痛みもあるし、傷は残る。


「おいアンタ! 街はどんな状況だった!?」


 ヴァイスさんが男に問い掛ける、すると男は弱々しく掠れた声で喋り出した。


「数が・・・・・・多過ぎる・・・・・・百とか二百とかじゃない・・・・・・目視出来ない程だ・・・・・・妻も・・・・・・娘も・・・・・・皆殺されちまった・・・・・・あ・・・・・・」


 何か言おうとしたとき、男が急に力無く倒れた。


「・・・・・・気絶してるみたい」


 リラさんが確かめてから言う。それにしてもそんな数がこの街に攻め込んできたのか・・・・・・今城の兵士が必死に応戦してるとは思うけど・・・・・・多分勝てないと思う。


「どうする? 馬車なんて探している暇なんて無いぞ?」


「どうにかしてこの街を脱出するしかなさそうね」


「・・・・・・でも街に出たら魔物が・・・・・・」


 これからどうするべきなのか、僕には分からない。まさかこんな事になるなんて思いもしなかった。


「っ!? こっちに何か来るよ!?」


 頭を抱えて必死に案を考えていると、出入口のガラスから街の様子を見に行ったミントちゃんが何かを発見したようだ。僕は直ぐに片膝立ちの状態から素早く立ち上がり、そこへ行った。


 ガラスを通して街の様子が見える。確かに、何かが此方に向かってきているようだ。・・・・・・っ!? まずい!


 僕は直ぐに声を張り上げて怒鳴るように言った。


「皆逃げるんだ! 魔物の大群がこっちに来てる!!」


 ガラスの向こう側、街には大量の魔物が映っていた。人間の屍を吹き飛ばしながら此方に向かって来ている。地響きを轟かせながら、だ。

 矛盾、誤字脱字などがありましたら報告よろしくです。

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