第二十三話 フィンシア王国の異変
2012年初めての投稿になります。
遠方からもうスピードで向かってくるコウモリ型の魔物、それを倒すために俺は刀を振り上げる。そうして刀の範囲内に入った瞬間、刀を上段切りの状態から振り下ろす。すると、素早く反応して避けようとしたコウモリ型の魔物の右翼に当たった。
耳障りな奇声を上げるがそのまま振り下ろし、床に身体ごと叩きつける。そうして一度刀を切り付けた右翼から抜いて、今度は腹の部分に深く突き刺した。また耳障りな規制と共にどす黒い血が吹き出す。少々顔に掛かるが刀に込める力を緩めない。
「エーリ! 一発ぶち込んでやれ!」
「やぁっ!!」
後ろに待機していたエーリが短剣を振りかぶって現れ、コウモリ型の魔物の右翼の根元を捉える。一回では完全に切断できないため、もう一度短剣を振るって完全に切り離す。
「■■■■■ーーーーーッ!!!」
最期に一度大きく甲高い奇声を上げて動かなる。まずは一体倒した。さて、もう一体はまだこちらに気付いていないようで、天井からぶら下がっているシャンデリアの先に器用に足で掴まっている、どうやら眠っているようだ。
「くらえっ! サンダースピア!」
眠っているのを言いことに此方から先制攻撃を仕掛ける。片手から雷撃が放たれ、ぶら下がって眠っているコウモリ型の魔物を直撃した。
「ダブルブレイド!」
奇声さえも上げずに落下してくるコウモリ型の魔物に二つの斬撃を放つ。空中でダメージを食らっている状態なら避けられないはずだ。そうして俺の読みは当たり、斬撃は直撃し、コウモリ型の魔物は奇声を上げずに回転しながら通路の壁に激突した。そうしてベチャリと嫌な音を立てて床に落ちる、どす黒い血を床に広がらせながら。
「・・・・・・終わったか? それにしても何で城の中に魔物が・・・・・・?」
刀を鞘に収め、倒したばかりのコウモリ型の魔物を見て言う。普通はこんな所には魔物は湧かないはずだ、ここに居るのには何か理由が有るはずだ。例えば・・・・・・魔物を召喚する魔方陣が誰かが創って城の中に設置したか、それか魔物が自主的にこのフィンシア城に攻め込んできたか・・・・・・もしそうだったら早く姉さんに会わねば・・・・・・!
「エーリ! 手遅れになる前に早く行くぞ!」
俺は最悪の可能性を考え、それを回避するために走り出した時だった。不意に後ろからエーリの悲鳴にも似た声が聞こえてきた。
「マコトさん! 囲まれています!!」
直ぐに足を止めて振り向く、するとエーリの後ろには魔物の大群が通路を塞いで押し寄せてきた! ばっ! と上を見るとそこには先程倒したコウモリ型の魔物が少なくとも数十匹は飛び交っている! そうして今度は自身の後ろから地響きが聞こえたかと思い、瞬時に背後を振り向いてみると数々の奇声を上げて魔物が血走った目で俺達に向かってきているのが確認できた。
マズイ・・・・・・逃げ場を塞がれ、数も魔物が上回っている。これを突破するのには少々骨が折れるな・・・・・・。
俺は必死に策を考えた、最も最善の策を。そうして漸く見つかった、けれどその策には大きなリスクが伴う。だが今はそんな事を気にしている場合じゃない、思い立ったら直ぐ行動だ。
「・・・・・・エーリ、よく聞いてくれ」
俺は静かに話し始めた。それにエーリは小さく頷いた。
「今から俺が突破口を作る、そこを通ってエーリはこの城に有る二階図書室に向かってくれ。そこに黒いローブを纏って大きなリュックを背負っている奴が居るはずだ、そいつは情報屋で俺の顔見知りだ。心配は要らない、兎に角二階にある図書室に行くんだ」
「・・・・・・はい!」
時間がないんで早口で一気に説明をする。それにエーリはコクりと頷いて短剣を構えた。
さて、さきほど俺が考えついた策ってのは俺が突破口を開いてエーリに図書室に居る筈のシャドーを呼んでもらい、援軍を呼んでもらう、という策だ。けれど、もし俺が突破口を開くのに失敗でもすると、俺達は恐らく死ぬ。流石にこの数を相手には出来ないからな、広範囲の魔法を使おうとも通路が狭いし、エーリと自分を巻き込んでしまう場合がある。
なので爆発系は使わず、一直線に進む魔法を使って突破口を開く。勿論威力が高いものをだ。失敗は許されない、ここで死ぬわけにはいかない。
「クリティカルレーザー!」
掌から極太のレーザーを放つ。威力は高いし、何より急所に当たる確率が大きいのがこの魔法の魅力だ。
そうして放たれた極太レーザーは一直線に魔物の波に向かって突き進んで行き、魔物達を焼き焦がしながら一本の道を創り出した。けれどモタモタしていると直ぐにその道は閉ざされてしまう。俺はもう一発クリティカルレーザーを魔物の波に打ち込んだ。
「俺の事は気にするな! 殲滅したら俺も行く!」
作り出した突破口を走り抜けるエーリに向かってそう叫んだ、我ながら何て死亡フラグだよ。エーリは掴みかかってきた魔物を短剣でその腕を切り裂きながら、道が閉じる前にそれを通過することに成功した。
すると何体かがエーリを追いかけ出した、だがそうはさせない。
「お前らの相手はこの俺だ! アイススピア! サンダースピア!」
俺はエーリに反応した魔物達に魔法の槍を叩き込む。それが丁度魔物達の背中を捉えた様で、深々と槍が突き刺さっていた。するとその激痛に魔物達が金切り声を上げて倒れる、それが戦いの開始を告げる合図となった。
「アタックブースト! ガードブースト! スピードブースト!」
自らに補助魔法を掛けて準備を整える、そして刀を抜刀して目の前の魔物の波に突っ込んでいく。素早く切り伏せ、攻撃の暇を与えない。一匹、二匹と確実に息の根を止めていく。けれどやはり一匹ずつ倒していくのは骨が折れる、ここは一気に肩を着けるべきだ。
俺は補助魔法により強化された身体能力を使って、床を蹴って空中に飛び上がった。空中には既に飛行する魔物が飛び交っているが、いきなり俺が飛び上がってきたことに驚いて怯んでいた。その隙に魔法を唱える。
「ドラゴンスプラッシュ! サンダースパーク!」
出現した水の竜に激しい雷撃が宿る、そうしてうねりを上げながら魔物達に轟音を立てて突っ込んでいった。直後、激しい閃光と爆音が辺りを支配した。数秒間の間視覚と聴覚が使い物にならなくなるが、俺は手当り次第に魔法を連射していった。そうすればこの魔物達の波なのだから必ずと言っていいほど当たるはずだ、通路が狭くて範囲が広い魔法なら尚更の事。
何発か魔法を手当り次第に打ち込んだ後、ようやく視覚と聴覚が戻ってきた。これで状況が把握できる。俺は恐る恐る自身の両目を開いていった。
「前は全滅したか・・・・・・でも、後ろの方はまだまだって感じだな。飛んでる奴らは前の後ろも全部撃ち落とせたようだけどな」
俺は後ろで強烈な閃光と爆音に悶えている魔物達を見て、ふぅと一度息を吐いた。ここで逃げてエーリを追いかけても良いんだが、殲滅しておかないと後々厄介になりそうだからな。なら、後の為にも殲滅しておこう。
「ファイヤー!」
手を突き出すと、目の前に巨大な火柱が辺りを焼き尽くした。耳障りな金切り声はやがてポツリポツリと少なくなっていき、最後には消えていた。しかし火柱は焼き尽くしてもなおその火炎が収まる様子はなかった、けれどそれは魔物達の死骸を灰へと変えた後に小さくなっていって、最後には消滅した。
俺は警戒を解かずに辺りを見渡す・・・・・・どうやら、終わったようだ。さてと、姉さんの安否を確認しないとな・・・・・・。そう思って刀を鞘に収め、駆け出そうと足を動かした時に、それは現れた。
「っ!? 何だ!?」
突如として通路の横にある扉が破壊され、瓦礫が散らばり砂煙が舞い上がった通路にユラリ、と一つの黒いシルエットが浮かび上がった。その姿は砂煙によってよく見えないが、少なくとも友好的ではなさそうだ。
謎のシルエットは砂煙が舞い上がる通路の真ん中に立ち塞がり、此方を見つめているようだ。・・・・・・それにしても、何処かで見たようなシルエットだな・・・・・・? 頭の中で似たような姿を思い返してみる、けれどもうちょっと、というところで謎のシルエットが唐突に喋り出した。その声は低く、酷く不気味だった。
「俺はこの城に二人目の勇者が召喚されたと聞いて、手下を連れて急いで戻ってきたが・・・・・・何だありゃあ? まるでピアノ線が切れた傀儡だ。・・・・・・まぁいい、二人目の勇者は使い物にならんようだしな、先に一人目の勇者であるお前を始末するとしようか。なぁ? “ジャック”?」
砂煙が晴れ、漸く相手は姿を現した。黒いローブに大きなバッグ、そしてフードの奥でギラリと光る怪しい眼光。そう、俺の前に姿を現したのは・・・・・・
あの時冒険者ギルドで俺と出会い、クローラクロス大都市で開かれる武闘大会の情報を提供してくれた情報屋、名前以外全て謎の人物であるシャドーだ。
「・・・・・・姉さんには手ぇ出してねぇだろうな?」
俺は低い声で問い掛けた。
「まだ出しちゃいないさ、けど、お前を始末した後に殺すつもりだがな。流石に魔王様も勇者が二人いたらお手上げらしくてね」
シャドーは両手を上に挙げてそのジェスチャーをした。俺はその仕草が酷くカンに障った、だがキレる程じゃあない。
今シャドーが言った魔王様という事から、恐らくコイツは魔王の手下、魔王の軍勢に下った人間だ。コイツは俺が召喚された一人目の勇者だと知って、俺にあの時接触してきた。で、俺を始末しようとしたがそこに二人目の勇者が召喚されて先に二人目を始末することを優先した。そうして、俺をここから離れさせている間にこのフィンシア王国に攻め込んできた・・・・・・つまり俺は上手く誘導されていたって訳か。
「・・・・・・殺すのは俺達、勇者だけのハズだろ? 何で何の罪もない民間人殺してんだよ、人殺してる俺が言える事じゃねぇけどよ」
「ジャック、お前は分かってないな。簡単な事だろう? 考えても見ろ人間なんて魔王様にとってはゴミみたいな存在だ、そんなのがうじゃうじゃ居たら気分悪いだろう? だから殺すんだ、掃除と同じさ」
「はっ、よく言うな。てゆーかお前の様なゴミみたいな奴が魔王軍に居るのは場違いなんじゃねぇか? 魔王も落ちぶれたな」
「お前ら人間の方が場違いだろう、グランアースが誕生してからはこのフローリック大陸全土は魔物の地だったんだぞ? そこを人間が侵入してきたんだ、魔物を殺してまでな。誰だって腹が立つだろう? 自分達の土地に見知らぬ奴らが仲間を殺して入り込んできて、挙げ句の果てにはそこに住み着くんだぜ?」
「お前が何億年前の話をしてるのかは知らねぇが、俺達は今現代に生きてるんだぜ? 関係無いだろうがよ。それに土地を取り返せなかった魔王はどうなんだろうな? 初代の魔王は領地を取り返すのを失敗して、その次の魔王は欲張って他の領地の奪還、で失敗。それがずっと今まで続いてきて今の魔王は何なんだ? 世界征服止まりか?」
「クックックッ・・・・・・お前には分からんだろう、魔王様の目的はな。たった一つの世界を掌握したところで持て余した力はどうしようもない、ならもっと使う場所が必要だ。ということは・・・・・・?」
ここまで俺達は反ギレ状態で、声をお互いに低くしながら挑発気味に言葉を放った。だんだんとコイツと話している内にこめかみに青筋が浮かび上がってくるのがわかる。シャドーも同じだろう、互いにそういうように挑発しているのだから。
そうしてシャドーがこれまた挑発気味に放った言葉、理解は簡単だ、けれど口にするのが難しい、いや恐ろしい。子供が言えばバカバカしい、神が言えば神々しい、魔王が言えば・・・・・・そこには有るのはただの恐怖だ。
「まさか・・・・・・複数の世界を掌握しようって言うんじゃねぇだろうな?」
俺の反応に、シャドーは鼻で笑い、そしてフードの奥に有る目をギラつかせて口を三日月を連想させるように吊り上げて言った。恐怖の言葉を、絶望の言葉を。
「そう、魔王様の目的は複数の世界を掌握することだ。しかし魔王様の持つ力は強大だ、我らはそれに憧れ着いてきた! もう直ぐ、もう直ぐ始まるのだ! 魔王様、いや魔王軍の進軍が! まずはこのグランアースを掌握するために動き出すのだ! 勇者を一人でも殺せば計画は進行する、だから今ここで貴様を殺す!」
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