第二十二話 思いがけぬ出来事
ちょっとgdgdになってきたので、急遽準決勝などをすっ飛ばしてイベントを進ませました。
「俺達は武闘大会を棄権する」
その日の夜、俺は部屋に皆が集まったときにそう告げた。もちろん、英介がどうして? と言わんばかりに反論をする。
「棄権って・・・・・・何でさ? あと二回戦えば僕達は優勝できるのにさ」
それに続いてエーリも反論をする。
「サイトウさんの言うとおりですよ。どうしてですか?」
理由は分かっている、だけどこれは俺の問題だ。二人を巻き込むわけにはいかない。だがそれでも俺は武闘大会を棄権してこの問題を解決したいんだ。自分勝手だとは思っている、だけどそれほど俺にとってとても重要な事なんだ。
「・・・・・・実はさっき、ぶらぶら歩いていたら情報屋のシャドーに会ったんだ」
「シャドー? アイツに?」
「ああ、それで話があるって言うから聞いてみたんだ。で、ここからが重要なんだ。俺が召喚された城、フィンシア城に新たな勇者が召喚された、ってな」
それを聞くと二人共驚いた表情をした。そうだろう、勇者を召喚したばかりなのにまた次の勇者を召喚したというのだ。それは驚くだろう。
「それでな、その勇者ってのが黒目黒髪、美人。ここまではいい、恐らく日本人が召喚されたんだろう、でもな、その勇者の名前が・・・・・・ミサキ・キシベ・・・・・・」
「っ!? それって美咲さんじゃないか!?」
英介は座っていた椅子から立ち上がり声を張り上げた。
「そうだ、特徴も完全に一致している。俺は早く姉さんに会って安心させてやりてぇんだ、だから武闘大会は棄権する」
「わ、分かった。それじゃあ早く馬車を・・・・・・」
「待て。その必要はない」
その言葉の続きを俺は遮る。英介は訳が分からない、といった顔をする。エーリは必死に考えているが、まだ分かっていないらしい。
「俺とエーリには、この転送クリスタルがある。まず最初に俺とエーリがこれを使って城下町に行く、そしてフィンシア城へと向かう。英介はすまないが後で来てくれ、一刻も早く合わなくちゃいけないんだ」
転送クリスタルを強く握りめる、待っててくれよ姉さん、もう少しで会えるからな。俺は胸の中で姉さんの顔を想像した、あの笑顔をもう一度見てみたい、もう一度姉さんに会いたい。
「・・・・・・話は分かった。それじゃ、僕は先に武闘大会の棄権を伝えて、馬車を探してくるよ。・・・・・・早く行って美咲さんを安心させてやってくれ、彼女の心の拠り所は君だけなんだ」
英介はそう言ってから部屋を出た。アイツには感謝している、俺がいない間に姉さんを支えてくれていたんだ。俺だけが心の拠って言ってるけど、姉さんは多分お前の事も頼りにしているぞ? 前にそんな事を言っていたからな、姉さんもお前の感謝している。
「よし、エーリ。早速外に行って転送クリスタルで城下町まで行くぞ。準備はいいか?」
転送クリスタルと言えば、あの時冒険者ギルドで貰ったアイテムの中にあった奴だ。一度だけ、初めから設定されている場所に一瞬で飛ぶことができる。そのため、重宝されており。一部では数十万の値が付く程だそうだ、それを無料で支給してくれるって事は、数が多くて有り余ってるか、かなりの太っ腹なのだろう。
「はい。私は大丈夫です」
コクりと頷いて答える。今思えば、エーリは何時も文句の一つも言わずにやってきてくれていたな。今度何か奢ってやろうかな? 何時までもこんなんじゃなぁ。俺はそう思いながら部屋を出た、その後をエーリが続いた。そうして俺達は会場の外へと向かった。
「よし、ここで良いだろう」
会場を出て、空にからの月光が薄く辺りを照らす夜の街へと出た。今俺達が居る場所は、最初の通った門の近くだ。夜だというのに街道は人々で埋め尽くされている、ここが活発な街だという何よりの証拠だ。
けれど、今の俺には時間を遅らせる邪魔にしかならなかった。今の俺には時間に関わる些細なことさえも苦痛に感じる。分かりやすく言ってみれば、早く帰りたいのに放課後に残って居残りをさせられているようなものだ。
エーリに建物内じゃダメなのか? と聞くと、この街では禁止させられているらしい。何でも、強盗などが部屋に閉じこもって転送クリスタルを使われると、何処に行ったかが分からなくなるからで、街の外では許可されているらしい。
転送クリスタルは転送時に、設定されている場所の名前を言わないと転送できないみたいだ。何故かは、これはさっきの逆で、街の外なら人も居るから誰かが必ず場所を聞き取っているからだ。
「「転送、フィンシア城・城下町」」
俺とエーリは掌に握った転送クリスタルを天に掲げ、転送場所を言う。するとどんどん身体が光り輝く粒子の粒となっていき、最後は夜空へと消えていった。そうして俺達はフィンシア城・城下町へと急行していった。
真っ白な視界がやがて薄くなっていく、今まで感じていた浮遊感は既に無くなっていた。身体の感覚が戻ってくる、そうして俺はゆっくりと閉じていた瞼を開いた・・・・・・。
そこは一度来たことのある、城下町の冒険者ギルドの中だった。しかし、中には誰一人として居ない、無人だ。更には物音一つしない、何かあったのだろうか? 俺は転送が完了したエーリと共に、一度ギルド内を見渡してから、誰もいないのを確認すると、首を傾げながら外へと出た。
「・・・・・・何だこりゃ?」
「人が・・・・・・」
俺とエーリはポカンと口を開けて佇む。外に出たは良いが広い街道には誰一人として居ない、クローラクロスとは大違いだ。何の声も聞こえてこない、物音もない。ただ聞こえてくるのは何時も通りの風の音だ。
数秒してから、俺達はこの状況が可笑しい事に気が付く。いくらなんでもこんなに人が通らないのは可笑しい、何かのイベントで何処かへ集まっているのか? とも考えたが、やはり誰も通らないことに違和感が募る。
「大方、イベントか何かで住民が出払ってるんだろう。・・・・・・行くぞ、モタモタしている暇はないぞ」
「は、はい!」
俺は堂々と街道のド真ん中を歩く、それにしても誰もいないな、一体何があったのだろう? 俺は黙々と無言で歩き続けながら考えた。
最初に来たときにはもっと活気で溢れていたはずだ、それが誰一人として姿を現さないとはな・・・・・・何だか不気味だな。確かこういう静まり返った街の事をゴーストタウンって言うんだったか? この状態の街はまさにそれだ。
冒険者ギルドの中は冒険者達で溢れ、街は住民で賑わい、活気が有った。今通り過ぎたアーケードだって買い物客で通る広い道すら狭く感じた、けれど道は誰一人として歩かない。アーケードの店は全て空いていた、その代わり、本日は休業です。と書かれたプレートがカウンターの上に幾つかポツンと置かれていた。
そうして俺達は宿屋ホリープスを通り過ぎる、外からは確認できないが、ここも恐らく誰も居ないのだろう。
更に歩き続けて数分後、俺達はフィンシア城の裏口へ続く道の前に着いた。もう直ぐだ、もう直ぐに姉さんに会える。
俺は前にフィンシア城で引き起こした事件などスッカリ忘れて、自然と足を進めていた。最上級魔法メテオによる十数人の抹殺、これが世間で許されるはずがない。けれどグリード・フィンシア王は事件を引き起こした発端である俺を殺そうとはしなかった、これまで暗殺者が来たことはない、後ろから着けられているような感じもしなかった。
ということは、あちらにとっては俺達は完全に眼中にないらしい。他の所だったら暗殺者を送り込んで、俺達は今頃亡き者になっていることだろう。けれど、兵士を十数人も殺されて何の追撃もないとはな・・・・・・今になって考えてみると可笑しい点だ。
しかし今の俺にはそんな事は眼中になかった、ただ足を動かし続けるのみ。黙々と歩き続け、会話もない。聞こえるのは俺とエーリの足音と、道の横にある木に留まっている小鳥の囀りのみだ。
俺達は歩き続けた、そうして数十分後、漸く城の裏口が見えてきた。けれど、その裏口の扉は少し空いていた。まるで俺達を招き入れるように、ほんの少しだけ空いていた。
俺とエーリは旅の最初の地点となったフィンシア城を眺めていた、しかし、それで俺達は気が付くことはなかった。道の横に少量の血痕が地面にこびり着いていたことを・・・・・・。
「・・・・・・よし、誰もいないな。入るぞ」
裏口の扉を開くとき、俺はハッと冷静になり前にここで引き起こした事件を思い返していた。そうして兵士に見られると面倒なことになる、と思い。慎重に中へと入っていく事にした。
裏口を抜けた先には、メテオが残した傷跡が今だ残っていた。まだ草がちゃんと生えていないし、あったはずの木が無くなっている。城壁はちゃんと修復されているようだ、俺達がここを立ち去った後に修復作業をしたのだろう。
慎重に城の中に入る為の扉に近づく、そうして後ろにエーリが居て、周りに兵士が居ないのを確認してからゆっくりと扉を開けた・・・・・・。
「っ!? こ、これ・・・・・・!」
「おいおい・・・・・・何があったんだよ・・・・・・?」
扉の先には信じがたい光景が広がっていた。おびただしい血、そうして血の海に沈んでいるのは複数の兵士達。一人は身体をズタズタに引き裂かれ、一人は下半身が無くなっていて、一人は首と右腕が欠損していた。
辺りに濃い鉄の臭いが充満している、一体ここで何があったんだ? 目の前の惨劇にどうしようもない不快感を抱きながらも慎重に前へと進む。
死体達を過ぎると、そこからはまさに地獄の光景がさらに広がっていた。民間人が死んでいる、それも兵士と一緒にだ。女子供、年齢共に関係なく死んでいる。中には顔がぐちゃぐちゃで判別できない死体さえあった。
何故ここで民間人が死んでいるのかは分からない、ただ言えることは普通じゃないということと無差別に殺されているということだ。
自殺したならもっと小数人で済むはずだ、それに自殺したのなら顔がぐちゃぐちゃになっていたり、手足が欠損しているなんて事はないだろう。首を吊ったり、手首の動脈を切断したりして死んでいるのが自殺というものだ。それがこれだ、明らかな殺人だ。
けれどどうやってこの人数を殺害したんだ? 凄腕の剣士が乗り込んできたのなら別だが・・・・・・でもそうなると、そいつは明らかに精神が異常だ。
「・・・・・・」
エーリもこの惨劇を見て顔を青くしている、真っ青だ。かくいう俺もこれには流石に堪える、さっきから吐き気が治まらない。これ以上ヤバイのが見えたら確実に吐いちまう。
そう思い、血がなるべく見えない様に前を向いた瞬間だった。遠くに何か見える、あれは人間じゃない。別の何かだ。
「・・・・・・おい、抜刀しておいたほうが良さそうだぞ」
「え・・・・・・?」
その時、遠くに見える何かが俺達に気付いた。そうして背中に着いた翼を開いて、羽ばたかせ、生物とは思えないほどの奇声を上げながらこちらに急接近してきた!
「■■■■■■■■ーーーーーーーッ!!!」
「来るぞ! 気を付けろ!」
俺達は瞬時に武器を抜刀して攻撃態勢に入った。
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