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錬金術師の魔王討伐  作者: 水晶
~~クローラクロス大都市 武闘大会編~~
20/26

第十九話 愛は時に狂気となる

 誰よりも先に飛び出したのは英介だった。素早い動きでシーフとの距離を縮めていく。ここでシーフが動き出した、恐るべき速度で駆けていく(さま)は忍びを連想させる。そしてお互いが攻撃範囲内に入った瞬間、英介の魔剣とシーフの短剣がキキンッと甲高い音を立てながら交差した。


 何度も繰り返し交差し、お互いが互角のように思えたが、徐々に英介が押されている。やはりあのスキル≪ラッキーブレイク≫のデメリットが響いているようだ。まだエンチャントの効果が効いているとはいえ、俺が掛けたエンチャントには運のステータスを上げる物が掛けられていなかった、いや、掛けられなかった。


 何故ならそのエンチャントを掛けてしまうと、運は上がるが速度のステータスがかなり下がってしまうデメリット付きだからだ。だから速度の早いシーフと戦っている英介に掛けてしまうと、シーフの速度を利用して連続して攻撃を加えられてしまう。


 なので掛けるに掛けられないのだ、他に運を上げるエンチャントもない。英介がスキルを使って挽回してくれればいいんだが・・・・・・。


「パートナーの心配してる場合? 随分と舐めたマネをしてくれるじゃないの」


「なら待ってなくてもよかったじゃねぇか。さっさと攻撃していればいいものを、アンタはあくまで正々堂々と戦いのか?」


「何言ってるの? そっちが弱いからわざと待ってあげたんでしょ? ちなみにあたしは正々堂々と捻り潰すのが(しょう)に合ってるの、卑怯に戦ったらアンタ達何か瞬殺できるよ」


「へぇ・・・・・・? んじゃあ、弱いのはどっちだろうな?」


 我ながら安い挑発に乗ってしまったな、とは思っている。だけど俺が本気で戦えばそこいらの奴なんて敵じゃない、そう感じている。だからといって情けをかけても、弱い魔法を唱えて手加減しても自分は何も得られない、ただ一つ得るものと言えば虚しい虚無感だ。


 俺は手加減をしないためにも、後戻りが出来ない状況を己で創ることにした。もちろん、相手は強い。まだ相手の技量は未知数だ。そんな相手に弱い魔法を使ったところでもっと強い魔法でかき消されるのがオチだ。


 まずは手駒を増やそう。ホムンクルスの召喚で手数はこちらが圧倒的だ。でも今回は一体だけでいいだろう、三体も召喚するとMPが半分ほど減ってしまうからな。まだMPが半分以上残っているとはいえ、この勝負は長期戦になるかもしれない故にMPはなるべく温存していきたい。


「ホムンクルス召喚! キラーナイト!」


 地面に(いびつ)な魔方陣が展開され、一度強く光を放つと次の瞬間には蒼い鎧に身を包み、兜から見える紅い目、そして銀色の槍を手に持ったキラーナイトが姿を現した。


 俺の正面に立つキラーナイトは今か今かと命令を待ち望んでいる。己の槍を振るいたい衝動に狩られているのだ。コイツはキラーホムンクルスの中でも最強と謳われた奴だ、ちょっとやそっとじゃまず負けはしないだろう。


 俺は意を決してキラーナイトに命令を下した。


「英介をカバーしてこい! 殺さない程度に痛めつけてやれ!」


 命令を聞いたキラーナイトはガシャガシャと鎧を揺らしながら、シーフに押され気味の英介の元へ向かった。これで英介の方は心配いらないだろう、俺は負けない確かな自信があるからな。


「何でアレをバーテン服の奴に行かせたよ、こっちで戦わせた方が有利じゃないの?」


 英介を自身の槍で援護しているキラーナイトを指差しながら、魔法使いはそう言った。


「お前は馬鹿だな。英介が少しばかり押され気味だったから援護に行かせたまでさ。俺の方には必要ないからな」


「へぇ? あたしよりも自分が強いって思い込んでるんだ?」


「ああそうさ。お前より俺の方が何倍も強いからな、俺は。実際に俺が本気で魔法を唱えたらここら一体を一瞬で焦土に出来るぜ?」


 別に嘘を言っているわけではない、本当に出来るからこんなことを言っているのだ。魔法使いはそんなの嘘に決まってる、何て思ってるだろうけど、それは俺の実力を知らないからだ。


 いや、もしかしたら本当に出来るのかも、と思っていたりするかもしれん。普通の魔法使いには習得できないホムンクルスを召喚してみせたのだ。それに自分が放った火球もほぼ全て相殺されている、なら、その気にさえなれば何時負けていたかは想像に難しくはない。


「そうなんだ。でもそんなこと、あたしだってできるよ」


「どうだろうな? アンタがどんな魔法を使うかは知らねぇけどさ、俺に勝てるわけがねぇだろ」


「っ! ・・・・・・じゃあ、お前に勝って証明してみせる!!」


 そう叫び、手に握った木の杖を俺に向けると、杖の先から当たれば確実に無事では済まないと思われる電撃を飛ばしてきた。電撃はバチバチと音を立ててこちらに接近してくる。


「その程度か・・・・・・? サンダースピア!」


 刀を振るい、電撃の槍を発生させて魔法使いが放つ電撃に直進していく。そして電撃とぶつかったサンダースピアはバチッ! と一際大きな音を立てながら電撃を消した。さらにそのまま勢いが衰えることなく進み続けるサンダースピア、だが魔法使いが瞬時にバリアーを展開してサンダースピアをガードする。


「っ!! 何でこんなに威力が・・・・・・っ!?」


 サンダースピアをバリアーで防いだかと思えば、威力が予想以上に大きく驚きの表情を見せる。既にバリアーの半分にヒビが出来てきており、しかし一向に電撃の槍が消える気配はない。


 防ぎ続けているうちに、展開しているバリアーの全体がヒビに覆われていき、最後にサンダースピアがバチッ! という音がなった瞬間眩く光りだし、バリアーが破壊された。


「ぎゃんっっっっっっっ!?」


 短い断末魔がフィールドに響いた。電撃を浴びた魔法使いはその後にヨロヨロと千鳥足で数歩歩いた後、ドサッと力無く倒れ伏す。電撃による痺れの影響で時折痙攣はするが、立ち上がってくる様子はない。


 大抵の魔法使いは魔法の耐久度は高いのだが、ただ単にこちらの魔法がそれを上回っただけの話だ。レベル差が有りすぎる、圧倒的なまでの力の差。


「ふん、たった一発でこのザマか・・・・・・ダークベアーの方がまだまだ強かったぞ?」


「ダー・・・・・・クベ・・・・・・アー・・・・・・?」


 途切れ途切れで言葉と発する、声が震えており、その様子から明らかな恐怖が伺える。今目の前に映る俺はコイツから見れば悪魔に等しく見えている事だろう。


 俺はゆっくりと歩きだし、今だ地面の上に倒れている魔法使いの元へ歩を進めた。魔法使いはその足音に気が付くと顔を若干上げる仕草をしたが、まだ痺れが取れていないため全く上げられていない。


「SS・・・・・・ランクを・・・・・・倒したの? ・・・・・・う・・・・・・そ・・・・・・」


「嘘なもんか。ちゃんと証言者もいるぞ? ああそうだ、言っておくけど、補助魔法は掛けてもらったが約八体ぐらいかな? まぁ全部倒したぞ? 一回ぐらいしか攻撃喰らってないし、でもまぁ、表には出してないから知らなくても無理ないか・・・・・・」


 それを聞いてますます顔を蒼白させる。俺は魔法使いの前で足を止めて立ち止まり、そして手に持った魔銃を魔法使い(ひたい)にその銃口を突き付けた。


「今のお前じゃ俺の足元にも及ばない、もっと魔法を勉強してから来い。≪スリープショット≫、眠れ・・・・・・」


 恐怖に怯える魔法使いに突き付けた魔銃のトリガーに手を掛け、睡眠属性を弾丸に掛けた状態でトリガーを引き、撃ち込んだ。


 ズガン、一発の発泡音が当たりに響く。だが魔法使いの額には何も傷など出来ていなかった、何故か? それは麻酔の効果が有る弾丸が額に当たった瞬間に、弾丸の中身だけが魔法によって打ち込まれたからである。眠らせるだけで、殺すわけには行かないからな。


「キー・・・・・・君ごめ・・・・・・ん・・・・・・」


 強力な眠気に晒されながらも愛人に想いを告げる、しかしその言葉は彼には小さすぎて届かなかった。無情にも睡魔により(まぶた)は重くなるばかり、そして遂にはゆっくりとその瞳を閉じていった・・・・・・。


「後はシーフだけか・・・・・・っ!?」


「うおおおおおおおおおおおおお!!」


 突然横から雄叫びを上げてシーフが短剣を振りかざして突っ込んでくる、身体を横に捻り、ギリギリの所で刀で防御する。シーフの目には明らかな殺意が映っていた。


「くっ!」


 力を強めて一旦押し返す。ダックステップで距離を離すが、流石はシーフと言ったところか、直ぐに距離を詰められてしまう。瞬時に刀を構え直し、シーフとの激しい剣戟を繰り広げる。


「貴様ァァァァァァァァ!!! 俺のミントに傷を付けるなァァァァァァァァ!!!」


 素早い動きで短剣を振るってくるため、危うく喰らいそうになりながらも必死に防御している。だが少しずつかすり傷が増えてきている、何時までもこのままではいられないな・・・・・・・何とかしてこの状況を打破出来ないか・・・・・・?


「死ね! 絶えろ! 今直ぐに事切れろォォォォォ!!」


「ぐっ!!」


 考えていても仕方ない! 今は防御に専念しよう! もう少しすれば英介とキラーナイトの援軍が来るはずだ、それまで持ち堪えればこっちのモンだ!!


 俺は浅く切られた部位を手で押さえる事なく、懸命に防御をこなし、隙があれば攻撃を加えた。そして数分間剣劇をし続けて、ようやく俺は気が付いた。それはシーフに小さな隙が出来るたびに、フィールドを少しずつ目で探している時だ、一瞬だけ見えた。


 壁に寄り掛かって気絶している英介。


 片膝を着いて自身を囲むように魔方陣を展開して、回復の合図を発信しているキラーナイト。


 俺は軽く絶望して、何故二人があんな状況に? と考えたが、そうさせる暇無くシーフが短剣を突き立ててくる。それを避けて、俺は仕方なく思いシーフに問う。


「アイツらはお前がやったのか!?」


「邪魔だったから気絶させたまでだ! だが貴様は気絶では済まさんぞ! 覚悟するんだなぁ!?」


 激しい短剣捌きで白衣が徐々に切り傷だらけとなっていく。どうやら言葉では通じないらしい、なら肉体言語で分からせてやるまでだ!


 腰のホルスターから素早く魔銃を抜き取り、発泡する。だが、いとも簡単に避けられてしまう。おいおい・・・・・・銃弾さけるってお前人間かよ・・・・・・エンチャントでも掛けてなきゃ無理だろ・・・・・・っ!? エンチャント!? そうか、アイツそう言えばミントって魔法使いに開始直後からエンチャントを掛けられていたはず、なら英介やキラーナイトを倒したのも頷ける。


 それに先程までとは比べほどがない程までに強いのは、今まで手加減をしていて、俺が魔法使いを倒したのがキッカケで、怒りで俺を殺すために手加減を止めたのか。そんなに全力で殺すほど俺が憎いのか・・・・・・。


 そっちが強力なエンチャントで殺しに来るんなら、こっちだって考えがある・・・・・・! 形勢逆転の秘策がなぁ!!


「全く、お前が本気出すと厄介だな。じゃ、俺も本気出して良いよなぁ!?」

 矛盾、誤字脱字などが有りましたら報告よろしくです。

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