第十八話 まずは様子見
お互いに数秒睨み合い、既に十秒ほど経過している。そろそろ動こうか・・・・・・と思った時だった、先に魔法使いが杖先をこちらに向けて、バチバチと音を立てて電撃を放ってきた。
わざわざ避ける程でもなかったのでバリアーを展開して電撃を無効化する。バリアーに阻まれた電撃は一瞬眩く光り、消滅した。
「ちっ! 死ねぇ!」
電撃が防がれたのに腹を立てたのか、舌打ちをして杖を横薙に振るう。すると横一列に今度は野球ボールほどの大きさの火球が出現し、ズラリと並び、そして一斉に火球が猛スピードで発射され、こちらに迫ってきた。
差ほど大きくはない火球は一つ一つの対処は簡単だが、纏まっているとなると範囲の広い攻撃で迎撃する必要が生じる。
だが、俺は敢えて一つずつ撃ち落として行こうと思う。魔法ではなく刀と魔銃でな、今考えてみると片手に刀、もう片手に魔銃って言うのも中々使い勝手が良さそうだ。攻撃のバリエーションが増えるのがメリットだな。
腰に差している刀を左手で抜刀し、左手で懐に有るホルスターから魔銃を抜く。そして視界に映る火球に向かい、魔銃の銃口を構える。
良い機会だからここで一つ試してみよう、銃弾に魔法を追加して様々な属性の銃弾を打ち出す事。そして銃弾自体にエンチャントを掛けて威力を高める事の二つを今ここで試す!
「パワーブースト! ウォーターエンチャント!」
直ぐにエンチャントを二つ魔銃とその弾に掛けてやる。さて、これで準備は整った、後は引き金を引いて撃ち落とすのみだ・・・・・・!
引き金を握る人差し指に力を篭め、銃口からエンチャントを掛けた銃弾を打ち出す。まずは一発、真っ直ぐに飛んで行く銃弾は火球に急速に接近していき、火球に当たり・・・・・・火球を水蒸気へと変えた。
よし、行ける! そう心の中で叫んだ俺は、今度は迷いなく引き金を数回引き銃弾を数発打ち出すと同時に、刀を構えて火球を斬りに掛かった。
「ウォーターエンチャント!」
今度は魔銃ではなく刀に水属性のエンチャントを掛けて、火球目掛けて刀を振り下ろす。
刀を一振りすると水しぶきが上がる、水属性が入っている証拠だ。水の斬撃を浴びた火球はまたたく間に空気中に水蒸気となり消えていった。
それと同時に先程放った弾丸が火球に直撃して跡形もなく空気中に消し去る。打ち漏らした火球は二~三個だろう、まぁこれぐらい出来たなら修行の腕も鈍ってはいないようだな。
くるりと回り、魔法使いに向き直る。すると案の定化け物でも見るかの様な瞳で俺を凝視していた。そうだろう、自分が発射した数個の火球が謎の機械から打ち出された弾に蒸発させられ、今度は細長い剣の様なもので水しぶきを上げながら火球が一刀両断されてしまった。
この世界の住人にとっては俺の両手に持つ武器、刀と魔銃は見ただけでは何か理解できないのは当然だろう。見た目を知り、中身を知り、構造を知り、製造法を知り、そしてその歴史を全て知らなければ“理解”しているとはいえない。
「何なのよ・・・・・・あなた一体何者なのよ・・・・・・!」
「はっ、ただの魔法使いさ。またの名を錬金術師・・・・・・ってな」
「殺す! 死んでキー君にケガさせようとした罪を償ってこい!!」
少しおどけて言ってみる。それにまたカチンと来たのか、魔法使いが青筋を浮かべて怒声と共に大量の魔法を発射してきた。
今気づいたが、魔法使いは最初から全ての魔法を魔法名だけ言っている、つまり俗に言う無詠唱なのでかなりの手練と見てもいいだろう、最後まで油断はしないように慎重に行こう。
視界を埋め尽くすほどの弾幕、アイツの魔力は底がないのか? と思うほどの量だ。これは流石に回避しようにも流れ弾が戦っている英介に当たるかもしれない、なら回避せずに全て、一つ残らず撃ち落とすしかない。
今こうして頭で考えている間にも魔法の弾幕は迫ってきている、あまり時間はない。どうする? 余り威力と範囲がデカければ周りにも少なからず影響がでてしまう恐れがある、かと言って威力が小さく範囲も狭い魔法を使った所で撃ち落とせる数なんてたかが知れている。
ええい考えていてもしょうがない! 一気に撃ち落とす!!
「メテ・・・・・・っ!? 英介!?」
錬金術師が覚える魔法でもっとも強い魔法である≪メテオ≫を放とうとしたが、途中で突然の出来事につい魔法名を唱えるのを中断してしまう。
横から飛んできた英介は俺の前に立つと、一度こちらを向きニヤリと笑ってみせた。そしてもう一度前方の迫り来る弾幕をキッと睨むと、手に持った魔剣を構え、一つのスキル名を叫んだ。
「ラッキーブレイク!!」
魔剣が淡い白に輝き出す、到底魔王の剣とは思えないほどにまで神々しく輝いていた。俺はそれに魅入っていた、魔法使いでさえ、誰も彼もが神々しく輝く魔剣に目を引かれていた。
「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
雄叫びを上げて英介は弾幕に突っ込む、俺は突然の事に反応が遅れてしまった。だが声を出した時には既に英介は魔剣を構え、横に思い切り一閃した瞬間だった。
「え、英介! お前何を・・・・・・っ!?」
言葉を言い終わる前に、俺はその光景にまた目を奪われた・・・・・・。横に一閃した魔剣からは光り輝き巨大な斬撃が飛ばされ、直ぐ目の前にまで迫った数々の魔法を直撃した。
斬撃が直撃した魔法は花火の様に一瞬眩く光り、空中に四散した。しかし斬撃はそれだけでは止まらない、次々に魔法に当たっては四散させて、ただ前へと突き進んでいっている。斬撃はリーチが横に長いため、魔法を逃すことなく直進している。
四散した魔法の小さな結晶の様な物が辺りに静かに、優しく降り注ぐ。輝くその結晶は、人々を更に魅了した。
放たれた斬撃は魔法を消し続け、遂に一番後ろに有る巨大な光属性の球にぶつかった。斬撃は徐々に光球を切り裂いていく・・・・・・そして、光球を一刀両断した。
これには堪らず魔法使いも立ち尽くし、目を見張っている。
光球を一刀両断した斬撃は会場の天井まで切り裂くを思われたが、天井に当たる寸前でみるみる小さくなって、最後には電球ほどの大きさになり小さな光の粒となって四散した・・・・・・。
「英介、今のが・・・・・・」
「そう。今のが僕の唯一の遠距離攻撃≪ラッキーブレイク≫さ。これは武器を持っていないと発動できないスキルでね、まぁ誰でも拳と脚さえ有ればそこからさっきの斬撃が飛ばせるんだけどね。実質剣とか持っていなくとも己の体さえ有ればこのスキルを使えるのさ」
戻ってきた英介に尋ねると、魔剣を鞘に収めて頭の後ろで腕を組みながら説明する。
「まぁ当然威力も高いんだけど、その代わりに一定時間の間運のステータスが-100になってしまうんだ。僕は運が攻撃力の遊び人だからこれがマイナスされると結構痛いんだよね、与えるダメージがかなり減るから一定時間を過ぎるまで防戦一方の戦闘になるのが、このスキルのデメリットだね」
「んじゃ、その一定時間が経つまで英介はサポートに専念してくれ。小さい火球ぐらいなら魔剣の攻撃力でカバーできて、撃ち落とせるだろ? 攻撃は俺に任せな」
「分かった。早くあの“二人”を倒してくれ」
ん? 二人だと? 英介はあのシーフを無視してまで俺を守りに来たのか? 確かにあの時メテオを唱えるのを中断してしまって危険に陥ったが・・・・・・。まさかスキルを見せるためだけに行動した訳じゃないよな?
「二人って・・・・・・魔法使いとシーフか? ・・・・・・はぁ、まぁ助けに来たことは感謝するが、せめて倒してから来いよ」
「え? 助けに何か来てないよ? ただあのスキルを見せたくて・・・・・・」
ははは、と笑う英介。まさか、俺は助けられたと思ってたけど、英介はスキルが見せたいから発動したってのかよ。・・・・・・まぁ結果的には助かったからここはよしとしてやろう。
俺はやれやれと言った感じで両手を上げる。それを見て英介は苦笑した、まさにその瞬間だった。英介の後ろから大きめの氷球が迫ってきた、それに俺は素早く反応する。
「英介どけっ! バリアー!!」
状況が把握できない英介はポカンとして、その場に固まる。俺はダッシュで英介の背後に回り、バリアーを展開する。氷球は速度を落とすことなく直進し、バリアーに直撃する。重い衝撃が神経を通して伝わってくる、かなりの威力だ。
当たる寸前でバリアーを展開したが、何とか間一髪間に合ったようだ、もう少し遅ければ英介は恐らく重傷だっただろう。俺はバリアーに入った数多くのヒビを見て思った。先程の火球とはまるで威力が違う、ようやく敵さんも本気を出してきたって訳か・・・・・・。
衝撃で舞い上がった砂煙が晴れる、その先を俺は見つめる。勿論、その先に立っていたのは所々傷だらけのシーフと、対して無傷だが俺達を恐ろしい眼光で睨みつける魔法使い。英介も状況が理解できたらしく、一つ溜め息をついてから魔剣を鞘から静かに抜くと、トスッと軽い音を立てて肩に乗せた。
「相手も本気で来るみたいだね。今までのは様子見・・・・・・これから本気で潰しにかかってくる、こっちも本気で相手をしようか」
ニヤリと不敵に笑う。その姿は世界の数ヶ月前のあの時を見ているかのようだ・・・・・・。
あの時姉さんが不良に絡まれているのを発見し、偶然居合わせた英介とたった二人で数十人は容易に目視できた不良達に突っ込んだ。俺達は素手、不良はそれぞれに武器を持った状態で戦った。
辛くも何とか約半分を撃破すると、周りの不良がリーダーらしき男を呼んできた。俺達は不良を蹴散らし、リーダーの男と対峙したが、予想以上の強さで俺達は一瞬にして周りを囲まれた。もうダメか・・・・・・このまま二人共リンチにされるのか・・・・・・、そう思った時だ。
俺達が必死に戦っているさなか、スキを見て不良たちの目から逃れた姉さんは、一度表通りに戻って警察を呼んでくれていた。
ほどなくして通報を聞きつけた警察が駆け付けてくれ、間一髪、リンチで重傷を負う事は避けられた。その後簡単な手当を近場の病院で受け、帰路を歩き、家に戻った。家に帰り玄関に入った瞬間、涙目の姉さんがダッシュで俺と英介に飛びついてきた。
まぁ、当然その後にこっぴどく叱られたけどな。でも今となっては懐かしい思い出の一つでもある。
「英介のその顔を見てると数ヶ月前のあの出来事を思い出すよ」
「ああ、あれ? あの時はやばかったよね、不良がナイフを取り出した時は冷や汗ダラっだらだったよ」
「最終的にはリンチされそうになったがな」
「あの時は美咲さんに心底、惚れそうになったよ・・・・・・ってごめんごめん、そんな怖い目で見ないで~」
「・・・・・・まぁいいさ。でも今この瞬間ってあの時に似てるよな?」
一瞬、頭の上にハテナマークを浮かべた英介。そしてその意味が分かると、なるほど、といった顔で返事を返した。
「そうだね。あの時も、今回も、お互い本気で共闘したんだったね!!」
「ああ! 今回は派手にやってやろうぜ!!」
俺達は目の前に敵に向かって駆け出した。あの時、あの頃を連想させるように・・・・・・。
矛盾、誤字脱字などがありましたら報告よろしくです。
あ、そう言えばもう12月ですね。これが12月最初の投稿になりました、残り一ヶ月で今年も終わりだ!