第十七話 歪んだ愛
「優勝候補であるサイガ・ヴァイス、アリス・リラがタイムオーバーで判定負けと言うアクシデントが発生! 勝者は突如として現れたマコト・キシベとエイスケ・サイトウのコンビだぁぁぁぁぁ!! 快進撃を続ける彼らを止めるの者は果たして現れるのか!?」
どうやら優勝候補だったらしいあの戦士と魔法使い、今思えばただ断ればよかったと思っているがもう遅い。
「さてと、次はどんな相手だろうな? 少なくともここまで勝ち上がってきたんだ、それなりの力量を持ってる相手と考えていいだろう。今度は最初からエンチャントを掛ける、そして相手に戦士が居た場合即刻潰してこい、近寄られると厄介だ。もしスキルでも使ってきたらマズイ」
「分かった。じゃ、誠は魔法使いを重点的に攻撃してくれ、僕は遠距離攻撃が出来る魔法はない、でもスキルなら一つだけある、まぁ後で見せてあげるよ。他のスキルも一緒にね」
俺は静かに頷いた。それにしても英介は遠距離の魔法が一つもなくて、スキルが一つだけあるのか? てことは遊び人は近距離攻撃型のアタッカーか。殆どのスキルが近距離だとすると英介にはますます前線が向いてるな。
今思ったんだが英介ってまだスキル使ってないようだったけど、使わないんだろうか? ・・・・・・ああ、そうか。最初から手の内を見せないように使ってないのか、なるほど、英介にしてはよく考えてるな。
心の中で少しばかり感心した。まぁ何時もやらない事をするほどにこの大会で優勝したいのだろう、アイツはやるときはやる男だからな。
しかしよくスキルを使わないで持ってられたな、確かに魔剣は攻撃力が高いが・・・・・・英介は戦士に数回ほど攻撃を受けていたハズだ。それなのにあまり痛がる素振りは見せずに直ぐに反撃を開始した、となると、あのバーテン服は恐らく防御力が高いのだろう。
「ホントにスキル使わないでよく持ち堪えられてたな?」
「へ? あぁ、言ってなかったね。実は既に一個スキル使ってるんだよ、ラッキーブースターって言ってね、それを発動したら運良く攻撃力と防御力が倍になるエンチャントが掛けられたんだ。失敗したらどれか一つのステータスが半分になっちゃうけどね」
「ふーん、そうか」
倍になった攻撃力と防御力に俺がエンチャントで更に上がったから、あの戦士、サイガ・ヴァイスが吹っ飛ばせたのか? それまでは互角みたいだったが。なら、英介とヴァイスはエンチャントなしで戦ったらどっちかが力負けしてたって事か?
運が攻撃力となるが、それに攻撃力が上がるエンチャントを掛けるとどちらの攻撃力も高くなる、だが結果的には単なる攻撃力と運の攻撃力は全て合計される、と英介が控え室を出るときに言っていた。だから運の攻撃力で互角だった英介は、俺の攻撃力が上がるエンチャントで両方が合計されてヴァイスの攻撃力を上回り、あの時力任せに吹っ飛ばせたのだ。
「・・・・・・お? 準備が終わったってよ」
本日三度目のアナウンスがクリスタルから流れてくる。この第三回戦タッグ戦、俺達は今度は二回戦目らしく、少し早くここ選手入場口に来ている。
「それじゃ行こうか」
「ああ」
俺達はフィールドに向かった、優勝への道に歩を進める為に。
「アイツらか・・・・・・」
「そうだね」
フィールドに立った俺達は相手選手を見た。相手は二人の男女、男は地味な色の軽装で腰に短剣を付けていることから、恐らくシーフだろう。まぁまぁ顔はいい方だ。女は白いローブに身を包んでいて、手にはよくみる木の杖が握られているから、魔法使いだな。こちらもそれなりの美少女だ。
それにしても・・・・・・アレだな・・・・・・こう・・・・・・何というか・・・・・・。
「ねぇねぇあっち何か強そうだよ? 負けないよね?」
「大丈夫だって、負けないさ。だから安心していい」
「やっぱりキー君は頼もしいね! ますます大好きだよ!」
「おいおいこんな所で抱きつくなって、まったくミントは可愛いな」
そういって仲良さげに抱き合う二人。仲睦まじい、と言ってしまえばそれまでだが・・・・・・。それを英介の前でやらないでくれ、頼むから。
「・・・・・・あー、ホントリア充爆発してくんないかな? 何なんだろうね? 人に見せびらかして楽しいのかな? 見られて嬉しいのかな? ドMなのかな? 死ぬのかな?」
「落ち着け英介、俺達はまだ若いんだ。きっとその内チャンスがやってくるさ」
恐ろしい目付きで相手を睨む英介を宥める。今にも人一人殺しかねないほどの目付きだ、額に青筋が浮かんで見えるぞ、スゲェ怒ってるよ。
「若い? チャンス? ・・・・・・誠はいいよね、美人の姉さんが居て、学校では月に五回はラブレター貰ってるなんてさ・・・・・・」
マズイ、余計な事を言ったせいで俺に怒りの矛先が・・・・・・。何とかして回避せねばならんな、怒りに狂った英介は鬼と化すからな、前にそれで酷い目にあったんだよ、もうあの惨劇を繰り返してはならない。これだけは回避せねば、どうにかしてこの状態を切り抜ける打開策を発案しなければ・・・・・・!
と、俺が必死に打開策を考えているスキにも相手のイチャイチャは止まらない、あ、キスしやがった・・・・・・! もうやめてくれ! 英介が俺を殺しそうな目で睨んでるから!!
ヤバイヤバイ! 英介がリア充爆発しろを連呼し始めたぞ!? 何か・・・・・・何かいい打開策は・・・・・・!?
そのとき俺の脳はフル稼働し、この状況を切り抜ける名案を発案した!
「英介! この大会で優勝すればお前モテモテだぞ! それと今までお前がモテなかったのは、俺が近くでモテてたからだ! だが今回はどちらもモテモテになれるチャンスだぞ!? こんな機会を逃していいのか!? もし、もしも優勝できれば・・・・・・英介、お前は彼女が出来る!!」
ふっ・・・・・・我ながらよくやったよ。まぁこれで英介が反応してくれれば、モチベーションやらは上がって、おまけに俺からその殺気の籠った目付きを止めてくれるだろう。
俺の言葉を聞いた瞬間、英介から殺意の目付きが収まった。そして口元を三日月のように吊り上げ・・・・・・こう宣言した。
「優勝して我がモテモテになれるんなら・・・・・・まずは我が直々にキミ達を滅してあげよう!!」
英介は大声で未だに抱き合っている二人に指さしながら、どこの魔王の発言だよ、と言わんばかりの発言をした。しかし、二人はこちらにまったく気がつく様子がなく、お互いに抱きしめ合っている。そんなことを公衆の面前で堂々とやってると・・・・・・ほれ言わんこっちゃない、観客の男の一部が目の敵を見る様な目付き(先程の英介並み)で睨んでいるぞ?
「・・・・・・月のない夜には気を付けな」
さらりと今度は小声で呟いた。でもまぁ、何とか俺をターゲットから外せたみたいだ、よかったよかった。・・・・・・実は前にこれと似たような事があってだな、そんときは俺は特に止めはしなかったんだが、何を血迷ったか事の発端となったカップル・・・・・・ではなく俺に、トンデモない仕返しをしてきたことがあった。
その内容は、前に俺が秘密にエロゲとギャルゲーを買っていて、ちゃんと押入れの奥の奥にしまっていたんだ。しかし、それを英介は見つけ出し、あろうことか姉さんに渡しやがった! それを知らずにコンビニから帰ってきた俺は、自分の部屋に戻ったところ、何故か部屋に居た姉さんに俺が隠していた数々のエロゲとギャルゲーを見せつけられ、その後数時間に及ぶ説教が始まった。
そして後に英介が密告していたということを聞き、木刀を持って英介の部屋に押し行ってお命を頂戴しにいったのは良い思い出だ。まぁ、結果は俺の不意打ちで勝利を勝ち取った訳だ。
英介の行動に少し圧倒されていると、会場に試合開始のアナウンスが流れた。まずは先に英介にエンチャントを掛ける。
「死にさらせぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
エンチャントを掛け終わった瞬間に、英介が普段発しない言葉を上げながらシーフに向かい魔剣を構えながら突っ込んでいった。
さて、俺はまた魔法使い担当か。いや、あんまり近接戦闘は得意じゃないんだけどもさ。やっぱり魔法使いは同じ系統の奴らが一番やりやすいと思う。魔法同士のぶつかり合いって結構派手だし、個人的には魔法の打ち合いが一番盛り上がるんだ。
英介が飛び出すのとほぼ同時に魔法使いがエンチャントをシーフに掛けていた、エンチャントが掛け終わったシーフが目にも止まらぬ速さで腰の短剣を抜き、英介に向かい駆けていった。
「ラッキーアタック!」
英介がそう叫ぶと同時に魔剣が輝きだす。アレが英介の、遊び人のスキルなのだろう。英介が不敵に笑い、魔剣をシーフ・・・・・・では無く地面に振り下ろした。
地面に魔剣が当たった瞬間、地面に爆音と轟音と共に3m弱のクレーターが出来上がった。離れていた俺にも衝撃波が流れてくるがかなり衝撃が強い、かなり威力が強いスキルだ。
ほぼ足元に降りおろされた魔剣の思わぬ衝撃でシーフが驚きの表情で吹き飛ばされる。それを見て英介は振り下ろした魔剣を肩に担ぎ、見下すような言い方で言った。
「アンタらよく勝負の前だって言うのにイチャイチャしてられるねぇ? そんなに浮かれてたら今に足元すくわれるよぉ? あ、ちなみに魔法使いさんの方はウチの最強のエースが叩き伏せますんでそこんとこよろしく」
「・・・・・・はぁ、お前って言う奴は・・・・・・こんな時に挑発してどうする?」
英介の調子っぷりに少し呆れながらも、まぁ挑発して相手の集中力を掻き乱すのも良いだろう、と思っていた。相手がそんな安い挑発に引っかかればの話だが・・・・・・。
ところが・・・・・・。
「はっ! 言ってくれるじゃないか。逆に足元すくわれるのはアンタらかもしれねぇぜ? で、その最強のエースってのはその白衣の奴だろう?」
ヨロヨロと立ち上がったシーフが俺を指さす。白衣の奴、というのは間違い無く俺の事だろう。この大会に白衣で出場してる奴を俺は未だに自分以外見たことがない。
シーフの問いに英介が自信満々に答える。
「ああそうさ。その白衣の男がウチの誇るエース、最強の魔法使いマコト・キシベさ! 降参するなら今のうちだよ? 誠はどんな魔法でも使いこなせるからね。回復や支援だってお手の物、勿論攻撃だって出来る」
「へぇ・・・・・・そりゃあ凄いね。でも、僕のミントだって負けてないよ? 特に怒った時が一番強くてね・・・・・・」
その時、轟音を立てて何かが英介の横を通り抜け、後ろの壁に直撃した。見てみると、壁は衝撃でボロボロになり瓦礫がガラガラと崩れていく。
英介は何が起こったか理解できないと言った顔で、何かが飛んできた方向に視線を向けると・・・・・・、魔法使いが木の杖をこちらに向けて構えていた。
一歩ずつ、ゆっくりと何かを呟きながら英介に向かっている。何かヤバイ予感がする、エンチャントで強化しているとはいえ・・・・・・さっきの魔法は中々威力が高そうだった、俺が魔法使いの相手を努めるべきなのか・・・・・・。
魔法使いは英介を通り過ぎ、シーフの元へゆっくりと向かった。
「キー君、ケガはしてない?」
「ああ、吹き飛ばされただけだからな」
「そう・・・・・・よかった」
片膝を付いてシーフの肩に手を置く。だが先程とは様子が違う、少し口数が減っている気がする、それに・・・・・・心無しか殺気が感じられる。
魔法使いはゆっくりと立ち上がり英介の方を向き、言った。
「私のキー君にケガをさせようとするなんて・・・・・・許せない。絶対に許さない! お前ら何かいっそ殺して死んでも後悔させてやる!!」
そう激昂した途端、英介、いや俺達に向かって火球を飛ばしてきた。その火球はサッカーボールほどの大きさだが、驚きべきスピードで飛んできたので、俺達は少し反応が遅れて被弾してしまった。
「あっちぃ!?」
「くそっ! 英介はシーフを先に潰せ! 俺はコイツを何とかする!」
「頼んだよ!」
火球のせいでちょっと焦げてしまった白衣の着崩れを整える、そして狂ったように魔法を連射している魔法使いを睨みつける。
当たったのは最初の一発だけで、他の火球のほとんどは見当違いな方向に飛んでいく。英介が再びシーフに駆け出していったため、魔法使いが集中して火球を英介に発射する。
俺は英介から注意を引きつける為に魔法を唱える。
「ダブルブレイド!!」
刀を抜き放ち、二つの斬撃を繰り出して英介に当たりそうな火球を撃ち落とす。
「おーい魔法使いさんよ、アンタの相手はこの俺だぜ?」
「待っててねキー君、邪魔者を消してくるから」
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