第十六話 戦士と魔法使い
「さて、そろそろだが準備は良いか? 英介」
「うん。さっき自作のおみくじを引いてみたら、大吉だったよ。幸先いいね」
何時の間に作ったんだよ、お前今の今までずっと俺の隣に居ただろうが。
「お前の場合は運のステータスが高いから、高確率で大吉を引き当てるだろう」
「ま、そうなんだけどね」
ははは、と笑う英介。
エーリの弁当を食べ終えた俺達は、再び選手入場口付近で三回戦の開始時間を待っていた。ステータスウィンドウを開き、時刻を確認する。・・・・・・どうやら後五分程度で第二回戦タッグ戦の三回戦が始まるようだ。
先程の一回戦と二回戦は、中々に白熱した戦いが展開されていて、観る側としてもとても緊張感があった。その中を勝ち上がった者と、俺達はそのどれかのチームと第三回戦で対峙する事となる。第三回戦ともなると、一筋縄では行かなくなる。
現に第一回戦の段階で弱いものは蹴落され、強いものが上へと勝ち上がっている。戦いの経験が少ない冒険者に百戦錬磨の強豪が相手となってしまった場合は、勝てるはずもなく、惜しくも敗退した者達も少なくない。
「相手が俺達の攻撃に耐えられるように祈っとけ。でも強すぎても厄介だがな」
「そんな人間居るの? 居ない気がするんだけど・・・・・・まぁ、一応祈っとくよ」
ダークベアーが俺の攻撃に数回耐えられたのは、俺の攻撃力が低かったからだと思う。恐らく魔法だったらほぼ一撃で仕留められていただろう。
腹が満腹になった事で薄い眠気が来た為、一つ欠伸をする。それとほぼ同時に掌の中にあるクリスタルからアナウンスが流れだす。
俺達はアナウンスが終了すると、第一回戦と同じようにお互いの拳をコツンと打ち鳴らし合った。そして眩しいほどに光が差し込むフィールドへと歩きだす。
フィールドに出ると、煩いほどにまで大きな歓声が俺達を出迎えた。真っ直ぐに前を見つめると、馬鹿デカい大剣を肩に背負ってゴツゴツした防具に身を包んだ男。その隣には紫のとんがり帽子を被り、同じく紫色のローブを纏い先に紅い球が付けられている杖を持ちながら歩いて居る女が居た。
「どうやら次の相手はあの人達みたいだね」
「ああ。見た感じ強そうだ、油断はするなよ?」
「分かってるさ」
双方の距離が十メートル前後になると、互いの足を止めた。彼方は此方をじっと見ている、恐らく外見の観察だろう。だが、それだけでは何の意味も成さないのを彼方も分かっている。外見が不良っぽいって言うだけで喧嘩を吹っかけるかどうかを考えている、そんなモンだ。
結局人間は外見だけで見極める事ができない、人間は内面で見極める必要がある。見ただけでどれぐらいの強さか分かったなんて、そんな事で出来る奴なんざこの世に存在しないのさ。人のポテンシャルなんて中に潜んでいる物なんだから。
刀を鞘から抜き、静かに構える。黒い鞘から銀色に輝く刀身が姿を表した、その光は眩しくも頼もしくも見えた。英介も既に魔剣を構えており、相手も既に自身の武器を構えている。
それから数秒経った時、試合を開始する合図が会場内に響いた。
『第二回タッグ戦三回戦、開始ぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!』
そのアナウンスが轟くと同時に観客からの凄まじいまでの熱狂が会場を呑み込んだ。
開始と同時に既に英介が飛び出していた、目標は戦士のようだ。先に脅威となる高い攻撃力の戦士から潰して、後にじっくりと確実に魔法使いの方を落とす気だ。なら、こっちは魔法で援護しながら魔法使いを攻撃していこう。
「ファイヤーブレイド!」
刀を振り下ろし炎の斬撃を飛ばす。三日月の形をしたそれは相手の魔法使いに直進していき、直撃した・・・・・・かのように見えた。当たる寸前で何かに防がれたようだ、大体予想はつく。バリアーだ。
だが防いだと言っても完全には防ぎきれなかったようで、バリアーは衝撃でヒビだらけだ。魔法使いは予想外の威力に危険だと判断したのか、俺に複数の火球を発射してくる。
それを避けようとはせず、バリアーの一種である魔法をそのまま跳ね返すバリアーを展開した。
「ミラーバリアー」
俺に当たると思われた火球は、ミラーバリアーによって跳ね返され逆方向へと逆進して行った。しかし、それらはあの魔法使いが新たに放った水球によって蒸発させられてしまった。それも一発も撃ち漏らさずにだ。
あの魔法使い・・・・・・余程コントロール性能が高いのか、こりゃ厄介だな。遠距離から近距離型の英介をスナイプされたら一溜りもないぞ。早めに潰すのが良さそうだな、残しておいても何のメリットも無いみたいだし。
「誠っ! 早くエンチャントを掛けてくれ!」
一旦下がってきた英介に急かされる、それに反応して素早くエンチャント魔法を掛ける。
「おうよ! アタックブースト! ガードブースト! スピードブースト!」
攻撃・防御・速度がアップするエンチャントを掛ける。どれも効果が高いし、効力が長い。これでしばらくは大丈夫だろう。
再び英介が先程とは段違いの速さで戦士に向かい駆けていった。勿論、俺も魔法使いから目を離していない。相手の技量は未知数だ、何を繰り出してくるか分からない。
自分に注意が向けられていないのかと思ったのか、魔法使いがここぞとばかりに魔法を次々と発射してきた。炎・水・雷・氷・風、とそれぞれ五属性の魔法を打ち込んできた。
こればかりは流石に一つずつ属性に合わせて相殺していく余裕はない、上級魔法で一気に消し飛ばそう。爆風で戦士をも巻き込めるかもしれん。やってみよう。
「化学反応!!」
化学反応。両手から混ぜると大爆発を引き起こす薬品を液体を出現させ、標的付近で薬品を混ぜ合わせる事により、化学反応を起こし大爆発を引き起こす。なお、この爆発は威力が高いため、自身が巻き込まれると一気にHPを持って行かれる。そのため常時、距離と周囲には常に気を配る必要がある。
宙に出現した液体、それを見て魔法使いがバックで距離を取っていく。だが爆発には巻き込まれずとも、爆風には巻き込まれるので、こっちはダメージ覚悟でこの魔法を選んだ。英介には予めこの内容を伝えている。
「もう直ぐ爆発するぞ! 下がれ!!」
「オーケー! っと! こっち来んなし!!」
「ぐはぁっ!!」
大剣を振りかぶるモーションで直ぐ近くまで来ていた戦士、それを間一髪魔剣でガードし、押し返し強烈な突きを戦士の腹に叩き込んだ。
吹き飛んだ戦士は二~三回地面を跳ねて、漸く止まった。だが・・・・・・その近くには混ざりきる直前の液体。マズイ、このままじゃ爆発に巻き込まれて最悪死ぬぞ!?
だが、そう思った時には遅かった。液体は混ざりきり、一瞬眩く光りそして化学反応を引き起こし轟音と共に大爆発を発生させた。
「っ!!」
「わあああああああああ!!?」
大爆発によりもう凄い爆風が俺達を襲った。いやこれだけの威力だ、あの二人は勿論、恐らく観客席にまで届いているはずだ。爆発をモロに喰らうよりはマシだが・・・・・・あの戦士、この爆発で生きてるかどうか・・・・・・。
必死に激しい爆風を耐えきる。未だに飛んでこない先程の五種類の魔法は消滅したようだ。またしばらくして漸く爆風が無くなった。爆発地点は砂煙が立ち上っていて様子が伺えない、砂煙が消え去るのを待とう。
・・・・・・何秒経っただろうか? 爆風が止んでから今まで会場が静まり返っているので、声一つ聞こえない。誰も喋ることが出来ない。何故ならそれは皆砂煙が晴れる瞬間を、固唾を呑んで見守っているからだ。
やがて砂煙が薄れていき、二つのシルエットが浮かび上がってきた。
「ったくよぉ・・・・・・最近のガキは危なっかしいったらありゃしねぇ」
「まぁまぁ。でも、手応えがありそうじゃない? 少なくともあの研究員みたいな奴、あたしより強いかもしれないっぽい」
観客がどよめきの声を挙げる。当然といえば当然の反応だろう、あの爆発を防ぎきって尚且つ生存しているのだから。しかしあの魔法使い・・・・・・化学反応は上級魔法で最後らへんに習得できる魔法だぞ? ただでさえ威力が高いそれを防ぐなんてよ・・・・・・よっぽど強力なバリアーでも張ったか、或いは何らかの方法で身を守ったか。
戦士をあの距離からどうやって守ったのかも疑問だ、少なくとも数メートルはあったはずだ。それをあの一瞬でどうやって移動した? ・・・・・・ああ、そうだったな、ここは魔法が使える世界だ。こっちの世界じゃ有り得ないことを平然と出来る、そんな力がある世界だ。このグランアースってのは。
だとすると、ワープ系の魔法で戦士の下まで移動し、強力なバリアーを即時に展開して爆発と爆風を凌ぎきった。しかしあの一瞬でよくもそんな早業を・・・・・・。
「あぁ? お前より強いだぁ? あの白衣の奴がか?」
「多分ね、見たこともない魔法だから。それにあたしの魔法も相殺されてたからね」
「そりゃあただ単にお前が弱いだけじゃねぇのか? あ、ごっはぁ!?」
戦士の男の顎に魔法使いのアッパーが綺麗にヒットした。
「舌噛んじまっただろうが!」
「誰が弱いって!? もう一回言ってみろ酔いどれオヤジが!」
「なっ!? おま、何時も俺が酔った時にナンパしてると思ってんのか!?」
「事実でしょうが!!」
「断言すんな! 証拠は何処だ!?」
「まだ探せば居るんじゃないの? アンタが昨日ナンパした酒場の女の子!!」
俺達そっちのけで喧嘩を始め出した二人。俺達は何をすればいいのか分からず、顔を見合わせる。
「俺ら何をすれば?」
「終わるまで待ってあげようよ。でもあの調子じゃ何時までかかるか・・・・・・」
あの二人の喧嘩は更にヒートアップしており、既に魔法使いが魔法を打ち込んでおり、戦士はそれを避けたり大剣でガードしたりで、周りに人が居れば死人が出かねない喧嘩・・・・・・ではなく最早決闘だ。
その二人の喧嘩を何となく見つめていると、時折流れ弾がこっちに来るので。俺達は避けたり相殺したりしているのだが、中々終わる気配がない。何時終わるのだろうか? もう十分は過ぎているんだが・・・・・・。
観客も状況に着いて行けず、疑問の声を挙げるばかり。あれほど熱かった実況者も、今はこの状況にスッカリ冷えてしまっている。
「・・・・・・これって制限時間ってあるのか?」
「・・・・・・あ、もう終わりだ」
ステータスウィンドウを開いた英介がそう呟いた。そして、数秒して実況者が時間に気付き試合終了を告げた。
「おいそこの二人! もう一回勝負だコノヤロー!」
「そうよ! 決着を着けるのよ!」
エーリと合流して控え室に戻った俺達。エーリが言うには観客側からは状況があの爆発の後二人が生きていて、その後争い始めた、と。
そして取り敢えず試合が終了し、控え室に戻ってしばらくするとクリスタルからアナウンスが響き、試合で俺達が優勢だった事から、俺達の勝利らしい。納得がいかないのは英介も同じらしい。折角マトモに戦える相手が居たと思ったら喧嘩初めてタイムオーバーで判定勝ち。
それが納得いかないのは彼方も同じみたいで、クリスタルからアナウンスが終了した瞬間に、こうして控え室の中まで押し入ってきた始末だ。
「いや、確かにこっちも納得いかなかったけどさ。時間内からこの大会が終わった後にでも・・・・・・」
「断る!!」
「断固拒否!!」
「・・・・・・はぁ、どうする誠?」
どうする? と言われてもだな・・・・・・そりゃあ時間ないし、大会が終わってからにしてもらうしか無いだろうよ。
その後、数十分に及ぶ説得の末、結局大会が終わってからに勝負する代わりに大会では優勝すること、という条件付きで納得してもらえた。
これの御陰でロクに休めずに次の戦いに出る事になってしまった。あ~、仮眠取りたかったんだけどなぁ~・・・・・・。
空は夕焼けの空、まだ遠いが魔の手は迫りつつある。それは何かを奪っていく・・・・・・。
矛盾、誤字脱字がありましたら報告よろしくです。