第十五話 好調なスタート
『さぁ! 第一回戦ソロバトルが終了し、お次は第一回戦タッグバトルだぁぁぁぁぁ!!』
アナウンスが会場に轟き、それに答えるかの様に観客が歓声を上げる。ソロバトルで勝ち残った総勢、十名が第二回線ソロバトルで戦い。そしてこの第一回戦タッグバトルで勝ち残ったタッグが次の第二回戦タッグバトルに進出できる。
予定では今日中に準決勝まで進み、明日には準決勝と決勝戦が執り行われる様だ。順調に、トラブルの一つも無ければの話だが・・・・・・。まぁ、兵士が巡回して回ってるし、余程の事が無いと大会に支障はなさないだろうけど。
「誠。一回戦は僕たちだ、精々派手にやりたいもんだね」
「派手にやったら相手がもたねぇだろう? チマチマやろうや。状態異常何か掛けてさ」
「あ~、そういやぁ誠って状態異常とか掛けるの好きだったよな」
「そうだな。まずは状態異常で自分が有利になる状況を創ってからだと、安心して攻撃を始められる」
選手出場口の奥で今か今かと開始の合図を待っている俺たち。第一回戦に当たったものの、緊張しすぎては動きがぎこちなくなってしまう。まぁ俺達はあんまり大勢の人の前に立ってもこれといって緊張はしないタイプなんだけど、待ち時間が少しあるという事で気楽に話していた。
俺達、いや、選手全員は戦う相手が誰だか知らされていない。運が良ければ弱い相手、運が悪ければ強い相手と対峙する事となる。何にせよ、戦うまでは相手の正体は分からないため、どんな敵が相手でも良いように様々な攻撃パターンの予測、さらに相手が魔法を使ってきた場合の対処法など、色々と考えてから試合に望む必要がある。
だが、深読みをしすぎて相手の弱点を付く戦法で戦ったが、逆に此方の弱点を相手に晒してしまってピンチに陥る事もある。でも実力差がある相手とは、ゴリ押しでも何とか行けることも有る。
『準備が整いました。フィールドへ入場してください』
通信クリスタルと呼ばれる物から、無機質な女性の声が流れる。通信、とはいっても電話の長話の様に時間は取れない、精々五分が良いところだ。
「英介、調子に乗って魔剣振り回して俺に当てるなよ?」
「へへ、そっちこそ。魔法で巻き込まないでくれよ?」
互いの拳をぶつけてコツン、と打ちならし合う。そして俺達は互いにニヤリと薄笑いを浮かべて、会場の光が漏れているフィールドに向かった。
圧勝。完璧なまでの圧勝だった。もはやリンチの域だ。まぁ説明すると、相手は如何にも『冒険者始めました』と思わせる様な装備で現れた、もしかしたらそう見えるだけでかなり強いのかもしれない、と俺達は思い英介のスキルと俺の魔法を試しにぶっぱなしてみたのだが・・・・・・、どうやらホントに初心者だったらしく二人共この一撃でやられてしまった。
たった数秒で終わった勝負に実況者も、審判も、観客さえもが沈黙した。誰もが声一つ上げない場で、約一名空気の読めない奴が居た。
「よっしゃ勝った! ちょろいモンだねぇ~このまま優勝狙っちゃう? あ、もう狙ってるか。ははははは!!」
「・・・・・・」
英介の笑い声が虚しく会場内に広がった。
ほどなくして、正気を取り戻した観客から拍手喝采が沸き起こった。審判は俺達の勝ちを高らかに宣言し、実況者は興奮した様子で熱く俺達について語っていた。
次に俺たちが出るのは第二回戦の・・・・・・三戦目だったか? まぁ、そんな訳で結構時間も空いたので休憩がてらに控え室に戻った俺達。その道中、観客席から此方に来たエーリと合流して三人揃って戻っていった。
人でごった返している廊下を何とか抜けて、やっとの思い出控え室へとたどり着いた。室内に入ったと同時に仮眠用のベットにダイブする俺。続いて英介も隣のベットへとダイブした。
「あー、強すぎるってもの何だかなぁ・・・・・・」
「凄かったですからね、マコトさんの魔法とサイトウさんのスキル」
「ん? そういえば気になったんだけどさ、スキルって皆使えるのかい?」
ベットに寝そべったまま、英介が銀縁メガネを外してハンカチでレンズを拭きながら聞いた。
「いえ、使える人と使えない人が居て、高価なスキルブックって言うのを買って読まないと使う事は出来ないらしいです。なのでサイトウさんはスキルを使えていましたので、凄く珍しい人何です」
多少角張った木製の椅子に座ったエーリが答える。ちなみにエーリは魔法使いの上、所謂賢者を目指していた頃があったらしく、その頃に大量の本を読み漁った為か学者並みの知識は持ち合わせていると言っていた。
「珍しい? それってスキルを使える人が少ないのかい?」
「はい。恐らく使える人は・・・・・・千人に一人程度、ですかね?」
「おお~、って事は僕と誠は千人に一人の逸材?」
「そう言う事になりますね」
千人に一人、か・・・・・・。このグランアースにどれくらいの人間がいるのかは知らないが、偶に見かけるぐらいに認識でいいのか? 少なくともこの大会で何人かは見かける事になるだろう。だが、スキルを持っていたとしても、使いこなせないのではまったく意味がない。
攻撃力を一時的に高めるスキルを持っていても、それを防御する場面で使っては意味がない、そんなとこで使う奴はいないと思うがな。子供以外。
おっと、スキルについて簡単に短く説明しておこう。スキルは魔法・固有能力とは違い、使用する回数を制限する概念が無い。使用者が使える状態である限り、何時、何処でも使用する事が可能である。
また、スキルの効果を高める防具も存在する。魔力を高めたりする防具よりはちょっと値段が張るが・・・・・・。と、まぁスキルってのは魔法とは似てるけど別物って感じだ。
「まぁ、この大会で何人は見かけるだろうさ」
「そうだろうね。中には回復や補助系のスキルを使う奴も居るだろうから、気を付けないとね」
「ああ。でも俺は魔法が使えるからな、攻撃に回復に補助と多種多様にどんな状況下に置いても抜群の効果を発揮できる」
ベットに横になっている俺、だがこのままだと眠ってしまいそうだ。現に微妙だが眠気が迫ってきている。第二回戦ソロバトルが終わり、次の第二回戦タッグバトルで俺達の出番は二番目だ。後早ければ一時間で順番が来るだろう。
横になっている状態から起き上がり、ベットの上に座る。・・・・・・そろそろ昼か、今の内に何か食べておきたいな。腹が減っては戦は出来ぬって言われてるぐらいだし・・・・・・。
「腹減ってきたな・・・・・・英介、ここに何か食べ物売ってる店は有ったか?」
「う~ん・・・・・・、あ、そうだ。確か一階にレストランっぽいのが有ったよ。結構客が入ってるみたいだったからそこそこに美味いんじゃないかな?」
「よし、決まりだな。そこに行こう」
「そうだね」
俺と英介は立ち上がり控え室を出ようとした。
「あ、あの! これ!」
「ん? 何だ?」
振り返ると、エーリが箱の様な物を此方に向かって差し出していた。箱は風呂敷に包まれており、箱の中身が何なのかは分からない。
「え、えーと・・・・・・これって?」
「お、お弁当・・・・・・作って見たんです・・・・・・もし宜しかったら、食べてみてくれませんか?」
「あ?」
「え?」
俺達はマヌケな声を出して、思考が停止した。きっと今の俺達の顔は口を開けて、恐らく滑稽な顔になっているだろう。
弁当。と言う事は恐らく手料理、何時の間に作ったのかは分からない、だがありがたいな。わざわざ値段が張るかもしれないレストランに行って食べるよりは、こっちの方が良い。値段が安いし、何より心がこもっている。
他人の弁当を食べる事になるなんて一体何時振りだろう? 何時も姉さんと英介の分まで作って食べていたのだが、結局は自分のを食べていた。姉さんはハッキリ言うとあまり家事が得意では無かった。卵焼きは焦げて灰になるし、塩と砂糖を間違えて甘ったるい弁当を食わされたのは今となっては良い思い出だ。
要は、他人の弁当を食える何て思って無かったわけで、俺達男子二人組は二人揃って変な声を出して思考が停止しているわけだ。
「弁当? エーリのか?」
「は、はい・・・・・・」
「何時作ったんだい?」
「えっと、今日の朝方に・・・・・・」
「「・・・・・・」」
二人してお互いの顔を見合わせる。こういう場合は素直に受け取れば良いのだろうか? それとも断るべき? いやいやいや後者は人としてどうなんだ? 後者何て選んだら俺の人間性が疑われるぞ? という訳でナシ。
で、必然的に前者が残る訳だ。素直に受け取る、・・・・・・いや普通に有り難いんだが、如何せんどう反応すればいいのかが分からない。なので取り敢えず脳内で幾つか例を挙げてみる事にする。
その一、『お、おう。あ、ありがとうな』
その二、『え? 何? 弁当? それって俺達にくれんの?』
その三、『おお! 弁当か、早く食べようぜ。腹減ってたし』
う~ん・・・・・・まずニは無いな、反応が最近の若者だ。次は一、これは至って普通なんだが、どもってるな。緊張してるのか、下手すれば下心が有ると勘違いされかねない。最後に三、まぁこれが無難だろう。って事で三に決定、三を実行に移す事にしよう。
「おお! エーリの弁当か、そんじゃ早く食べようぜ? 俺腹減って死にそうなんだよ・・・・・・」
「僕もだよ。それにしてもエーリちゃんの手作りお弁当かぁ~、美味しそうだね。早く食べたいよ」
「えへへ・・・・・・こう見えても家事は得意中の得意何ですよ? 特に料理が得意だったりします」
料理が特に得意、じゃあ味の方は心配無さそうだな。もし有り得ないほど不味かったらどうしようかと少しばかり思ってたけど、そんな心配は要らなかったみたいだな。
丁度椅子が三個有ったので、そこに三人共座る。席に着くとエーリが風呂敷に包まれた弁当箱を結び目を解き、弁当箱の蓋をカパッと言う音と共に開いて、弁当箱の中身を露にする。
「「おお~!」」
俺と英介は揃って歓声を上げる。大きめの弁当箱の中に、ギッシリと具が詰め込まれていた。定番の卵焼きに唐揚げ、ズラリと並べられたおにぎりとサンドウィッチ、そして端っこの方にたくあんが数個詰められている。
弁当の中身は日本とほぼ変わらなかった、数日見ていないだけなのだが凄く懐かしい感じがする。特にたくあん何て有ったのか? でももしかしたら似ているだけで違う物かもしれない、他も同じ様に。だが食べてみれば分かる事だ。
見た目も良く、食欲をそそる。匂いも実に美味そうだ。俺は口の中に何時の間にやら溜まっていたヨダレをゴクリと喉を鳴らして飲み込む。
英介何か目をキラキラさせながら弁当を見つめている。俺達の心境を察してくれたのか、エーリが木製の箸を二人分差し出す。それを俺達は瞬時に取り、弁当の具に向かって箸を伸ばす。
俺はまず唐揚げから食べてみる事にした。箸を使い唐揚げを口に運び、食べる。
「ど、どうでしょうか・・・・・・?」
数回ほど噛んでから飲み込む。そして素直な感想を述べる・・・・・・。
「「最っ高だ!!」」
「美味い! 美味いすぎる!! これ程まで美味い物を俺は食べた事がない!!」
こんな美味い食べ物がこの世に存在していたのか!? これは俺の味を超えたぞ!?
「完璧だ! 素晴らしい! パーフェクトだ! 味付けがGJ過ぎて涙が出てきたよ・・・・・・!!」
「そ、そんなに美味しかったですか? なら作った会がありました!」
ニッコリと笑い、飛びっきりの笑顔を魅せるエーリ。その間も俺達は弁当の中身を食べ続けた。そして一通り食べ終えた俺達は、エーリの分を残して完食した。
「いや~美味かったな」
「うんうん。美味しかったよ」
「そう言って貰えると嬉しいです。あ、また機会が有れば作ってきましょうか?」
「「是非!!」」
「ふふっ、分かりました。今度作ってきますね」
空腹を満たした俺達はその後雑談を初め、次の第二回戦タッグ戦の開始を待った。
だが、闇はゆっくりと近づいている・・・・・・。光を飲み込むように、それはまるで日が沈み、夜が来る様に・・・・・・。
矛盾、誤字脱字などがありましたら報告よろしくです。