第十話 ギャンブル
「止まれ、よし、積荷を確認しろ」
門に着くと衛兵の指示で馬車が止まる、馬車の積荷を確認するため衛兵の一人が布を捲って中の様子を確認する。中は俺とエーリと最初から積まれていた物資しか無い、取り敢えず俺達は最低のFランクである灰色のギルドカードを取り出し、衛兵に見せる。衛兵はそれをしばらく見るとカードを俺達に返し、先程馬車を止める様指示した奴の所へ行った。
「ふむ、ようこそ、クローラクロス大都市へ」
これで俺達は都市の中に入れた、門の先には人々が賑わいを見せており、とても活気がある。馬車が進むと自然と人々は避けていく。前方には大きな噴水が有り、多数の人々がベンチに座っていたり、噴水を眺めていたりしている。都市の風景を眺めていると一件の宿屋を発見した、看板らしき物には『癒しの宿』と書かれている。馬車を降りてその宿屋へ入っていく。
「いらっしゃい」
受付にはおばさんが宿帳らしき物に何か書き込んでいるようだった。取り敢えず受付のおばさんに話しかけて三日分部屋を借りる事にした、懐から手を突っ込んでGを取り出す用意をする。
「二人分で50Gだよ」
「あいよ」
懐から手を出してGを渡すと同時に鍵を受け取る、今回は前回の様な失敗はしない、ちゃんと二人分部屋を借りた。片方の部屋の鍵をエーリに渡して二階の部屋に繋がる階段を登っていく。そして階段を登りきるといくつもの部屋の扉が見えた、鍵に付いていたタブの番号3号室と書かれた物と同じ部屋を探す。3と書かれた扉を見つけて鍵を開ける。ちょうど隣の4号室がエーリの部屋らしい、用があったらそっちに行く、と伝えて俺は部屋に入った。扉を閉めて、鍵をする。腰に掛けていた鞘ごと取り外してベットの横にポツンと配置されている小さなテーブルに置く、そして横に有る椅子に腰掛ける。ふぅ、と一つ溜め息を吐く。
「英介・・・・・・」
この大都市の何処かのカジノバーにアイツは居る、今直ぐにでも会って話をしたい、俺が死んだ後どうなったのか。それを聞きたい、そして姉さんの事も。一応姉さんとは血は繋がっていないとはいえまだ一緒に住んでいた筈だ、姉さんも一人暮らしはしていなかったし。俺が死んだ事で姉さんに何かあったとしても英介が何かしてくれている筈だ、アイツは重度の博打好きとはいえ知り合いが困っている時は文句の一つも無しに助ける奴だからな。
姉さんに何かあったら英介の奴が何とかしてくれているだろう。さて、ここで休んでいても何も始まらない、今日やるべき事は早めに終わらせてしまおう。ええっと、まずは英介の所に行って、それが終わったら武闘大会のエントリーを済まして、最後にエーリと、来れれば英介も一緒にこの都市の観光をしてみよう。
「とはいえ、そのカジノバーってのは一体何処にあるんだろうか」
手当り次第に聞いて回ってみるか? 有名な店だったらそれなりに知名度があるかもしれない。まだお昼過ぎ位だが、早めに探しておくに越したことはない。俺は椅子から立ち上がりテーブルの上に置いておいた魔剣を取り、腰に付ける。そのまま部屋を出て鍵を掛ける。そしてエーリの部屋の前に行きこれからちょっと出かけてくる、と伝えたが何故かエーリが短剣を装備した状態で部屋から出てきた。エーリも何処かに行くのか? と聞くと。
「私もマコトさんと一緒に行きます!」
と言う事らしく、何故だか一緒に行動することになったエーリと共に宿屋を出た。
真上にあった太陽も、今は空をオレンジ色に染め上げながら沈んでいく。あれから俺達は手当り次第にカジノバーに付いて聞いて回ったが、場所は分からなかった、聞けたのはそういう店があるかも、と言う噂。それもこの都市のカジノの地下への入口でヒラケゴマと唱えると目の前に扉が現れ、入ってみるとそこはカジノバー・・・・・・何だとか。まるで信憑性のない都市伝説を聞いているかの様に最初は聞き流していたが、それと同じ、またはそれと似ている物を何度も聞いているうちにだんだん本当にあるのでは無いのか? と言う気がしてきた。
しかし依然として場所は分からないままだ、ここは都市伝説みたいな奴でもやってみるか? カジノの地下でヒラケゴマって唱えるんだったか? ・・・・・・どうにも胡散臭いな、だが、この世界には魔法やスキルがある世界だ、確かゴースト系の魔物は出るとエーリが言っていた。なら都市伝説の一つの二つ、有ったって何ら可笑しくはない筈だ。
「ここがカジノか・・・・・・」
俺がそう呟き、豪華な装飾が施された看板をまじまじと下から見上げる。カジノの入口にはお馴染みのバニーガール・・・・・・では無く厳つい顔にグラサンをしたガードマン二人が端に立っている。流石に未成年は入れないのだろう、ガードマン二人がエーリの様子を伺っている。
「悪いな、こんな事に付き合わせちまって。俺はこの中を調べるからエーリは先に宿屋に戻っておいてくれるか? そうは遅くならないとは思うけど」
「いえ私の方こそ勝手に着いてきてしまって・・・・・・」
慌てた素振りで両手を振る、しかし依然としてガードマン二人は此方の様子を伺っている状態だ。
「先に宿屋に戻ってもやることがありませんし・・・・・・そうだ! 私近くのお店を見てます。ですから用が済んだら声を掛けてください、それじゃ」
少し早口でそれを言い切ったエーリは、道具屋と書かれた看板の店へ白いワンピースと腰まで届いた金髪を揺らしながら小走りで走っていった。一方、それを見送った俺はカジノの入口に身体を向けて、中に入る。エーリと別れた事でガードマンの警戒も解けた様で俺が中に入る時「ようこそ」と一言言ってくれた。
「おお、結構人居るなぁ・・・・・・」
天井には豪華なシャンデリア、真っ赤な床、受付のバニーガール、スロットが回る音、賭けに勝った男の雄叫び、如何にもカジノらしい。俺の足は自然と受付へと向かっていた。目的を忘れ、残り全額のGをアイテムウィンドウから出す。それを受付に置き、コインと交換してもらう。
「いらっしゃいませー、コインとの交換ですね? 少々お待ちください」
付けているウサ耳をひょこひょこ揺らしながらGとコインとを交換し、黒く四角いコインケースにコインを入れて俺の前に置く。これでボロ負けしたら魔結晶を売りに出すしか・・・・・・てゆーかあのクエストSSランクの奴を八匹位倒したけど秘密にしてるからな・・・・・・だが実質Fランクのあのクエスト報酬が1500Gとはどういうことだ。
しかも納品アイテムを渡してもこの報酬額、ちまみにゴブリンの棍棒とか言う奴納品した。さて、見たところスロットと闘技場にレースか・・・・・・ここは定番のスロットでもやってみようか? 俺はスロットの台まで歩きだした。横一列にスロットの台が十台程並んでいて、裏にも同じように並んでいる、俺は取り敢えず一番端っこの台にしてみる。コインケースからコインを三枚取り出し、スロットの台に入れる。そして右に付いているレバーを下に下ろす。その瞬間目まぐるしい速度でスロットの絵柄が回りだす。
「お? おお? 揃うか? 揃うのか?」
・・・・・・結果はスライムっぽい魔物の絵柄がリーチになったが、最後に違うコウモリみたいな魔物の絵柄が止まった、ハズレだ。俺は今度こそは、とコインを入れる。まず一つ目の絵柄が止まった、その絵柄は7、当たれば500コインを稼げると書いてあった紙を見る。やはりそれは当たれば500コインの大当りだ。次に二つ目の絵柄・・・・・・7。リーチ、次で7が止まれば大当りだ。
俺は高鳴る感情に胸を熱くしながら徐々にスピードを落としていく三つ目の絵柄をじっと見つめた。そして・・・・・・止まった、絵柄は7、遂にスリーセブンが揃った。
「っしゃあ!!」
思わず台から立ち上がる、他の客が何事かと此方に視線を向けるが今はもうそんな事どうだっていい。今肝心なのはスロットからジャラジャラ出てきてるコインの山だ!
やがてそれはどんどん溜まっていき、やがてコインケースから溢れ出そうになる、コインケースを取りに行こうかと思い、急いで受付へ走り出そうかと一歩踏み出した時だった。突然横から何か黒い物体が飛んできた、慌てて身体を捻ってキャッチする。キャッチしてそれは大きめのコインケースだった、俺はコインケースから目を離し、飛んできた方向を見た。一人の男が此方に向かって歩いてきた、薄い茶色の髪に、真紅の眼、銀縁メガネ、着こなしたバーテン服。
間違いない、コイツは・・・・・・英介だ。
「誠じゃないか! お前今まで一体何処に行ってたんだ!?」
やっぱりだ、この声、やっぱり英介だ!
「英介なのか!? 英介だよな!?」
「ああそうだよ! 僕だよ! 斎藤英介だよ!」
「やっぱりか、それにしても久しぶりだな。まぁ取り敢えず座れよ、話したい事がある」
「ああ、分かった。話したい事ね、僕も“重要”な話あるから誠が先に言ってくれよ」
英介はドサッと音を立てて俺の隣のスロットの台に座った、俺達は自分のコインケースからコインを取り出して入れる、レバーを下げてスロットを回転させる。
「俺が死んだ後、姉さんに何か変わった事は有ったか?」
ゆっくりとした口調でそう質問する、しかし英介は奇妙な物を見る目で言葉を返してきた。
「はぁ? 何を言っているんだい? 君は死んでいたのか? 僕は行方不明になったとしか聞いていないよ? だって君は突然家に帰ってこなくなったじゃない、連絡も着かないし、何処に行ったのかも分からない。もしかしてどっかの山で自殺でもしていたのかい?」
「そっちこそ何を言っているんだ? 俺は確かに死んだぞ? 死んでからこの世界に来んだぜ? そっちは何なんだ? 英介も死んだからこの世界に来たんじゃないのか?」
「冗談は止めてくれよ、僕は死んで何かいないさ。ただ学校の帰りに突然目の前から訳の分からないブラックホールみたいな奴が出てきて、それに吸い込まれたんだ。そしてこの世界にやって来ていた。という訳さ、だから自分が死んだ何て覚えはないんだ」
スロットの絵柄が揃い、コインが流れ出してくる。再びコインを入れてスロットを回す。英介は先程から連続で絵柄を揃えている。恐らく職業の運のステータスが高いのだろう。
「・・・・・・だとしたら、元の世界とこの世界は何か特別な方法を通じて繋がっている可能性があるな。この世界は他の世界にリンクして勇者を召喚する様な世界だ、元の世界と繋がっていても可笑しくはない」
「そう言えば、誠は死んでこの世界に来たとは行っていたけど。どうやってきたんだい?」
思い出したかのように聞いてくる英介、その視線は依然としてスロットの絵柄を見つめている。その問いに俺はレバーを下げながら答えた。
「死んだ後に神様に呼び出されて、ネット小説何かでよく見る転生ってやつでこの世界に来た」
「へぇー、神様ねぇ・・・・・・それじゃ特典みたいな奴も貰えてたりする? 多分その白衣を見る限り職業は錬金術師だよね? となるとステータスは倍になってたり?」
「正解だ。で、お前は? 職業は遊び人だろう? ステータスはしらんが」
英介はスロットにコインを入れながら淡々とした口調で答えた。
「そう、僕の職業は遊び人だよ。この世界に来たらステータスウィンドウが開けたんでね、LVはMAXでステータスはHP、MP、防御、魔防御、速度、攻撃速度、最後に運が倍になっていたよ。でも装備は無かったんだよねぇ~、流石にそこまで親切設計じゃないか~」
7が三つ揃い、コインが雪崩てくる。何処から出したのか知らないが、英介が片手でコインケースを渡してきたので、それを受け取りコインの山が出来上がったコインケースを取り敢えず下に置く。既に英介は7が揃いに揃っているのでコインケースが今はもう多分10個はいっているだろう。
「さてと、続きはまた後でにしようか。キリもいいしね。それじゃ着いてきてよ、僕の店にね」
何時の間にやら立ち上がっていた英介、スロットにコインを投入するのを止めて、下に置いておいたコインケースをアイテムウィンドウにしまう。それを確認した英介が背を向けて歩きだした、先程英介が座っていた台にはコインケースが無い、という事はアイツもアイテムウィンドウにしまったのか。英介の後ろに着き、真紅の床を歩く、そして従業員専用と書かれた立て札が有る廊下へと進んでいく。
この廊下は従業員専用だが殆ど人が通らないみたいで、自分の足音が廊下へ響きわたる。そして廊下の突き当たりには古ぼけた扉が一つ。扉の前に着くと、英介が立ち止まって此方を向く。
「さぁ、ようこそ、カジノバーへ・・・・・・ってね」
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