表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
錬金術師の魔王討伐  作者: 水晶
~~フィンシア城 召喚編~~
10/26

第九話 過去

 漆黒に染まった空に大きな月が昇り、その月明かりは森を走り抜ける馬車を照らし出していた。馬車はかなりのスピードで走行しており、時折、馬車の車輪が石を轢いてガタンと大きく揺れる。そんな中、馬車では二人の男女が話し合いを進めていた。


「クローラクロス大都市? そこにマコトさんの友人さんが?」


「あぁ、昔世話になったモンだ。それと、会うついでに年に一度開かれる武闘大会に出場してみようと思ってるんだ、しかも優勝商品は百万Gと聖剣だと。まぁ最もコッチには数十億の価値がある魔結晶があるんだけどな。もし優勝したら聖剣はエーリにやるよ、俺は見ての通り、魔剣と魔銃で両手が塞がってる」


 それに魔法も使えるしな、と付け足す。瞬間、エーリが思い出したかのように質問してきた、その問いは“マコトさんの両親ってどんな人なんですか?”と言う物だった。はっきり言うと両親は俺が中学二年の頃に交通事故で死んだ、即死だったそうだ。当時俺には一つ上の姉が居た、俺は小さい頃から姉に付きっきりだった、ドジっ娘というか何て言うか・・・・・・そんな姉が見過ごせなくて俺は姉の出来ない事をしてきた。高校に入ってからは弁当を忘れた姉のクラスまで行って弁当を届けたり、教科書を貸してやったり、料理を手伝ってやったり、とまぁこんな感じでいつも過ごしていたから周囲の男子からはシスコンだ何だと言われることもあったが・・・・・・自覚はしてるさ。


 俺の姉は俗に言う美人だ、それゆえに男子生徒からの告白が絶えなかった、余りにも数が多いんで闇討ちして数を減らした事も有ったっけなぁ・・・・・・今のは半分冗談だ。屋上に呼び出された姉を尾行して何度OKしないでくれと天に願ったか、俺の願いが天に届いたのか姉は告白を振り続けた、告白してくる男子生徒の中にはそれなりにイケメンの奴が居たがそういう危険物は俺が始末しておいた。さらに生徒だけじゃなく教師にも人気があるらしく姉の体目当てで放課後の空き教室に呼び出す教師が偶にいるが、勿論闇に紛れてボコボコにしておいた。


 ・・・・・・話を戻そう、両親が死んだ後、俺達は親戚でもある斎藤英介の家に住む事になった。英介の両親は中々のお人好しで親戚と言っても所詮は余所者の俺達を嫌な顔ひとつせず、それもさぞ嬉しそうに「家族が増えたぞ! バンザーイ!」「これが幸せな家庭と言う奴ね、貴方!」・・・・・・仲がいいのは良いことだと思う。とまあそんな訳で俺達の高校生活の費用を払ってくれたり、誕生日プレゼントを買ってくれたりと、流石にこのまま何か恩返しをしないのはどうだろうと思い姉と相談、その結果二人でアルバイトをしてコツコツ金を稼いで行こう、と言う事になった。


 しかし、高校からの帰りに俺は死んでしまった・・・・・・今頃あの人達は何をしているだろうか? 俺の死を悲しんでいるだろうか? それに・・・・・・姉さんはどうしているだろう? ちゃんと高校生活を遅れているだろうか? まさか自殺なんてしていないだろうか? そんな事になったら・・・・・・。


「マコトさん! 聞いてますか!?」


「っ! あ、あぁ・・・・・・すまん、ぼーっとしていた。それで俺の両親の事だったか?」


 エーリの呼びかけで直ぐ様ネガティブ思考を中断して、俺の両親の事を大まかに説明する。


「俺の両親は三年前だったかな? その時に不慮の事故で死んじまってさ・・・・・・」


「ご、ごめんなさい! 亡くなっているとは知らなくて・・・・・・」


 はっとした顔で直ぐに頭を下げて謝ってくるが、俺はこの話を続けまいと素っ気なく応える。


「いいさ、もう済んだことだし」


 その後を暫し沈黙が支配するが、空気が重くなってしまったと勘違いしたのかエーリが話題を変えて話しかけてきた。


「あ、あの! 星空が綺麗ですね!」


 馬車の中から空を見る、空は城下町を出発した時とは打って変わってドンヨリと雲が月を覆い尽くしている。それに気がついたのかあたふたと慌て始める。恥ずかしさを紛らわすために再び話題を変えようと奮闘を始める。何回かそれを繰り返して居るうちに漸く、話が一致した。


「眠たいですね!」


 ほぼヤケクソ気味な口調で叫ぶエーリ、俺はそれに返事をする事なく大きな欠伸を一つ。今日一睡もしてないんだよ、だが今回はいくら馬車が揺れるとはいえ同じベットで一緒に寝るわけじゃないから、男女問わず睡眠が取れる。俺は馬車の荷台の壁によし掛かり少しでも寝ようとする・・・・・・。


「あれ? もう寝ちゃうんですか?・・・・・・ってそう言えば寝てないんでしたっけ?」


「寝るから後よろしく~、テキトーな時間に起こしてくれれば良い~」


 だんだんと馬車が揺れるのが心地好くなってくる、まるで揺りかごの様に揺れる馬車は着々とクローラクロス大都市へと進んでいた、恐らく明日のお昼頃には着いているだろう。ちなみに武闘大会の参加申し込みの締切は明日の午前0時までらしい、それまでには宿屋を取って色々と街を観光していこう。あー・・・・・・宿屋で思い出したが、念の為一週間分部屋を取っておいた宿屋代って結局一日しか泊まってないから何だか損したなぁ・・・・・・って話さ。


 ダークベアーとの戦いで疲れきり、そして睡眠不足でコンディションが最悪なこんな状況でも逆に目が覚めて眠れない、と言うことは無い様で、俺の意識は急速に深い眠りの中に引きずり込まれていった・・・・・・。














『なぁ姉さん、あのさ・・・・・・今好きな人っている?』


 誰もいない教室に、俺と姉さんは二人っきりで残っていた。


『どうしたの? 藪から棒にさ』


 俺は姉さんの笑顔が忘れられなかった、俺と一緒に居る時だけ、飛びっきりの笑顔を魅せてくれる。俺以外の人間には、俺が知っている限り誰にも魅せていない。


『別に理由は無い! それより居るの? 居ないの?』


『そうだねぇ・・・・・・やっぱり誠が好きかな? 私は』


 いつの日か姉さんがふらっと何処かへ居なくなってしまう、そんな夢を偶に見る。俺に別れを告げて手を振る姉さんの悲しそうな顔が、夢であっても忘れられない、忘れることができない。


『へ、へぇ・・・・・・そうか』


『大丈夫だって! 誠が私に告るまで誰とも付き合ったりしないからさ?』


 姉さんは俺の前から消えたりしない、居なくなったりなんてしない、そう心に言い聞かせ続けた。だけど・・・・・・。


『・・・・・・姉さん、一つ約束をしよう、俺達は家族だ、だから・・・・・・何処へも行かない事』


『・・・・・・私が誠の側から居なくなると思う?』


『それもそうだ』


 俺はあの日、事故に合い、死に、異世界へとやってきた。それは・・・・・・。


『はい、じゃあ指きりしよう! ゆ~びきりげんまん、嘘ついたら針千本の~ますっ! ゆびきった!』


 あの時の約束を、俺が“自ら破ってしまった”と言うことだ。














「っ!? ・・・・・・何だ夢か・・・・・・姉さん・・・・・・」


 余り良い夢とは言えない夢を見てしまった。馬車の外は朝日が昇っており、隙間からチラチラと朝日が入るため少々眩しく、起き上がって外の景色でも見て目を覚まそうと思い、立ち上がろうとしたが。・・・・・・エーリが寝ている、それも何故か隣で。何処から持ってきたのか、薄いタオルの様な物を俺の隣で二人一緒にそれを掛けていたらしく、俺が少し動くと薄いタオルがズズズッとズレ落ちてしまった。しかしそんな事はどうでも良い、些細な事だ。


 それよりも何で俺の隣でエーリが寝てるんだ? 規則正しく寝息を立てて眠っているエーリは、ちゃんとタオルを腹の少し上辺りに掛けていて、俺と同じく壁に寄りかかって眠っている。もう朝だけど・・・・・・起こすか? 多分まだ着かないだろうけど早起きは三文の得って言うし・・・・・・。


「んぅ・・・・・・」


 エーリが起きたらしく、ゴシゴシと目を擦ってから大きな欠伸をして腕を伸ばす。そして俺に気づいた。一瞬、キョトンとしたが直ぐに今まで自分が異性の隣で寝ていたのだと分かると、一気に顔が真っ赤に染まり、あたふたとし始める。


「あのそのえっと! ななな何でマコトさんが隣にいるんですか!?」


「何でって・・・・・・起きたらエーリが隣にいたんだが?」


「あ・・・・・・」


 俺がそういうと何か思い出したかの様に小さな声を上げる、そして急に今度はモジモジしだしてゆっくりだが弁解、と言うよりも説明が始まった。


「その・・・・・・マコトさんが寝てから私、眠くなっちゃって・・・・・・そこに置いてあった布をマコトさんに掛けたら私も眠っちゃって・・・・・・」


 馬車の中の端っこを指さしてそう説明する、何でそこに布が有ったのかは知らないが取り敢えず事情は分かった。俺は一人溜め息を吐く、まさか自分の知らぬ間に恐らく同年代の異性と肩を並べて眠っているとは・・・・・・。立ち上がって壁に寄りかかり、耳を澄ますと取りの(さえず)りが聞こえる、馬車の中の布を捲ると青々とした葉が付いている木が横を通り、遠くなっていく。森から出されるマイナスイオンは懐かしい感じがして、童心の記憶を思い起こした。


 何回か深呼吸をして森の空気を味わう、新鮮な森の空気が肺へと送られる。そう言えば森の緑は目に良いって聞いた事が有ったな、俺は余り視力が落ちにくいらしくて、何時間ゲームとかパソコンとかやっていても全然視力は下がらなかった。しばらく森の景色を眺めていたがそのうち、自分の腹がぐ~っと腹が鳴り、空腹を訴えていることに気が付いた。思い返せば昨日の夜は何も食べずにそのまま馬車を冒険者ギルドで借りて、宿屋にはしばらくクローラクロス大都市に行くから、と伝えてエーリを引っ張り出してきたから腹が減っていてもそれは仕方ない。アイテムウィンドウを開き、入れてあった食料のおにぎりを二つ取り出して、一つをエーリに渡す。


「ほれ、飯だ」


「あ、ありがとうございます」


 このおにぎりは出発前に商店街の店に売っていたから買ったものだ、海苔(のり)は巻いていなくて白いご飯の形を整えて塩を振り掛けただけだが、これが結構いける。俺とエーリは食べ終わるとその場に座り込んだ。俺はあぐらをしている状態でカジノバー、とやらを営んでいる店長、もとい英介の事を考えてだしていた。確かアイツも“あのゲーム”をプレイしていたはずだ。俺も同じくプレイしていた、職業は俺はアルケミストで英介はギャンブラーだった、如何にも賭け事が好きなアイツらしい職業だ。・・・・・・それよりも何故英介がこの世界に居るんだ? 


 ・・・・・・考えたくは無いがアイツも俺と同じく死んで、神様に俺の事を聞いてこの世界に来たのか、それとも偶然、クローラクロス大都市か何処かの城で勇者として召喚されたか。そのへんは会って確かめるしかない、それと姉さんの事も聞かなきゃならない。


「おうい! 見えてきたぞぅ!」


 突如として御者台に座って居る人から声が掛かった、その人は前にクエスト場所まで乗せていってくれた人だ。俺はその人が指さす方向を見た。高い城壁に囲まれていて、巨大な門のその先には人々が賑わいを見せ、更にその先には天まで届きそうな程にまで突き出た塔が、塔が建てられている城は大きく、この都市の何割かを占めているだろう。やがて馬車はクローラクロス大都市の玄関でもある門へと近づいていった・・・・・・。

 誤字脱字、矛盾などがありましたらコメントよろしくです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ