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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

短編

PK

作者: まめ太

「え?」

顔を上げた女の首を見てた。狙ってたのは、この瞬間。

無造作に、その白い喉へ刃を当てて引き切った。

ぱっくりと開く喉から、中の空洞が見えた。

ひゅうひゅうとしばらくマヌケな音が漏れ、女が喉を手で覆って、そして死んだ。




昨日のことだ。いや、元の世界でどのくらい時間が経過したかは不明だが、こっちではまる一日過ぎた。

誰かが気付いて、そして大騒ぎになって。ログアウトが出来ないと口々に叫んで、パニックは広まった。

二度と出られない、なんて・・そんなの、万が一の話だろ。たかがバグに、馬鹿じゃねぇの。


俺は顔がにやけてくるのを止められなかったね。

目の前で起きたことを、連中は最大級の悲劇と捕らえて泣き叫んでいるが。

VRMMO、実際にゲーム世界に取り込まれてしまったのか、単によく似た別の世界なのか。

正直、そんな事はどうでもいい。

実際のところ、現実の世界だか元の世界だかに戻りたいとも思っちゃいないしな。

勇者ばりの装備でがっくりと膝をつく優男。

ひたすら泣き続ける女戦士。

マジでロリった魔道少女風なんてのまで、よりどりみどりだな。

俺一人の事故ってわけじゃなかったのはなによりだ。神に感謝したいくらいだ。

このまま、例えば食い物がなくて飢え死んでしまうとしても、それでもいいと思ってる。

元の生活では絶対に叶うべくもない願いが、叶えられるチャンスだからな。

よお、お前等。これから宜しくな。短い付き合いになるとは思うけどもな。


さて、まずは2,3調べなくちゃいけない事がある。

なにより大事なのは、ここだ。この地面。

ちゃんと掘り返せるんだろうな?

つま先で軽く蹴りを入れると、土がえぐれた。OK、上等だ。

あとは、ありきたりだがNPCの存在。

ここは広場だが、少し町の外れへ移動すれば、雑魚エネミーが単体で沸いてたはずだ。

店の商品がデータの塊で、口に入れることが出来ない場合も想定出来るが、まずはそれより先に確かめるべき事がある。俺にとっては、食える食えないより重要だ。

町外れの街道に、ドブネズミが単体でうろついている。犬くらいのデカいやつ、ゲームではエネミーだったが、ここではどうだ?

俺の装備はククリタイプのカーボンナイフが2本と、スコープ付き狙撃ライフル。

銃器の扱いは慎重にいかないとな。弾丸のストックが無限に入手可能だったゲーム内とは違う。

相手のエネミーにしてもそうだ。

実際アレがエネミーなら無害だが、ここが単に別世界というだけなら、病原菌を持っている。

噛まれたら後々厄介になる。

慎重に・・・

ネズミは俺に気付いていないのか、一向に逃げる気配も威嚇する動作もない。

口をしきりに動かし、無心に何か食っている。

草の種でもあるんだろうが。

至近距離まで近付いた。静かにナイフを抜き放ち、狙いを定める。

慎重に、慎重に・・・。

振り下ろしたナイフはネズミの胴を殴りつけた。

ちっ、一撃で決めるつもりだったが、しくじったか。

だが、ネズミは黒い煙を上げ、ものの数秒後には消えてしまう。

エネミーだったか、拙いな。

俺は頭を狙ったんだが、ヒットする直前にターゲットが移動したんで外した。

もしあれがエネミーじゃなかったら、反撃を食っていたかも知れない。

騙まし討ちが厳しい野生動物ならリスクの高い分だけ恩恵も期待出来たのに。

エネミーでは、食えない。


俺は廃人と呼ばれるプレイヤーでもなければ、ゲーマーと言われる奴等でもない。

自宅と学校と予備校を往復するだけの青春だったからな。

晴れて志望校に受かり、自由を得たってところさ。親の希望を叶えたって事で、高価なゲーム機は御褒美で買ってもらえたんだ。

そうして、初めて遊んだゲーム、初めて降り立ったMMOのフィールドがココだってことだ。

だが、始めてみたはいいが、このVRMMOってゲームはどうにも俺を満足させてくれなかった。

複数でダンジョンに潜ってレベルを上げて、所謂、協力プレイが楽しいだとか、他の連中なら言うんだろうが、俺の趣味とはかけ離れている。舞台設定は一応中世ヨーロッパをベースとしているが、プレイヤーの衣装や装備は枠に囚われず自由が利くから好きに着飾れるだとか、そんな部分もどうでもいい。

武器の扱いは、基本部分さえ出来ればいいんだよ。

ライフルを使うなら、一番重要なのは油断を見極める「目」だけだから。


食料の調達は厳しいかも知れない、後は何を調べるべきかな。

空腹にはならないようだから、まず食事の心配をする必要自体がなさそうだが。

空の高みにあった太陽がすでに沈みかけている。時間経過が早いということもありそうだが、体感では腹が減ったという気はしない。元のゲームでも食事という概念がなかったし、その設定が生きてるってことだろう。一応、明日の夜までは要観察ってところか。

単なるバグかも知れないし、緊急措置で機械が外されれば自動的に意識が戻るなんて事かもしれない。

単に、ログアウト出来ないだけのことだ。

実用化された製品だ、その辺は下手に心配するほどでもないだろう。

身体は機械の外にあるんだし、戻れないなら考えられる結末は二通りしかない。

永遠にこの世界で存在し続けるか、肉体の衰えと共にいずれ衰弱死するか。どっちかだ。

ああ、もう一つ。運営がなんとか手を打って救出される、という結末もあるか。

そうなったら、どうなるんだろう? 殺人罪か? 死ぬのか? 試してみたいよな。


もともとのゲーム世界ではPKが許された。

ならば・・・もし、単なるバグの場合、サイアク、殺した相手が向こうで蘇ることがあったとしても。

俺が罪に問われる云われはない。

そのまま死んじまった場合は、考える必要さえない。憂いがなくて結構だ。

一生、閉じ込められたままがいいな、俺は。

腹が減らないのはいい。時間をたっぷりとかけられる。

最低でも一人はイケる。バグなら、運営がなんとかする前に、動くべきだな。

なんにせよ、千載一遇のチャンスだ。

もしかしたら、元の世界に還るだけかも知れない。でもその半面で、もしかしたら、本当に死んでしまうかも知れないんだぜ。

嬉しくて堪らないんだ。猫やスズメを殺すのとはワケが違う。

一度、殺してみたかったんだ。人間を。

GJだ、運営。




女が完全に死んだのだろう、黒い煙がその骸を包み込む。

数秒で、消えてしまった。

なんだよ、やっぱり、ゲームなのか・・・。


せっかく掘った穴も無駄になった。

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[良い点] 遠慮のない残虐性 [気になる点] なし [一言] 新連載楽しみに読んでいます。 連載中のものに感想を書いて邪魔するのはアレなので、最初に読んで好きになったここに感想を書きにきました。 VR…
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