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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

コイか否か

作者: 赤川ココ
掲載日:2026/05/13

手慰み第数弾であります。

楽しんでいただければ、幸いであります。

 久しぶりに顔を見せた飲食担当は、事情を一通り聞いた後、言った。

「実際に会って見ないと言い切れませんが、まずは、原因を追及する必要が、あります」

「原因…..」

 一緒にやって来た、探索担当夫婦の旦那が、うんうんと同意するのを横目に、臨時で雇われた介護担当の小柄な男が、天井を仰ぐ。

 研修生たちとの合宿を終え、今は総合事務所の片隅で、彼らに座学を強いている最中だ。

 飲食担当と服飾担当夫婦が、連れ立ってやって来た理由は、合宿をした山で保護した少女の生存確認の為だと、そう思っていたのだが、それだけで済まさないつもりのようだ。

「コイなのか否か。それが問題だ」

 同意した探索担当の大男が、飲食担当の長身の優男の後に続けたが、意味不明だ。

「? 皆さんの故国にも、いるんですか? 鯉」

「こちらにも川にいますが、魔獣化して命懸けの猟になります」

「へえ。その分大きいなら、調理のしがいがある、かな?」

 研修生たちが話に食いつき、それを受けた清楚な風貌の長身の美女が、旦那に優しく笑いかけて話の先を促したが、飲食担当は、困ったように笑い、介護担当を見た。

「崖下で保護したと聞いたんだが、他に気になったことは?」

「……合宿に同行してくれた医師先生が、今も離れない事くらい、ですかね」

 他にも、違和感があるのだが、その違和感の元が分からないため、目下の疑問を口にすると、部門担当の男二人がそれぞれの表情で、黙り込んだ。

 そんな中、服飾担当の女が、溜息を吐く。

「社交会場のバルコニーから、誤って落ちたって事だったね? ドレスがそれに、対応出来なかったんだ。私の責任だ。義姉上も、髪飾りが嵩張り過ぎたのかもって、反省してる」

「それは、極論です。きっと、バルコニーで眠気が襲って、立て直そうとして、落ちてしまっただけです」

 探索担当の小柄な美女が、服飾担当の反省を一蹴しようと、きっぱりと決めつけた。

 あり得る話だから、否定し辛い。

 座学を中断して、彼らの様子を観察していると、もう二組、夫婦がやって来た。

 今まで、東洋人ばかりが集っていた上、研修生たちも目立つ色合いでなかったのだが、ここで目立つ色がやって来た。

 挨拶もそこそこに、警備担当の旦那の方が、介護担当に声をかける。

「お前が、辺鄙な山にいたお陰で、早く保護出来たと聞いた。感謝する」

「いえ。偶々、です」

 短く返した介護担当に、医療担当で抜けるように白い肌と薄色の髪を持つ小柄な女が、真面目に問う。

「うちの子から、会長たちがここから動く前に、来て欲しいと連絡が来たんだけど、緊急網での話以外にも、問題があるのか?」

「それは、オレに訊かれても、分かりません」

 首を振った男から、飲食担当に視線を移した警備担当の男は、緑色の目を最大限に細めた。

 そんな旦那と、介護担当飲食担当を見回し、警備担当の長身な白髪の女が、溜息を吐いた。

「ここで、想像だけ膨らませても、意味がありません。あの子本人を直撃しましょう」

 頷いた面々は、ぞろぞろと事務所を出て行った。

 それを見送った介護担当に、これまで空気だった男が、声をかける。

「座学の続きは、オレが引き受けるから、お前は向こうを手伝ってやれ」

 手伝え?

 何を?

 よく分からないが、師匠の一人である、黄色い髪と瞳を持つ長身男の指示だ、介護担当はすぐに席を譲って、各担当たちの後を追った。


 少女を連れ帰ってから今まで、会長夫婦は片時もこの部屋を離れず、嘆きと謝罪のループを繰り返していた。

 介護担当は、三週目辺りで離脱し、研修生たちの座学に取り掛かったが、合宿に同行してくれた灰色がかった銀色の髪と瞳の大男はその場に残り、各担当たちが乗り込んだ時には、そのループを意図して蒸し返していたようだった。

 ふた部屋分離れた事務所で、聞き耳を立てるまでもなく、その部屋での会話が聞こえていた介護担当は、大きな医師の思惑が図れなかったため、放置していたのだが、やって来た新たな客の半分が、医師の思惑に気づいたようだ。

 部屋に入って、直ぐに反応したのは、飲食担当だ。

 寝台の上で、長身な女に横抱きで膝に乗せられた、小さな金髪の美少女を見て、優男は大きな手で己の顔を覆い、盛大に溜息を吐いた。

 同じ位の背丈の、警備担当の男も天井を仰ぐ中、動いたのは探索担当の旦那だった。

 寝台の傍に立つ会長と、同じくらいの大男は、険しい顔を更に険しくして、一気に寝台に歩み寄る。

 母親の膝の上で、居心地悪そうにしていた少女が顔を上げた時には、直ぐそばで顔を覗き込んでいた。

「っ。な、何だよっ、どうしたっ?」

 母親の警戒する金眼に構わず、大男は低く問う。

「お前、何やったんだ?」

「何って、何の事だっ?」

 男を見上げる少女を守るように、女は抱き直して問い返したが、男の方は構わず少女の方に呼びかけた。

「何やったら、そこまで縮んだか訊いてんだ。それくらい、答えられるだろう?」

 黒い瞳を潤ませ、少女は神妙に答えた。

「バルコニーから落ちそうになって下見たら、人がいたんだ。とっさに移動したら、偶々崖で……」

 平坦な声の説明は、保護当初と同じだ。

 慌てて移動したため、安全に考慮できなかったと、少女は初めから一貫していた。

「あの辺りは、年中豪雨に見舞われ、崖下の川も濁流です。そこに落ちなかったから、発見も早かったんでしょう」

 大きな医師が、硬い声で補足した通り、行き当たりばったりでも、幸運な方だ。

 だが、その説明で納得した両親と、今回やって来た面々は、反応が違った。

 特に、少女の過去を一番知る飲食担当は、ゆっくりと寝台に歩み寄ると、穏やかな笑みを浮かべて手を伸ばし、少女の頬を両手で引っ張った。

「っ」

「お前、そんな簡単な説明で、オレたちが納得すると、本気で思ってるのか? 物事の説明は、面倒がらず詳しくと、教えた筈だろう?」

「っ。ひっぱるらっ。いはいっ」

「こらっ。伸びて、戻らなくなったら、どーすんだよっ」

 思った以上に、良く伸びるなと、戸口の前で見守る介護担当の目の先で、飲食担当が会長夫人の文句に答えて手を離すと、それを見ながら警備担当の男が静かに言う。

「行き当たりばったりなら、自衛の本能が働く。何処かに落ちるのは仕方がないとしても、生存率が高い場所を、無意識に選ぶ筈だ」

 自衛本能が強い少女が、咄嗟に移動した場所が、全く人が来ない、山奥の崖下と言うのは不自然だと言い切られ、違和感の一つに思い当たった。

 今回の事がある前、少女はどの世界でも、店から出なかった。

 出てもせいぜい王都内で、地図で地形は把握していただろうが、全く知らない土地に、咄嗟に移動するだろうか?

 移動するなら、自らのホームグラウンドの、地球の何処かにするのではないか?

「つまり移動先は、故意に人目のない場所を選んだ訳だ」

 探索担当の大男が、険しい顔のまま言った。

「コイ……ああ、そっちですか」

 腑に落ちた介護担当の前で、優男が少女に穏やかに問う。

「誤って落ちた、と言うのは、どう言う誤りだ? まさか、バルコニーの塀に寄りかかったまま、船を漕いだとか、あからさまな嘘は、つかないよな?」

 穏やかな声で、太い釘を刺す。

 少女は眉を寄せて、首を振った。

「落とされたと言い切れる程、確かな悪意じゃなかったから、誤ってで正解だ」

「具体的に、どう落ちた?」

 飲食担当は、更に問いかけた。

 少女は、溜息を吐いて答える。

「どこかのご子息に、突然抱き抱えられそうになって、つい抗ったら塀を超えたんだ」

「……」

 新しい情報に、室内が静まり返り、探索担当の旦那が呆れた溜息を吐いた。

 寝台の横で、会長が険しい顔になる。

「まさか、商売敵か? それとも、従業員を引かせた家か? どちらにしても、許す必要は、なさそうだな」

「いえっ。本当に、それだけの話で……」

 焦った少女の言葉は、保護してからずっと傍にいる医師に遮られた。

「夜会で、一人でいるお嬢さんを、抱き抱えようとする男が、何を考えているかくらい、あなたも今では見当ついているでしょう? だから、うやむやにして、話を納めようとしていた」

「もしかして、下にいた人間も、何処かの子息か? なら、考えなしに落とした目的の令嬢を下で受け止めて、連れ去ろうとしてたんじゃねえの?」

 探索担当の旦那が、この上なくしっくりと来る想像を口にした。

 飲食担当は真顔になって、少女を見下ろす。

「本当に、抜け目がないな。オレたちの今のリーダーは、会長だからな。独断で件の国をぶち壊せない」

「下手に説明して、会長本人がGOを出す事を懸念していたんでしょう。だから、人気のない場所に移動する事を、選んだ」

 続いた医師の説明を聞きながら、色々な違和感が氷解していく。

 保護した後の魔物騒動は、研修生たちの為にも口を閉ざすと決めているので、介護担当は内心で次々と違和感たちに答えを添えて、納得する作業をしていた。

 その間に、会長含む商会の重鎮たちが、物騒な計画を立て始め、その結果……。


 介護担当改、副会長が誕生した。

 会長息女の不幸の元を特定し、直後その報復を終えた後、会長に引き抜かれたのだが、それを受けた理由は単純だった。

 元の世界で運営していた養護施設を、臨時で介護士育成の仕事している間に、実の姉夫婦に乗っ取られてしまったのだ。

 こちらの世界の、暴力を受けて喜ぶ介護士とは違い、いかなる暴力も平然と受け止めて作業を続けられる人材を募り、長期運営の目処が立っていたのに、その全てを乗っ取られた。

「いやいや、あなたは、こんな所で錆びつかせていい人材では、ありません」

「後は、維持するだけなんですから姉上方に任せて、別世界で我々のようなあぶれ者を、真っ当な道に導いてやって下さい」

「別世界にも、いるんだろ? 獣の妖みたいな奴や、鬼みたいな奴。そいつら集めて、健常者が異常者の被害を被る前に、対策してやってくれ」

 強化合宿を終えて、職場に戻った男を、従業員たちは目を輝かせて追い出しにかかった。

 いくら何でも、そんな筈はないと思ったが、何年もかけて育成した従業員を、ほんの数ヶ月で、あの夫婦はたらし込んでしまったらしい。

 いや、乱暴な自分より、姉夫婦の方が、ましだと思ったのもあるんだろう。

 昔の所業に思いを馳せながら、男は今、事務所の表の店で、会長の娘を膝に乗せて、店番をしている。

 活動的な会長の代わりに、夫人と交代で、面倒を見ているのだ。

 色々落ち着いたら、都合のいい部署を立ち上げてもらう約束を取り付けたので、今はのんびりと、店に来る客を相手しながら、休養しよう。

 

 


 

 


 


 


名前の代わりに、部署名だの男女だの、分かりにくいです。

でも、これが拘りと言う体で、行こうと思います。

毎回出ては消える登場人物は無名、と言うか考えるのが、億劫と言いますか……西洋の、高貴な人の名前は、難しい過ぎます。

なので、名を持つ連中も、名無しで合わせております。

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