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公式企画参加作品

木枯らしを肴に夜を飲む

作者: 辻堂安古市
掲載日:2025/12/10



なろうラジオ大賞参加作品改稿。

武 頼庵さまの『木枯らしの風景企画』に参加しています。




 



「やれやれ……アイツは今日もここに来ているんだろうな」


 外は冷たい木枯らしが吹き荒れ、この店の古びたドアを揺らしている。


 俺は風で押し付けられたドアを少し乱暴に開け、バーに入った。室内に入っても風の音は薄暗い室内に響いてくる。


「……ビンゴだ」


 薄暗い店の奥にあるカウンターの隅で、奴は濡れた野良犬のように背中を丸めていた。目の前には安ウィスキーのボトルが置かれ、手に持ったグラスは氷だけが溶けて、琥珀色を薄めている。


 俺は隣のスツールに腰を下ろし、黙ってバーボンをダブルで頼んだ。こんな時はこっちから声をかけるべきじゃない、というのが俺の持論だ。





「終わっちまったよ」


 俺の頼んだ一杯目のバーボンが無くなるのを見計らうようなタイミングで、奴はグラスに向かって呟いた。


「俺はな、あのプロジェクトに全てを賭けてたんだ。全てが上手くいっていると思ってた。それが、たった一夜でスクラップだ。今まで築きあげてきたもんが、全てパーだ。笑えるだろ?」


 俺はオイルライターで咥えた煙草に火をつけた。



「笑えねえな」



 そのまま少し顎を上げ、紫煙を天井に吐き出す。



「だが、驚きもしない」


 奴がゆっくりと顔を上げる。その目には、敗北者特有の濁った光が宿っていた。


「あんたは強いな。いつもそうだ」


 声が錆びついていやがる。元々しゃがれ声だったが、そんなんじゃねえ。世の中の卑屈をかき集めて、飲み込んじまった声だ。



 ………似合わねえ。


 全くなんて面してやがんだ。

 いつもの飄々としたお前はどこ行っちまった?





「強いんじゃない。慣れてるだけだ。この街は巨大な賭博場だ。イカサマだらけで、力を持っている奴の一言で、時々、身ぐるみ剥がされる夜がある。それだけのことだ」


 俺は自分のグラスを持ち上げ、奴のグラスの縁に軽く当てた。


「慰めてくれてるのか?」


 奴が皮肉っぽく笑った。


「まさか。傷口に塩を塗りに来たのさ」



 俺はバーボンを喉に流し込んだ。

 焼けるような熱さが胸へと下っていく。


 






「いいか、底まで落ちたってことは、足場ができたってことだ。地面ってのはな、蹴っ飛ばして這い上がるためにあるんだぜ」


「洒落た事言いやがんな。似合わねえぜ」


「ぬかせ。やりたいことがまだあるからこんな所で燻ってるんだろが。どうせ見限られてんだ。とっとと神でも悪魔でも蹴っ飛ばしやがれ」



 奴はしばらく俺の顔を見ていたが、やがて微かに口角を上げた。そして、目の前にあった薄まったウィスキーを一気に飲み干した。眼には、少しだけ以前の太々しさが戻ってきている。



「不味い酒だ」


「ああ、最低だな」



 俺はマスターに、もう一杯ずつ同じものを、と指で合図した。外の風はまだ止みそうにない。



「ついでにギムレットでも飲むか?」


「バカヤロウ。夜はこれからだろ?」









 木枯らしの後だ。

 明日は多分冷え込む。

 が、空は晴れ渡るだろうさ。




 











お前がなんかやらかしたってんなら、一発殴ってやるよ。それで十分だろ?





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木枯らしの風景企画 概要 ←企画概要 ↓作品検索 木枯らしの風景企画 バナー作成/くろくまくん 様
― 新着の感想 ―
ハードボイルドな世界観と男同士の関係性が渋くていいですね。 特に連絡を取り合わなくても、「アイツは今日もここに来ているんだろうな」と行き先に見当を付けられる。 そうした所に二人の関係性を垣間見ることが…
ハードボイルドな世界観がいいですね……! 地面とは、蹴っ飛ばして這い上がるためにある。 かっこいいです(`・ω・´) ウイスキーを嗜む男の大人の世界、あこがれます✨ 辻堂さん、ありがとうございました。
めちゃくちゃ大きな仕事に失敗して、凹んでるところを仲良い同僚が励ますというかゲキを飛ばす、そういう光景を僕もしてみたいと思ったことが少なからずあるので、こういうの憧れます♪ ちなみにバーとかで、バー…
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