表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
青葉のおと  作者: 光瑠
12/12

夏の音

5月末に階と付き合うようになってから、あっという間に6月もすぎ、7月も中盤になり夏休みに入ろうとしていた。


クラスでは、席替えもあり階とは離れてしまった事もあり、関わる機会が少なくなってしまった。


そういえば、先月デートというものを初めて経験した。

階も好きなアーティストが主演の映画。私も見たかったので、話が決まるのも早かった。


お昼前に待ち合わせし、牛丼を食べ

階はデートで牛丼ごめん。と言っていた。

そんな事ないのに


映画を見た。その後は感想をあーだこーだ言いながら、映画館の入っているモールの中をショッピングして回った。ウィンドウだけど。


女の子は遅くなったらいけない。と17時に家に着くように送ってくれる所が、金メッシュの見た目とは相反する真面目さで


楽しかったまた行こな。

と頭をポンポンとする階に鼓動を刺激されていた。



夏休み、階は結構バイトが入ってるって言ってたな。

親戚の家に居候の立場。自分の分くらいは稼ぎたい。という階の思いを痛いほど感じ、身体が無理していないかだけが心配だった。


私もバイトを始めたい。と母に相談した事もあった、もちろん階に影響されてだが、自分で何か役に立つ。事もして見たかった。


が、母の返事はノーだった。


夜遅くなるのは何があるかわからないのと、勉強をして、少しでも上の大学を目指して欲しい。との事だった。


もちろんそれに歯向かう訳にも行かず、あっさりと計画は白紙になった。



夏休みに入り1週間が過ぎた頃、今日は階と水族館へ行く約束をしていた。


待ち合わせは10時に駅前。昨日の夜再度階と確認し、間違いはないはず。


10時半になっても来ない。


何度かメッセージを入れて、電話をかけて見ているけれどでない。



何かあったのではないだろうか。そんなマイナスを掻き消しながら、携帯を握る。


階の家に行ってみよう。そう思い自転車を漕ぎ進めた。

階の家には前までは行ったことがある。


10分程自転車を走らせた、階が向かって来ているかもしれない。と周りを凝視しながら漕ぐ私は、周りから見たら可笑しかっただろう。


あ、階の自転車。


家の自転車置き場には、階の自転車が停まってあった。

確かこの時間は階一人のはず、チャイムを押してみようかと思っていると、中から声が聞こえた。


「出て行けや!もうくんな!」


階の怒号と共に玄関から女の人が出て来た。


階のお母さんだ


私を視界に入れたのち、何事もなかったかのようにスタスタと歩いて行った後ろ姿は、そして何より、私を見つめる目が階に似ていた。


開きっぱなしのドアの向こうで、階が呆然と立ち尽くしていた。


「階?だ、大丈夫?」


「入るか?」


階の後を追い、部屋へ入った。

ベッドに机にギターが置かれた階の部屋。


初めて入るな。


「さっきの、俺の母親。

3年ぶりくらいに顔見せたと思ったら

金せびりよった

おれ、なんでギター続けてんやろ」



そう言って見えた水に濡れたエクボは

天使ではなく悪魔にキスされたのではないかと言うくらい、消したい痣のようだった。




【空に焦がれて 明日は焼かれて

雫が 海へと流るるは

果てない旅は続くでしょう

地平線は 広大な証

いつかそこへ 着けるように

君と 着けるように】



これは階が歌ってくれた歌。ギター片手に、何度も聞かせてくれた歌。とても好きな歌。



ほぼ涙で歌っているのかすらわからない声を出しながら、私は階を抱きしめた。ただ。


「秋音はあったかいな。」






自然と重なった、初めてのマイナス距離は

階の胸の中に包まれて

鈍い痛みは、ぎごちなく固く結んだ手の温もりと階の眼差しで消えた


階の孤独が、吐息が、心が


音楽が鼓膜から脳神経を伝わり

ドーパミンをもたらし、身体中の快楽を味わうかのように


確かに私の心を包み込み、

血液となって私の身体を先の先まで巡っていた。




数ヶ月後迎える秋に、彩りを待つ青葉の様に

太陽を探しながら、二人はただ重なり合っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ