秋音のおと
目の前の小川には
桜の花びらが、ぷかぷかと揺られて
桜公園と呼ばれるこの地域にはちょっとした名物になっている桜も新緑を出し
するともう見向きもされないような、人の愚かさと卑しさを見せつけられるような
そんな風景を、川口秋音は見ていた。
春休みが終わり、高校の入学式を終えた。
特に、やりたい事もこれと言って親を押し通すほどの想いもなく。決めた高校は、電車で二駅。担任の先生から勧められた普通科の原町第一高校だった。
自分が、人とは違う。感じ始めたのはいつからだろうか。
痣のような、宿命に侵食されていて、足掻こうにも意味はない。
小さな頃から、自分で注射を太腿に打っていた。自分で打つ前は母に泣くのを押さえつけられお尻に打たれていた。
先天性にホンモン分泌がなんとかで、それを補わなければならなかった。
去年、母親からふと告げられた。
特になんとも普段と変わりのないリビング、洗濯を畳む母。何の会話をしていたんだろう
「あなたは多分将来、子供は持てないね」
「ふーん。そう」
そうだ。
人と違うことくらい、そんなの
保育園くらいか私の中の1番小さい時の記憶。と言えるだろう頃から、わかっていた。
わかっていた。
「宿題してくる」
自分の部屋の机に座り、ノートを広げる。
不思議と涙は出なかった。いや、きっと出せなかった。泣き腫らした目で夜ご飯の為に一階へなんか降りれやしない。
辛い事を見せれば。きっと母はもっとつらい。
ただ、イアホンの音量を最大にし
どうにも湧き出てくる、ドクドクとした見えない絶望感みたいな黒いものを、音楽に任せていた。
そしてイメージするなら、おでこに不可の不と各印された気分だろうか。人としての不良品。
将来に、特にイメージがあったわけではなかった。けど、女性という人間に与えられる2種類の性別の一つでもなくなったような。
ホルモン治療で。胸が大きくなったり、生理は来ていたけど、そこまでの機能は期待できない。らしかった。
それからというものよくこの場所へ通った。
ただただ先へある大海原を目指す水面が
自由に飛んでいる渡り鳥が
そこでただ鳴いているコオロギさえ
ただ羨ましかった
そして、出来るなら
この川の流れに身を預けて
いつか辿り着く海の底にでも小さく丸くなって、
潜っていたかった。
もうこんな時間
新緑の緑に、オレンジが差し出し
帰宅時間が近いことを告げていた




