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壊れた空の迷い星  作者: 葉里ノイ


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7-缶詰パーティー


 負傷した星火(せいか)の腕から漸く抜糸され、二人は神社を発つことにした。傷はまだ残っているが、よく塞がっている。

 ニナの体調も良くなり、今後は薬を呑みながらの移動になる。

「もっとゆっくり……って言ってあげたいけど、ここで三人分の食べ物をいつまで確保できるか、わからないしね」

「色々と助かった。ありがとう」

 ナナは社殿の戸を開け、暗い空を見上げる。夜でも罅割れの赤い線はよく見える。

 星火は革鞄を背負い、カンテラの灯し石に明かりを灯す。

「何処へ行くか決めた?」

「ニナが喜ぶ所に行く。ニナが行きたいと言ってる」

 溜息混じりの声だ。ニナが喜ぶ場所の手前には湖のように大きな水溜まりがある。見てみないことにはどれほど迂回すれば良いかわからない。ナナは水の上を行くことを勧めたが、星火は不安だ。楽な道が良かったという溜息が出る。

「そ。じゃあ頑張って。――それと」

 ナナは社殿を下り、社務所を覗く。星火とニナも社殿を出て待つ。

「――これなんだけど、いる?」

「!」

 戻った彼女が手にしていたのは、汚れた銀色の笛だった。

「どうしたんだ? それ」

「蛸だか烏賊だかで盛り上がってて忘れてたんだけど、セイに手伝ってもらったあそこの木の下に落ちてたの。ほらここ、星のマークがある。セイの知り合いかしら?」

 土に塗れた銀笛(ぎんぶえ)を渡され、星火は壊れ物のように慎重に回して隅々まで観察する。親指で模様に被さる土を拭うと、ナナの言う通り星の刻印がある。だが星火の持つ銀笛の星とは少し異なる。

「……僕の笛には本家の星が刻まれているが、この笛の星には傷がある。明らかに彫られた傷だ。星を分かつ線が入ってるのは分家の印だ」

「へぇ? どっちも同じ印が付いてると思ってたわ。分家って弱いの? 近くには誰の死体も無かったけど、笛だけが転がってるんだから、持ち主の奏者は無能でしょ?」

「分家は本家より劣る……と言われて育ったが、分家の人には会ったことがない。笛の刻印のことは聞いていたが、実際に見るのは初めてだ」

「その話、面白そう。本家と分家って仲悪そうね」

 他人の仲違いや啀み合いは見ていて楽しいものである。自分さえ巻き込まなければ良い見せ物だとナナはにやにやと笑う。

「僕も仲が良くないんだろうと思ってるが、面白くはない」

「この笛はどうする?」

「僕はいらない。かなり泥を被って汚れているし笛自体も燻んでる。かなりの月日が経っているから、持ち主が死んでなかったとしても、もう取りに来ることはないだろ」

「私が貰ってもいいの?」

「僕がとやかく言うことじゃない。好きにすればいい」

「じゃあ貰うわ。高値で売れそう」

「構わないが、変な奴に目を着けられないようにな」

 ナナは星火から銀笛を受け取り、機嫌良く社務所に仕舞った。今までで一番の金目の拾い物だ。奏者でなくても銀笛を吹けば魚を退けられるとか、奏者になりたいのに銀笛が手に入らないとか、様々な理由で銀笛を欲しがる者はいる。

 星火は先程から大人しいニナを見下ろす。瞼が重そうだ。熱は下がったのに、どうにも眠気が取れない。

「薬が効き過ぎたか? 歩けるか?」

「歩ける。眠いだけだから平気」

 目は閉じそうだが、声ははっきりとしている。足元も蹌踉めいてはいない。

「お子様用の薬を手に入れた方がいいかもね」

「ああ……そうか。子供だと効き過ぎるのか」

「セイじゃ気付かないのね。とっくに過ぎてそうだもんね、子供時代」

「とっくにと言えばそうだが……含みがあるな」

「老けてるなんて言ってないわよ。二十歳……以下かしら?」

「十九だ」

「ほら正解」

 二十歳『以下』の範囲が広いが、星火は会話を切り上げた。ナナと話していると本気なのか揶揄われているのかわからなくなる。

「――あ、そうそう。忘れる所だったわ。ニナ、これあげる。これで目を覚ましなさい」

「何?」

「寝てる間に探してみたの。一つだけ棚の奥に引っ掛かってたわ。御守り」

「御守り!? わあ!」

 目を覚ました彼女の目の前に拳を突き出し、手を開いて朱色の御守りをぶら下げる。キラキラと輝く糸で紅葉が描かれている。それを両手で大事そうに受け取ったニナは、その糸のように目を輝かせた。

「お前達が持ってる縁結びじゃないんだけど」

 表面に御利益のあることが書かれている。

「こころ……しんがん?」

「心願成就ね。縁結びは縁だけど、これは何でも願っていいってこと」

「何でもいいの!?」

「いいわよ。セイをコキ使っても文句を言われないように、でも」

「おい」

 他人の性格を強制的に変えるような願いが叶うはずないと思いながらも、星火は口を挟まずにはいられなかった。現代では廃れた御守りだが、効力はまだあるかもしれない。万が一と言うこともある。

「渡す物も渡したし、じゃあね、二人共」

「ナナちゃんは一緒に行かないの?」

「私は住み慣れたここにいるわ」

 ニナは寂しそうな顔をするが、ナナは微笑を浮かべながら胸元で手を振った。

「二人で楽しんできなさいな。楽しいかはわからないけど」

 名残惜しい気持ちはあったが、ここに留まると言ったナナに我儘をぶつけるのは良くない。ニナは空気が読める。大人しく聞き分け良く頷いた。

「うん……わかった。ナナちゃん、またね」

 振っていた手がぴたりと止まる。『またね』とは、また会うつもりがある言葉だ。この広い世界で目的も無く放浪するのに、また会う偶然なんて無いに等しい。

「……また、ね」

 ナナは返答を少し迷ったが、同じ言葉を返した。もう会うことは無いだろうと思いながら。

 ぐずぐずしていると夜はすぐに明けてしまう。別れは短く、来た時と同じように星火とニナは鳥居を潜った。ニナはナナよりも大きく頭上で手を振った。

 明かりの少ない夜は、出て行った二人の姿をすぐに隠してしまう。カンテラの明かりも物陰に隠れて見えなくなる。ナナは二人の姿が見えなくなっても、暫く暗い虚空を見詰めていた。

 草木の茂る無人の街を歩き、星火は手を繋ぐニナを一瞥する。

「またね、なんて言っても、もう会えないだろうな」

「またねは、また会おうねって言うより、また会いたいね、の方が近い」

「次に会うとしたら、怪我をしてない時がいいな。縫われるのは結構痛い」

「縫われてる時は声出てなかったよ」

「その時は意識が無かったからな。目が覚めたら皮膚が突っ張って痛かった」

「痛いって言えば良かったのに」

「言ったら揶揄うだろ……それに処置してくれたことに文句は言わない」

「偉いなー、セイは」

「ニナは痛い時は我慢せず言え。泣き喚いてもいい」

「恥ずかしいから嫌だ」

「いや……そうじゃなくて。言ってくれた方がこっちも的確な行動ができるから。離れている場合は位置もわかる。ニナが一人で魚に襲われた時、もっと大声で叫んでくれていたら、もう少し怪我が軽く済んだかもしれない」

「…………」

「恥ずかしがるな。どうせ僕以外ほぼ誰もいない」

 余りに正論だ。この壊れた世界の地上に人などほぼいない。ナナのように地上に住む人間は極めて稀だ。

「セイがいる……」

「集落でだらしなく寝転がっていたのに今更恥ずかしがるな」

「あれ恥ずかしいことだったんだ……」

 全く意識したことがなかったニナは、過去を思い出して急に恥ずかしくなってしまった。恥ずかしいことだと言われると途端に恥ずかしくなる。人の言葉とは不思議だ。

「僕が揶揄ったことはないだろ」

「セイは冗談じゃなく本気だからな……」

「そこ、段差だ。気を付けろ」

 割れた地面が上下にずれ、少しの高低差を作っている。星火は繋いだ手を引き上げ、足を上げさせる。暗い地上の夜道でうとうとと歩けば三歩ごとに躓きそうだ。

「そこ、骨だ」

「骨!?」

 目が覚めるような言葉に目を見開くが、またすぐに瞼が重くなってしまう。薬を呑む前は汚染の症状で眠くなり、呑んでからも薬の効果で眠くなる。眠くなってばかりだ。

「魚か動物に襲われた人だろうな。この長さと太さだと脚の骨か? 地上じゃ珍しい物じゃない」

「でも私が地上に出てからは初めてだよ」

「水で流されるからな。瓦礫の隙間や隅の方とか、目立たない場所に落ちていることが多い」

「お化けっていないのかなぁ」

「さあな」

 二人の足音以外の物音は無く、誰もいない廃墟の夜は虚しく続いている。ドアが外れた建物が黒い口を開け、前を通る人を吸い込もうとしている。

 ナナが話していた大きな水溜まりは一夜では辿り着けなかった。眠気の取れないニナの足取りが遅いこともだが、単純に距離がある。歩いても歩いても、水の音は聞こえない。

 そろそろ夜が明けそうになり、近くにあったマンションに避難する。年季の入った古そうな六階建てだ。旧時代の建物は現代から見れば皆古いものだが、このマンションは特に古いように見える。外壁は飾り気の無いコンクリートで、所々に罅が入っている。

 六階へ登ってドアの一つに手を掛け、星火はハッとした。

「……当たりか?」

「当たり?」

「鍵が掛かってる。荒らされてない部屋かもしれない」

「かも? 鍵が閉まってるなら絶対荒らされてないんじゃないの?」

「言い切れない。ベランダを伝って入った可能性もある」

「ベランダ……」

 地下の家にはベランダなど無い。外の光を受けて洗濯物を干すのは旧時代の習慣だ。

 星火は鞄を下ろしてバールを取り出し、鍵の掛かったドアを力業で抉じ開ける。頑丈な旧時代のドアは中々歪まず、五分ほど格闘をして隣家のドアへ手を伸ばした。

「諦めたか……」

 隣家のドアは鍵が掛かっていなかった。落胆するが、何かが引っ掛かっているようで開かない。バールを一旦置き、思い切りドアを蹴る。何かが倒れるような音がした。

「よし、これで……」

 鍵は掛かっていなかったが、鎖が掛かっていた。ドアを引くと短い鎖がぴんと張る。

 鞄から新しい工具を取り出し、大きなペンチのような形のそれをドアの隙間に入れて鎖を切った。金属を切るカッターだ。

 バールとカッターを鞄に仕舞って背負い、漸く家の中へ入ることができた。ニナは星火の革鞄を見上げ、鞄の中にあるのは知っていたが使い方を初めて知って少し怖くなった。

「悪いことしたら指ちょん切る……?」

「何かしたのか?」

「わ、私の祖先の人が……」

「ニナは別に悪くないだろ。でもまあ……危ないから、工具には触るなよ」

 星火が彼女の手を掴んでいるのは躓くと危ないからだが、ぎゅっと握られた手は温かい。

「セイって兄弟はいる?」

「何だ藪から棒に」

「いたらどんな感じかなぁって。妹がいる? それとも弟?」

「妹も弟もいない」

「じゃあ独り身? 私と一緒!」

「そういうのは一人っ子って言うんだ。……兄はいたが」

「お兄ちゃんいるの!? セイが弟の方? 予想外だ……」

「僕の方が兄っぽいと?」

「セイはお兄ちゃんみたいだよ!」

「……自分じゃわからないな」

 廊下にカンテラを翳し、ドアを一つずつ開ける。と言ってもドアの数は少ない。トイレや浴室の他に、生活する部屋は一つだけだ。狭い部屋は殺風景で、カプセル型ベッドすら無かった。

「……ハズレか? 物が少ない」

「機械のベッドが無いよ。空き家だったのかな?」

「玄関に鎖が掛かっていたから家主はいるだろ。台所に食器もある。カプセルのベッドは如何にも高価だから、ナナがいた神社みたいに布団があるかも」

「住んでた人は貧乏だったのか」

「機械化が進んでいたとは言え、機械は高価だからな。僕はある程度貧しい家の方が好きだな」

 足元の安全を確認してニナの手を離し、星火はカンテラを腕に掛けて備え付けのクロゼットを開ける。丸められた布団が押し込まれていた。

「何で貧乏の方がいいの? セイの家がお金持ちだから、好奇心?」

「貧しい家は機械化が遅れているからだ。何もかも機械に頼られていると、この時代では動かせず、情報を得にくい」

 布団を広げてみるが、半分ほど広げた所でクロゼットに再び押し込んだ。黴と湿気で寝られたものじゃない。

「ニナ、ここで少し待てるか? ベランダを伝って隣の家を見て来る」

「私もベランダで待っていい?」

「構わない」

 姿が見える方が安心だ。それにまだ夜は明けておらず、部屋の中は暗い。星火が明かりを持って行ってしまうと真っ暗だ。

 二人は鍵の掛かっていないベランダへ出て地上を見下ろす。静寂に包まれた街の遠くで微かにキラリと光る物が見えた。

「セイ、あっちに水があるよ。結構広そう」

「目がいいな。そこの向こうに目的地があるはずだ」

「その向こうは見えないな」

 星火は身軽に一人でベランダを跳び越える。ベランダは隣と繋がっておらず、大股で一歩分ほど隙間がある。その隙間に足を滑らせれば地上まで一瞬だ。熟した果実のように弾けるだろう。

 鍵が掛かっていない家はそのまま窓を開けて侵入し、掛かっている家は工具で窓を割って鍵を開ける。それを眺め、手慣れている、とニナは唾を呑む。ニナが集落に囚われている時も星火はよく地上の探検をしていた。慣れていて当然だ。

 ベランダの端に両手を載せて、家を出入りする星火を眺めていると、ふと彼が片手を上げて物を投げる仕草をした。ニナが察して両手を上げると、彼は手の中の物を実際に放った。ニナは音を立てて手を叩くが飛来した物は頭上を通過して背後に落ちた。

 手を合わせたまま振り向き、地面に落ちた物を見る。小さなぬいぐるみが付いたキーホルダーだった。耳は短いが尻尾の長い動物だ。

「鞄に付けよ」

 以前彼が拾ったぬいぐるみは置いて来てしまったが、これなら鞄に付けられる。キーホルダーは初めて見るが、輪の部分を指で弄っている内に使い方がわかった。鞄を下ろして持ち手に装着する。何の変哲も無い暗い鞄が少し可愛くなった。

「――ニナ、二つ横の家にカプセルがある。移動しよう」

「わっ、びっくりした」

 いつの間に背後に戻っていたのか、頭上から声を掛けられてニナは鞄を落としそうになった。まだあまり物が入っていない鞄だが、大事にしたい。

「私でもベランダを跳び越えられる?」

「どうだろう……だが眠いんだろ? 僕が背負って跳ぶ」

「私を背負っても跳べる?」

「三メートル以内なら安心していい」

 隣のベランダまで腕を伸ばしても届かないが、星火なら脚を伸ばせば届く距離だ。

 彼はいつものようにニナに鞄を背負わせようとし、彼女の鞄が邪魔になることに気付いた。

「ニナの鞄は今、薬と灯し石以外に何か入ってるか?」

「セイがさっきくれた奴だけ」

「鞄を投げていいか? 隣のベランダに」

「何その質問!? セイの鞄も一階まで投げるよ!」

 ニナは星火の鞄を奪って頭上に持ち上げ、ベランダの外へ投げようとする。それは投げるとは言わない。落とすと言うのだ。

「わかった、わかったから。投げない」

「大事な鞄……」

 星火はニナの後ろから手を出し、何とか引き止める。一番壊れそうなカンテラは手にあるが、試したことはないが六階から落とせば缶詰も凹むだろう。

 星火は鞄を取り上げ、自分で背負って隣のベランダへ跳ぶ。目的の二つ横のベランダに鞄を下ろしてニナの所へ戻る。

 彼女を背負い、今度こそ目的のベランダまで跳んだ。一往復分、無駄な体力を使った。

「セイは大事な物ないの?」

「別に……壊れると困る物はあるが。代わりを探すのが面倒なだけだな」

 味気ない答えだ。ニナは眉間に皺を寄せた。以前ニナの髪を切った時に、切り落とした髪を記念に取っておくか星火は尋ねた。大事な物が無いから、妙な想像をしてあんなことを言ったのだ。

「そんなだから人の気持ちもわからないし愛想もないの!」

「愛想は関係あるか……?」

「彼女とかできたら、きっと守ろうとして大事もわかるようになる。彼女作った方がいい」

「ああ……人も含めていいのか。だったらニナのことは守ろうと努力しているが」

「! 口説かれてる……?」

「口説いてない」

 窓を割って鍵を開けた家に入り、先に蓋を開けていたカプセル型ベッドにニナを下ろす。カプセル型ベッドは蓋が閉まっていれば湿気や虫を防げる。現代でも快適なベッドだ。

 窓を閉め、星火は家の物色を開始する。埃を被っているが小綺麗に纏まった部屋だ。可愛らしい小物が多く、ぬいぐるみがソファに座り、もういない家の主を待ち続けている。台所には小さな植木鉢が置かれており土も入っていたが、肝心の植物の姿は無い。土が多ければ外の草木のように伸びただろうが、室内では雨も降らず、生き延びられなかった。

 玄関の鍵は締まっており、開けられた形跡も無い。ベランダの窓にも鍵が掛かり、カーテンも閉まっていた。

 住人は一人暮らしだったようだが、仕送りでもされていたのか、台所の棚を開けると缶詰など食品が多く詰め込まれていた。これは『当たり』だ。

「他の家もベランダから見てみたが、ここは家賃が安い物件だったんだろうな。貧しそうだった」

「物が少ないってこと?」

「それもあるが、機械が少なかった。物品が欲しいなら貧しい家を物色しても意味が無い。だから荒らされずに残ってたんだ」

「この部屋は?」

「自分で稼いでいたらもう少し良いマンションに住むはず……たぶん親が裕福、もしくは他の誰かから援助を受けてたんだろ。ほら、調理用の機械もある」

 ニナもベッドから飛び降り、興味津々で台所を覗く。旧型の無骨な機械だが、確かに調理用の機械だ。

「缶詰も多い。全部は持って行けないから好きな物を貰おう。ニナも好きな缶詰を自分の鞄に入れておけ」

「いいの!? 選び放題だ……お店みたい」

 棚から大小様々な缶詰を取り出して積み、カンテラに照らされるそれを繁々と眺める。乾パンもある。多くが平仮名か片仮名で、漢字が苦手なニナにも読める。読めるが料理名には詳しくないので、絵で見て判断する。

「さば、みず……すい……」

「水煮。鯖は魚だ」

「魚!」

 ニナは鞄を下ろし、にこにこと水煮缶を鞄に詰めた。魚は美味しい。

「魚なんてそこら中にいるのに、それを貰うのか?」

「でも味が付いてるんでしょ? セイは何貰うの?」

「どれにしよう……これとか? 焼き鳥だ。鶏肉だぞ」

「鳥は知ってる。見たことはないけど」

「鳥は今でも偶に見られるが、鶏に出会すことはほぼ無い。熊のような臭みが無くて食べ易い」

「美味しそうに聞こえてきた……いいなぁ。お勧めはある?」

「お勧め? そうだな……ニナが一生食べられないかもしれない物は……あ、果物の缶詰があるな。蜜柑と桃がある」

「果物!? 凄い珍しい奴だよね!?」

「ただ、液体に浸かっているから重いぞ。僕が一つ持ってやるから、軽い方を選べ」

「う……確かに重い。二つ持つのは重そう」

 大きな缶に液体が一杯に入った缶詰は重量がある。小柄で体力も乏しいニナには一つが限界だ。

「どっちも同じくらい重い……あ! 一個はここで食べたらいいよ!」

「一つは僕が持ってやると……ああ、一つも持ちたくないのか。じゃあ先に食べる方を選べ」

「迷うなぁ……」

「……やっぱり魚の缶詰が多いな。鯖、鰯、鮪……ツナも鮪か。後は……蟹、烏賊……」

 ナナの手伝い中に襲ってきた烏賊だか蛸だかを思い出した。ナナは食べると言っていたが、星火は結局食べていない。彼女が吸盤の付いた脚を干している所は見た。

「セイ、桃を食べる」

「わかった。今食べる分をあと幾つか選ぼう」

「ねえ、これは? 魚の絵が描いてあるけど、読めない」

 指を差した缶詰に目を向け、星火も首を捻った。

「ん……英語か? 何語だ……? ス……?」

 星火にも読めなかったが、中身は気になる。今日の食事に決定した。他にも料理名が書かれた缶詰を避けて置き、二人は好きな缶詰を鞄に詰めた。鞄を一杯にすると重い上に鞄の寿命も縮めてしまうため控え目にしたが、本当は全部詰めて行きたい。

「こんなに種類が豊富な当たりなんて、もう一生見ることができないかもな」

「そんなに珍しいの? 私の日頃の行いのお陰かな……祖先は悪かったけど」

「悪いことはしてなくても、良いこともしてなくないか? 熊に遭遇したのも日頃の行いか?」

「セイが悪かったかな? 私の鞄投げようとしたし」

「根に持つな……」

「謝ってもらってない」

「……わかった。ごめん」

「じゃあもういいよ。今度投げようとしたら水溜まりに投げるからね」

「わかった……」

 残った缶詰を棚に律儀に戻し、二人は気になる読めない缶詰を見下ろした。

「開けるか」

「魚の絵だし、魚だよね。楽しみだね!」

 読めない缶詰の縁に缶切りを立て、刃を入れた。缶切りが一センチメートルほど進んだ所だろうか、ニナは反射的に鼻を押さえて転がり、星火は缶切りを投げ捨てて缶詰を持ってベランダへ走った。

 明るくなってきた空に大きく弧を描き、読めない缶詰が宙を舞う。少し開けただけで強烈な臭いが鼻腔を殴って突き刺した。シュールストレミングだ。ニシンを塩漬けにして発酵させた物だが、旧時代では世界一臭いとも言われていた。二人が驚くのも無理はなかった。

「はあ、はぁ……余りに臭くて思わず投げてしまったが……何だったんだ……?」

「は、鼻が捥げる……」

「発酵食品だったのか? ここまで強烈なのは初めてだ。嗅覚が死んだ」

「どうしたら生き返る……?」

「良い匂いを嗅ぐ……とか?」

 鼻を押さえながら部屋を見回すが、良い匂いがする物など目視では判断できない。

「缶詰の中の物が腐るとは思えないから、旧時代では好んで食べていたんだろうな。慣れれば……食べれば美味しいかもな……」

「捨ててから言わないでよ」

「危険物だと思った」

 ニナは鼻を押さえ、ベランダに駆け寄る。地上を見渡しても、何処へ缶詰が落下したのか彼女の良い目でも捉えることはできなかった。

「他の缶詰は大丈夫かな?」

「読めない缶詰はもう無いから……あそこまで衝撃的な物は無いと思う」

「桃食べる?」

「食事が終わってない。桃は食後だ」

「順番なんてどうでもいいと思うけど」

 時々彼は真面目である。きっと実家でそう教育されたのだろう。閉じ込められること以外は放任だったニナとは正反対だ。

「これでいいか」

「おでん缶? おでん……?」

 背の高い缶詰を二つ、床に置く。どちらも同じ『おでん缶』だ。星火の家では誰に見せるでもない行儀も教えられていたが、今では床に置いて食べるほど行儀に頓着は無い。この家に机が無いわけではない。部屋の真ん中に座卓はある。

「おでんは……料理の一種だが、何て言ったらいいんだろうな……野菜や……色んな具材を煮込んだ料理……?」

「色んな、の所が知りたい」

「開けるから確認してくれ。僕も久し振りなんだ」

「家で食べたの?」

「いや、家では食べてない。具材を揃えるのが大変だから」

 ステイオンタブに指を掛けて蓋を全て開けて外し、ニナの前に一つ置く。ニナは早速フォークを手に缶を持ち上げようとし、並々と詰まっている液体を零しそうになった。持ち上げることは断念して床に置いてフォークを突き刺す。

「な……何だこの変なの……」

 灰色の三角形をした物が刺さったが、弾力がありプルプルと揺れている。初めて見る奇妙な物にニナは困惑した。

「石みたいな見た目なのに何かプルプルして気持ち悪い……食べ物なの?」

「それは蒟蒻だ。喉に詰まらせるなよ」

「食べ物? これ本当に食べられる物なの? 肉……じゃないよね? 野菜? こんなのどうやって畑に生えるの……?」

「蒟蒻は蒟蒻芋を加工した物だから……土の中か?」

「芋!?」

「想像してる芋の味はしない」

 あまりに警戒するので星火も自分の缶から蒟蒻を引き出して食べて見せる。弾力のある食感だ。よく醤油と出汁の味が染みている。

 食べてはいるが星火は普段から何を食べても美味しそうな顔をしない。ケーキですら変化のない顔だ。ニナは食べて良いのか迷い、だが食べられる物ではあると意を決してそれに齧り付いた。

「んっ!」

「咥えたまま揺らすな。汁が飛ぶ」

 噛み切って飲み込み、ニナは残りの蒟蒻を凝視する。

「凄い揺れる……面白い」

「食べられそうか?」

「美味しい! 初めての食感」

「こっちの細長いのも蒟蒻だ」

 糸蒟蒻を引き上げて見せると、ニナも自分の缶を掻き回して糸を引っ掛けた。二度目は躊躇わず口に入れた。

「私、細い方が好き」

「そうか」

「セイは好きな食べ物ある? 私は集落にいた頃はお供物のトウモロコシだったけど、今はケーキ」

「トウモロコシ? 粉末にしていたのは知ってるが。粉が良かったのか?」

「粉にしてない奴だよ。私しか食べてないんじゃないかな? お供物に色んな野菜があったけど、トウモロコシが一番良かった」

 ニナは教祖だ。生きている人間に定期的に作物が供えられるのは違和感があるが、ニナは生まれてからずっとその生活だった。その他を知らない。

「セイは? いっぱい色んなの知ってるんだから、好きな物もあるよね?」

「確かに色々食べたが、どれが好きかと言われると難しいな」

「多過ぎて選べないの?」

「家での食事は好きじゃなかった」

「反抗期だから?」

「ニナは家……あの集落が好きだったのか?」

「嫌い」

 歯を揃えて嫌悪を示し、おでん缶にフォークを刺す。今度は小さな茶色の玉を引き上げた。また見たことのない物だ。

「特に夜会が嫌い。ナイフで刺されて痛かった。……この丸いの何?」

「ナイフで……? 怪我はしたことがなかったんじゃないのか?」

「それは怪我じゃないでしょ? 集落の皆が一滴ずつ私の血を飲むの。それが夜会でやることの一つ。健康になるんだって」

「なるわけない」

 星火が夜会の中へ入れなかった理由が今更わかった。部外者だからではなく、即座にこう否定するからだ。ニナ以外の信者とは余り話したことがなかった星火だが、性格は身から滲み出ていたようだ。

「夜会が嫌いなんて、集落にいた時は言ってなかったな」

「んー……セイは色々教えてくれたけど、味方かはわからなかったから。助けてくれたし、今は味方だと思う」

 頭が空っぽだった少女は空っぽなりに考えていたようだ。星火はあの集落では部外者だったが、集落の人間が連れて来た者には違いない。それを信用することはできなかった。

 普段接する機会の無い部外者は未知の存在だ。ニナも考えて、自分の心を隠した。星火は教団の人々にもニナにも、奏者の腕以外は信用されていなかった。

「この玉、何?」

「……鳥の卵だ。喉に詰まらせるなよ」

「卵……!? 高級食材の!?」

 そこら辺に溢れている魚の卵は別だが、それ以外の卵は現代では滅多に見ることができない高級食材だ。存在は知っていても、それがどんな物なのか知らない者は多い。何せ人間は哺乳類だ。身近に卵を産む動物もいない。魚は水の中なので魚卵も奏者以外は見る機会が殆ど無く、魚を食べようと誰も思わないためその卵を食べる発想も無い。

「て……手が震えてきた……」

「落とすなよ」

 星火は特に感慨も抱かず小さな鶉の卵を丸ごと口に入れた。

「ニナは二口で食べろ」

「一口でなんて勿体ないからね! セイは何も思わないの?」

「家でよく食べてた。これより大きい鶏の卵だ」

「よく!? 大きいのを!?」

「鶏を飼っていたからな。毎日卵を産んでた」

「毎日高級食材を!? お金持ち過ぎない!? 本当に同じ世界に住んでる!?」

「鶏以外にも、牛も飼ってる。毎日牛乳を飲んでた」

「牛乳!? 乳製品って奴だよね? それも高級食材だよ! セイの家、頭おかしい……セイもおかしい……」

「家がおかしいのは認めるが、僕はおかしくない」

「はー……セイはきっと人間じゃないんだな」

「何でだ。人の血を飲む集落の方がよっぽど人間じゃない」

「う」

 確かに、と思ってしまったニナは眉間に皺を寄せた。嫌なことは食べて忘れよう。小さな卵は星火のように一口で食べられる大きさだが、高級食材を味わうために半分に齧った。缶に入っている汁をたっぷりと吸って醤油色に染まった卵は、嫌なことを忘れさせてくれた。

「美味しい……」

 幸せそうな笑顔を見ながら、星火は自分の缶を掻き回す。彼は毎日のように食べていたが、一般的な現代人はニナのような反応になる。住む世界が違うという彼女の言葉も理解できる。

「この缶詰、色んなの入ってて好き。……ん? この穴が空いてるのは?」

「竹輪だ。魚を擦り潰して固めて焼いた物……だったはず」

「一回擦り潰して……固める!? 魚への憎しみが凄い……」

「旧時代は魚に憎しみなんて無いだろ」

「魚なら美味しいはずだから後で食べよ。先に馴染みのある大根を食べる」

 そう言いつつ結局どれも幸せそうな顔で食べ切った。教団の集落にいた頃は詰まらない顔をして食事を摂っていたが、地上へ出てニナは表情が豊かになった。よく子供らしい表情をするようになった。

「美味しかったけど、お腹いっぱいになった……桃も食べたい……」

「すぐに食べなくても、夜にならないと出発できないから休んでろ。桃は起きてからでもいい」

「わかった。おやすみ」

「ニナが寝ている間、また近くの家を探るかもしれないから、目が覚めて僕がいなくても騒ぐなよ」

「え? 一緒に探検したい!」

「今は体調を整えることを考えろ。それに背負ってベランダを移動させられるのは僕だぞ」

 そう言われるとニナは何も言えない。ニナを背負うとまた鞄の行き場がなくなる。薬の所為で眠いのも確かであり、今回は大人しくベッドで寝て待つことにした。

「面白い物があったら見せてよ」

「あればな」

 ニナは目を擦りながらカプセル型ベッドに倒れ込む。食事中も相当眠かったようだ。子供用の薬の入手を急いだ方が良いのだろうが、地下集落の扉が見つからない。

(行商機が来た時に気付いていれば買ったのにな)

 蹴飛ばさないよう空の缶詰をゴミ箱に入れ、革鞄を背負う。缶詰を入れたお陰で重くなってしまった。

(こんなに非常食を溜め込んでいたのに、部屋に空き缶が見当たらない。住人は食べる間も無く死んだ……或いは出て行かざるを得なかったのか)

 この家の物色はニナが起きてからするとして、他にも気になる家があった。もう眠っている寝付きの良い彼女を一瞥し、星火はベランダへ出た。

 最初にベランダを渡って覗いた家の中に、異様な部屋があった。それは最初に入った家とこの家の間にある。ベランダの鍵が開いていたので、前を通過する時にニナの目に触れないようカーテンを閉めておいた。

 ベランダを跳んでその窓とカーテンを開ける。暗い部屋に光が差し、壁にびっしりと書き殴られた『たすけて』という文字が浮かび上がる。

(さすがにこれはニナが怖がりそうだ)

 壁の上方には文字が無い。星火が手を伸ばした位置よりも低い位置で文字は止まっている。おそらく女性の身長だろう。

 部屋に足を踏み入れ、カンテラを翳す。乾いたペンが転がっていた。これで壁に文字を書いたのだろう。機械化が進んでいた旧時代で紙に書くペンは珍しい物だ。

 布団がぐしゃぐしゃに端に寄せられ、あちこちにゴミが散乱している。ゴミの中には紙も多く、丸められたそれを広げてみる。

(『たすけて』……それしか書けないのか?)

 台所にも明かりを運び、足元を照らす。割れた食器がそのまま転がっている。それを足で避け、棚を開ける。

(埃が溜まっているだけで、食料は無し、か……)

 隅に袋麺が転がっているが、何かに齧られたような穴がある。

 台所に目ぼしい物は無く、部屋で目に付いた備え付けのクロゼットの扉を開ける。扉も『たすけて』の文字で埋め尽くされている。ことん、と何かが落ちる音がした。

「!」

 足元に人間の頭蓋骨が転がっていた。扉を全開にし、明かりを入れる。破れた服の中に全身の骨が覗いていた。クロゼットの中で爪を立てて引っ掻いていたのだろう、扉の裏に黒い染みがある。

(クロゼットは完全に閉まっていた……外から閉めた人がいるのか?)

 頭蓋骨と目が合う気がして、クロゼットは閉めておく。振り返った部屋は殺風景だが、引き出しのある机がある。

 机には文字が無い。引き出しを上から順に開けていく。幾つかの筆記具と一冊のノートがあった。紙のノートなんて久し振りに見た。旧時代では文房具は廃れた、と旧時代を生きた少女は言っていたが、完全に存在を消したわけではない。それを好む者や何らかの理由があって使用していた人はいる。それでも地上探索では滅多に見つからない代物だ。

 破れないようそっとノートを取り出して机上でパラパラと捲る。

(……『もうダメだ』『誰も助けてくれない』『気が狂いそうだ』『痛い』『苦しい』……『閉じ込めたあいつが煩い』『もう耐えられない』)

 日記かと思ったが日付は無く、短い言葉が書き殴られているだけだった。

(『あいつ』はクロゼットの骨か?)

 骨はクロゼットの中の一人だけだった。閉じ込めた人は外へ出て行ったのだろう。ノートを捲り、極限の状態だったことはよく伝わってきた。

(! これは……?)

 最後の方の頁にしっかりと長い文章が綴られていた。筆跡はそれまでの文字と同じだ。

(『地下移住計画発表。地下にそんなに早く家が建てられるのか? 地下移住の切符の奪い合いが始まった。オレは大金なんて積めない。無理だ。殺して奪うしかない。全部樫水(かしみ)の所為だ』『隣の部屋の女は親が金持ちらしい。脅してやろうと連れ込んだら発狂した。閉じ込めた』)

 どうやら時系列が逆のようだ。前の頁の方が後に書かれたものだ。クロゼットの中の骨は缶詰を溜め込んでいた家の住人で、その女がこの部屋に蔓延る『たすけて』を書いた。

(『移住計画を言い出したのは無河(むかわ)らしい。樫水の仲間じゃないか! 何も信じられない。無河の娘は一体何なんだ?』『知り合いが皆いなくなった。死んだ。それとも地下か? 皆どこへ行ったんだ。置いていかないでくれ』)

 聞き慣れた名前が出て来た。この世界の空を管理していた組織の二人だ。代表は無河無霧(なきり)で、樫水雲藻(うんも)はその部下である。樫水が擬似空(ぎじそら)を破壊し、世界を崩壊させた。

(無河の娘? 聞いたことがない……。この『仲間』と言うのも気になるな……同じ空を管理する仲間、なら気にすることじゃないが、犯罪仲間だとすれば常識が引っ繰り返る……さすがにそれは無いか)

 それ以上はノートに何も書かれていなかった。もっと管理者に近い位置にいる人物でないと、事の全容がわからないのだろう。

(現代では共通の不思議が幾つかある。その内の一つは奏者だが……自分のことは別にいい。空を管理していた場所、これが不明だ。場所がわかれば情報を得られそうだが、重要な施設だからな。ほいほい公表しなかったのも理解できる)

 樫水雲藻の逃げ込んだ場所とその子孫の行方も不思議の一つだが、それもすぐ近くにいるので疑問ではない。不思議の内の二つを知っているので少々優越感がある。

(……他に情報は無し、だな。このマンションは面白いな。他の家も全部調べたい……が、一日じゃ終わらない。この部屋みたいな異常がある家だけでも何とか……)

 ベランダを跳び越えられるのは同じ階の家だけだ。下のベランダにも跳び降りられないことはないが危険である。玄関の方へ回るにしても、歩き詰めの足は体力の限界が近い。

(……僕も足を休めよう。休める時に休んでおかないと)

 この壊れた世界で最も厄介なのが怪我や体調を崩すことだ。何せ医者がすぐには見つからない。薬も手に入らない。無理は禁物だ。

「……ぅわっ」

 暗い足元のゴミに躓き、転びそうになった。早速ベランダに勢い良く吹っ飛んで怪我をする所だった。

(注意力……いや足が上がらなくなってるのか。休もう……)

 外はもう完全に明るい。カプセル型ベッドは一つしかなくニナが使っているため星火は床に座って寝るしかないが、それでも疲れは取れる。星火はベランダだけは踏み外さないようにと勢いを付け、落ちはしなかったものの天井に頭をぶつけた。


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