番外編 「バレンタイン大作戦! 〜勇者も魔王も恋するショコラ〜」
ある晴れた日、ジロウはカウンターに積まれた“カカオの山”を前に唸っていた。
「ん〜、そろそろ来るな。イベントが」
その時、厨房の戸がバタン!と開いた。
「ジロウ! カカオ入荷って本当!? 今年も“あれ”やるの?」
元気な声は、リアナ。腰まで届く赤茶のツインテールが跳ねている。
「“バレンタインショコラ争奪イベント”、でしょ?」
冷静に補足したのはリディア。胸元のリボンにチョコ色のハートブローチを付けている。
そして奥からスッと現れたのは、魔王ルシカ。
「……私の分は、既に特等席に保管されているはずね?」
「いや、全員同列だぞ、ルシカ」
「冗談よ。だって、私の“愛の濃度”は別格でしょう?」
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恋の甘さ、ショコラの苦さ
カフェ《美食家の楽園》では、毎年バレンタインになると特製スイーツが登場する。
今年のテーマは「本命スイーツ」――
ジロウへの想いをチョコで表現して競う、ガチンコイベントだ。
「見てジロウ! 私のはハート型パンケーキタワー! 中からラズベリーソースがあふれるのっ!」
リアナはドヤ顔で腕を組む。
「私は、ビターガナッシュにミントとラムの香りを。大人の余裕を見せるわ」
リディアはうっすら笑う。まるでワインのソムリエ。
「私は……“君のために世界を征服したいケーキ”。名前だけで勝てるでしょう?」
ルシカはマントを翻し、どこか得意げだ。
「はいはい、全員合格。でも、一番美味いのは……」
ジロウが切り出そうとしたその時――
「……ま、待ちなさいッ!」
カウンターの奥から現れたのは、ノエル。
「わ、私だって……ショコラくらい作れるわよ! これ……その……“あなたに渡すためだけの”……っ」
赤面して差し出したチョコは、まさかの“アヒルの形”。
「……かわいいな」
ジロウがニヤリと笑った。
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甘さの向こう側
その夜、店の裏庭。
焚き火の前で、ジロウはチョコレートを一つ一つ味見していた。
「……うん、どれもうまい。俺、幸せ者だなあ」
すると――
「お、おかわりは……ありますよ?」
リアナが小声で隣に座る。
「……あなたの一番になりたい、って、言ったら……変かしら」
リディアが反対側にぴたり。
「こほん。改めて言っておくけど、私はいつでも“正式な婚姻”を希望してるわ」
ルシカが腕を組み、真面目な顔。
「……このまま、ずっと隣にいてくれたら、それでいいの」
ノエルが膝を抱えて見上げてくる。
「……ふぅ、困ったな」
ジロウは笑った。
「みんな、甘すぎて選べないや」
その一言で――
ヒロインたちの間に、静かなるチョコレート戦争が勃発したのだった。
⸻
【完】




