第二章 「美食家の楽園開店!看板娘は双子勇者!? 町と少女たちのはじまりの一皿」
「いらっしゃいませ! 美食家の楽園ーエピキュリアン・ヘイヴンーへようこそ!」
開店初日、ジロウの声が高らかに響いた。
町の人々が興味津々でドアをくぐるたび、厨房からは焼き立てパンやスープ、グリルした魚の香りが漂う。
「うわあ、店の中も広いな!」「湖が見える席が素敵だわ」「本当にジロウさんが一人で作ってるの!?」
にぎやかな会話が飛び交い、ジロウはカウンター越しににこやかに返す。
「はい、まだスタッフがいなくて。みなさんの顔を覚えるのが最初の目標なんですよ」
常連になりそうなパン屋の女主人は「じゃあ今日はパンに合うスープをお願い」とリクエスト。
「お安いご用です」とジロウが微笑めば、出来たての野菜と鶏のポトフがテーブルに並ぶ。
「……すごい、野菜の甘みが生きてる」「スープ、体があったまる!」
奥様方や職人たちが目を輝かせて料理を味わい、
子どもたちはジロウ特製のふんわりプリンを前に思わず歓声を上げる。
その昼下がり、店の扉が元気よく開いた。
「……ここが噂のカフェ?」「ほんとに湖のそばだ!」
入ってきたのは、冒険者風の服装にケープとレザーのブーツを履いた美少女の双子――
姉リアナは腰に短剣を提げて快活な笑顔、妹リディアは落ち着いた瞳で店内をじっくり観察している。
「いらっしゃいませ。ご注文は?」
ジロウが声をかけると、
「メニュー、全部見てもいい? ……おすすめは?」
「おすすめは、焼きたてパンと本日の魚のムニエルですね」
リアナが「じゃあそれ!」と元気よく注文し、リディアは「……私はポトフと、あと後でスイーツも」と静かにリクエストした。
料理が運ばれると、二人はしばらく無言で食べ続けた。
リアナが最初に言葉をこぼす。「……これ、うまっ!魚がふわふわ。パンも外がカリカリで中がふわふわ。冒険の途中で食べたやつと全然違う」
リディアも「ポトフ、出汁が深い……食べると力が湧いてくる」
ジロウは笑い、「次はスイーツもどうぞ。プリンは今日の人気メニューですよ」と勧める。
町の子どもたちが「リアナお姉ちゃん、リディアお姉ちゃん!」と声をかけ、
リアナが「今度は看板娘も兼任しようかな」なんて冗談を飛ばせば、
リディアは「姉さん、また無茶を……」と苦笑しつつも、店の居心地を気に入った様子だった。
その後も数日は、町の住人や旅人でにぎわい、ジロウは一人で忙しくも楽しい毎日を送った。
*
そんなある寒い雨の日、
店のドアが静かに開いた。
「……ジロウさん、今日……席、空いてますか……」
冒険者風のマントもずぶ濡れのリアナとリディアが、俯き加減で立っていた。顔色も悪い。
「二人とも、どうしたんだ? 風邪をひくぞ」
ジロウが急いでタオルを差し出し、暖炉の前の席に案内する。
リアナはぽつりと呟く。「依頼……失敗しちゃった。モンスターも倒せなかったし、報酬もパー。……強くなったつもりだったのに」
リディアは小さく震え、「……ごめんなさい。姉さんが無理して怪我しなくてよかったけど……もう、前みたいに戻れないのかな……」と涙ぐむ。
ジロウは黙って厨房に立つ。
しばらくして運ばれてきたのは、熱々のパンのグラタン風シチューと、やさしい甘さのプリン。
「昔、二人が住んでた孤児院の味に、近づけてみたよ」
そっと差し出すと、リアナもリディアも一瞬目を見張り、それから無言でスプーンを口に運ぶ。
「……あったかい……」「これ、前の家でみんなで食べたやつにそっくり」
姉妹の目には涙が浮かぶ。
「前の家はなくなったかもしれない。でも、この店が、君たちの新しい家になってもいいんだよ」
ジロウがやさしく言うと、リアナは目をこすり、
「……それ、ずるいな。こんな料理出されたら、帰りたくなくなるじゃん」
リディアも「……私たち、ここで働いてもいいですか」とぽつりと呟いた。
「もちろん。君たちみたいな冒険者は、うちの店にぴったりだ。実は、メイド服も用意してある。町一番の看板娘になれるよ」
冗談めかしてそう言うと、リアナがふっと笑い、リディアもほんのりと頬を緩めた。
この日を境に、双子はジロウの店を「もう一つの家」として心から受け入れ、
美食家の楽園は、町の人々やヒロインたちの居場所となっていく――。