最終章 そして、美食は巡る
あの日、転生したジロウは思った。
(またか……また異世界か。けど今回は、俺が“選ぶ”番だ)
――そして今、彼は選んだ。
戦うでもなく、帰るでもなく。
「食べさせ、癒やし、愛される」道を。
カフェ《美食家の楽園》は、今日も盛況だった。
カウンターにはいつもの顔ぶれ。
旅人に、騎士に、商人に、ちょっとした悪党に至るまで、彼の作る“心の一皿”を求めてやってくる。
「本日のおまかせは、森の恵みと魔王の火で仕上げたスモークプレート。香りに全振りだ」
「……料理で世界を救った男が、まさかこんなボケを……」
「ふふ、嫌いじゃないわ」
イヴァが微笑み、
リアナは「お待たせしましたっ!」と元気に盆を運び、
リディアは黙って皿のバランスを修正しながらニッコリしている。
そして今日は、“あの人物”もやって来ていた。
「……ジロウさん。あなたに救われたから、今度は私が“誰か”の力になりたい」
そう言ったのは、ノエルだった。
彼女は今日、“料理を学ぶため”にカフェの研修に来ていたのだ。
「……天使かと思った」
「ジロウ、目がトロけてるよ」
「惚れたか?」
「元から全員に惚れてるだろ、この人」
そんな掛け合いも、もう日常の一部だ。
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ラストスペシャリテ
その日、ジロウはとっておきの一皿を作った。
素材は、冒険の道中で手に入れた宝石のような果実と、魔核の安定化に使った神花の蜜。
器にはノエルが用意した星型のクリスタル皿。
「“未来”って名前のデザートだ」
「甘さは?」
「……可能性の味、かな」
笑いが起きて、誰もがその味に目を細めた。
「……これからも、この場所は続いていくんだな」
「そうだな。誰かが来る限り、ずっと」
ジロウは空を見上げた。
(転生も、戦いも、別れも――全部、ここに辿り着くための“レシピ”だったんだな)
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エンディングシーン
夜。カフェの裏庭。
ジロウはひとり、焚き火を眺めながら温かいコーヒーを飲んでいた。
と、そっと毛布が肩に掛けられる。
「……風邪をひくわよ、ジロウ」
イヴァの声だった。
続いて、リアナが熱々のココアを、
リディアが手編みのマフラーを、
ノエルが柔らかい灯のついたランタンを差し出す。
「……おいおい、俺がいちばん幸せってことか?」
「うん!」
「そうね」
「異論なし」
「料理人、侮れないわ」
そして夜空に、三日月が輝いた。
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【完】
『異世界五度目のスローライフ 〜美食家の楽園は今日も満席〜』




