第二十四章 旅の終わりと、新しいキッチン
空中遺跡《無垢なる竈》の決戦から数日後――
ジロウたちは再び、《美食家の楽園》へ戻ってきていた。
店の前には、村人や旅人たちが集まり、久々の開店を待ちわびていた。
「本日限定、“世界を救ったスペシャリテ”――出します!」
リアナが笑顔で声を上げると、歓声が上がった。
「……やれやれ。しばらくは静かにしたいと思っていたのに」
イヴァが苦笑しながら、エプロンを直す。
「それでも、あなたが一番はりきってるわよ」
リディアが小声で返し、ノエルが微笑む。
「この世界の“理”は、あなたの厨房に宿ったのね、ジロウ」
「理ってより、“胃袋”かな」
ジロウは、新しく据えられたカウンターに立ち、調理台を見つめながら言った。
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それぞれの選択
王都からの使者が来て、報奨金とともに「帰還の儀」を提案してきた。
「ジロウ様、もはや貴殿の使命は果たされました。この世界に留まる義務はありません」
だが、ジロウは首を横に振った。
「帰らないよ。こっちのが……俺の居場所になっちまったからな」
その一言に、少女たちは皆、小さく安堵の息を漏らした。
カズマは王都の魔術学院で教鞭をとることを決めた。
「今度は、俺が後輩たちに“調理と戦闘”のバランスを教えてくるよ」
ノエルは遺跡の管理者に。
「またいつでも遊びに来てね。次はスイーツをお願い」
王女たちからは豪華な調度品と、さりげないラブレターが届いた。
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新しい日常、新しい厨房
「おい、リアナ! そのフォーク、逆!」
「えっ!? あ、ほんとだ! ご、ごめんなさいっ!」
「リディア、厨房の火力設定、もう少し低くして。魚が焦げる」
「はい。……つい熱くなってしまいました」
「イヴァ、接客に威厳はいらない。笑顔。スマイル!」
「……“スマイル”など、戦場では不要なのだが……この客たちには必要か」
厨房とホールはいつも賑やかだった。
新メニュー、新しいスイーツ、新しい笑顔――
ジロウは時折、天井を見上げて、静かに微笑んだ。
「さて、次は……温泉付きの宿でも併設してみるか」
「ほんとにやるんですか!?」
「それ最高です!」
「……ふふ」
笑い声と香ばしい匂いが、湖の風に乗って街中に広がっていった。




