第一章 美食家の楽園(エピキュリアン・ヘイヴン)開店準備、田舎町で新生活スタート!
王都を発ったジロウは、のどかな田園風景を馬車で進んでいた。森の木々は青々と茂り、川のせせらぎが心地よいリズムを奏でる。遠くに湖がきらめき、鳥たちが賑やかに飛び交っている。
目指すは、王女アリシアから教えられた「リュエルの町」。森と川と湖に囲まれた、素朴で親切な人々が暮らす田舎町だ。
馬車の揺れに身を任せながら、ジロウは心の中でこれまでの人生――いや、人生“周回”を振り返っていた。
(さて、今回はどんな物語が待ってるやら。美食家の楽園――いい店にしよう)
町に到着したのは、ちょうど昼下がり。
まずは目を引く広場で、早速パン屋や八百屋の元気な掛け声が聞こえてくる。市場の端には、焼き魚の煙がふんわり漂う屋台も並んでいた。
ジロウはさっそく市場をぐるりと歩き回り、野菜や果物、魚、肉――見慣れない異世界食材も手にとって眺める。
「お、これは“フェルナの実”か。煮込みにもデザートにもいけそうだ」
思わず独りごちれば、隣で野菜を選んでいたおばあさんがにこやかに振り向く。
「あんた、新顔さんだねえ。料理するのかい?」
「ええ、実はこの町でカフェを開こうと思いまして」
ジロウが笑顔で応えると、たちまち市場の人たちの視線が集まった。
「カフェだって! 珍しいねえ」「スイーツも出るの?」「新しい味、楽しみだわ!」
町の人々の明るい反応に、ジロウは内心ほっとする。やはり田舎町の空気は温かい。
物件探しもスムーズだった。案内されたのは、湖のほとりに立つ古い木造の家。大きな窓からは水面が見渡せ、広々とした庭もある。
「これならテラス席も作れるな……キャンプ飯イベントもできそうだ」
想像がどんどん膨らみ、ジロウの表情も自然と緩んでいく。
町役場での手続きも、意外なほどあっさり終わった。ジロウがカフェ開店を告げると、役人たちも興味津々で「美食家の楽園」という名前に大きく頷いてくれた。
「開店の日は絶対呼んでくださいね!」
――なんとも気のいい町だ。
翌日からはさっそく開店準備に奔走した。
(ふむ、基礎はしっかりしてるな。ここなら腕の見せ所だ)
誰も見ていないところで「クラフトマスター」スキルを発動。
ジロウの手際はまさに職人芸――古い家はたちまち魔法のように生まれ変わっていく。
まずは内部を大胆に改装。広々としたレストランスペースと、しっとり大人の雰囲気のバースペースを確保。
カウンターは彼がかつて愛用したオーク材で再現し、厨房は動線も機能美も抜群に仕上げる。
続いて、湖を望む側の壁を大胆に抜き、ウッドデッキを新設。
開放的なテラス席にはパラソルと木製テーブルを配置し、朝昼晩いつでも湖風を感じながら食事を楽しめる。
「これでキャンプ飯イベントも、朝の珈琲も完璧だな」
ジロウは鼻歌交じりに設計図を調整しながら、さらなる改良に着手した。
物件の隣には、離れ(コテージ)を増築。
客用の簡易宿泊スペースとしてだけでなく、時には料理教室やワークショップにも使える設計にした。
そして湖畔へと足を延ばし、湖水を活かした特製の風呂とサウナを建設。
「露天風呂からの絶景……水風呂代わりに湖へダイブも悪くない」
湯上りの動線もばっちり確保し、サウナストーブには自慢の香木をセットする。
厨房にはインベントリから取り出した異世界最高級の調理器具が並び、食器も前世から選りすぐったコレクションをずらりと揃えた。
庭にはハーブや野菜の苗を植え、ちょっとした家庭菜園も完成。
市場で仕入れた新鮮な食材を吟味し、厨房を整える。
準備の合間には、近くの森や川へ足を延ばしては現地の野草や魚、きのこを調査。時にはリュエルの子どもたちと一緒に釣りをしたり、町の奥様方と新しいスイーツの試作会を開いたり、持ち前のユーモアでたちまち町の人気者に。
夜には改装が終わったばかりのデッキに腰掛け、湖に映る星空を眺める。
(レストラン、バー、テラス席、コテージ、風呂、サウナ……この世界でやりたいこと、全部盛りだ。さて、どんなお客が来てくれるか)
こうして、ジロウの“美食家の楽園”は、異世界最高の癒やしとグルメの舞台として静かに始動した――。