第十六章 最後の晩餐、奇跡のケーキ
「最終日テーマは――“自由”」
司会の声に、会場全体がざわついた。
制限なし、時間制限すら“あってないようなもの”。
素材も調理法も、まさに参加者の“すべて”が問われる舞台。
「自由ってのは、楽しい反面、残酷だな」
ジロウが呟いた。
「迷ったら、どうなるか知ってます?」
リディアが言う。
「……スイーツじゃなくて人生の話?」
リアナが笑う。
「迷っても、最後に“誰かを想って作る”なら、絶対に外れないわ」
イヴァがそっと言った。
その言葉に、ジロウはゆっくり頷いた。
「――よし。じゃあ作るか。俺の“最後のケーキ”を」
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キッチン・ステージ
対戦相手は、これまでの勝者たちが合体した連合チーム。
豪華食材に豪腕魔法、劇場的パフォーマンス。
だがジロウは――静かに、淡々と。
卵を割り、小麦をふるい、湯せんを用意する。
材料は質素。だが、手つきに迷いがない。
「これって……スポンジケーキ……?」
観客が首を傾げる。
「甘い香り……あっ、でもなにこれ……バターの層が違う」
「……ナッツと花蜜の香りも……」
調和の取れた、だが一見“地味”なケーキが焼き上がる。
そして、その上にジロウは――
記憶を具現化する魔法陣を転写する。
「……え、魔法使った?」
「いや……これは、“想い”だ」
ナッペを終えたケーキには、美しい装飾ではなく――
子供の頃に描いたような、不格好な“手書きの笑顔”が浮かんでいた。
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審査
審査員たちは一口――そして沈黙。
「……この味……泣きそう」
「誰かに食べさせたくなる味」
「なんでだ……ただのケーキなのに、涙が出る」
司会がマイク越しに言う。
「ジロウ様、こちらは……?」
「名は、“思い出と未来のショートケーキ”」
「短い物語の中に、ぎっしり詰まった甘さと記憶。
俺が初めて“自分のためじゃない料理”を作ったときの気持ちを――再現しただけだ」
審査員、観客、一瞬の静寂のあと――
満点札が一斉に掲げられた。
「――優勝! 美食家の楽園チーム!!」
観客が沸き、王都広場が歓声に包まれる。
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夜・店にて
「はぁーっ……終わったあ……」
リアナが椅子に崩れ落ちる。
「感情って味に出るんですね……」
リディアが目を拭く。
「ジロウ。……最高のケーキだったわ」
イヴァがぽつりと。
ジロウは、いつものコーヒーを淹れてひとこと。
「さて、じゃあ次は……この世界の“未知の味”でも探しに行くか」
「ま、また新展開ー!?」
「今度はどこ行くの!? 魔境? 天界? 地下迷宮?!」
「……まずは温泉と、のんびりキャンプ、だ」
「それ! それが一番!!」