第十五章 異種族スイーツ決戦!封印のレシピ、再演
「スイーツは、な……封印してたんだよ、俺」
開会前、ジロウは小さくつぶやいた。
「え? なんで?」
リアナが興味津々に身を乗り出す。
「甘いものってのは、簡単に人の“好き”に触れる。……だから怖いんだ」
「ふぅん。じゃあ、今日は“怖くなるほど美味しい”ってことですね♪」
リディアが笑顔でメモ帳を閉じる。
「言ったな。後悔すんなよ?」
⸻
王都広場の特設会場――本日のテーマは《異種族×スイーツ》。
審査員は、人間、エルフ、獣人、魔族と各種族から選出されている。
対戦相手として現れたのは、長い白髪をなびかせた青年。
「我こそは、“黒月のパティシエ”ヴィセリア。異種族への愛と恨みを込めて、この皿にすべてを!」
「お、おう……語彙が重い」
彼の作るのは、「魔蜂の毒蜜ゼリー」。
口に入れた瞬間、酩酊するような快楽と若干の痺れが広がる“中毒性のある甘味”。
会場がざわめく。
「うわ……やばい、これ……癖になる……」
「まるで愛と呪いが混ざってる味!」
⸻
ジロウは言う。
「……なら、俺は“愛だけで満たす”」
彼が取り出したのは、前日に魔族領で調達してきたレア素材、
・雷鳴樹の樹液(魔族特産の蜜)
・浮遊卵(浮遊鶏という空を飛ぶ鳥の卵)
・氷花の花粉(エルフの冷却香料)
これを丁寧に温度管理しながら、パータ・ボンブ(温製メレンゲ)と融合させて――
最終仕上げに、火を使わず冷気魔法で瞬間冷却!
完成したのは――
《四種族調和のミルフュージョン・グラッセ》
透明な多層ゼリーの中に、異なる文化の味と香りが優しく重なる一皿。
⸻
審査員が一口――そして、言葉を失った。
「……この香り……母の腕の中のぬくもりのようだ」
「懐かしい……これは、もう“食事”ではなく、“記憶”だ……」
観客は一斉にどよめき、審査員全員が満点札を上げた。
実況が叫ぶ!
「勝者――美食家の楽園チーム!!!」
⸻
試合後、ヴィセリアが静かに帽子を取ってジロウに近づいた。
「……一口で、恨みが溶けた気がした。俺、もうちょっと“甘さ”信じてみるよ」
ジロウは笑う。
「甘いのは、人生に一匙でいい。けどその一匙が、きっと救うこともある」
⸻
その夜。店ではささやかなお祝いが行われていた。
イヴァが言う。
「スイーツって……心の奥が緩むのね」
「今度一緒に作ってみるか? 女の子同士の好みもあるだろ」
「う……わ、私は、その、甘いのは別に……」
頬を染めるイヴァの姿に、リアナとリディアがこそこそと笑う。
「これは……次はイヴァちゃんメイン回だな」
「ラブの香り、強めで……と♪」
⸻
そしてジロウは、空を見上げてぽつりと。
「……スイーツがここまで響く世界なら、俺ももう一度……あれを作ってみるか」
彼の脳裏に浮かんだのは、かつて一度だけ作った“奇跡のケーキ”。