第十四章 三日間限定!王都最大のフードバトル、開宴!
「――ジロウ様! グラン・グルメ・フェスタへのご出場、ぜひ!」
王都商工会からの“まさかの直接依頼”に、ジロウはポカンと口を開けた。
「いや、俺もう出張営業でいっぱいいっぱいなんだけど……」
「報奨金一万金貨と、“王都グルメ王”の称号が付きます」
「出ます!!!!」
というわけで――
「ジロウさん、朝市の素材買ってきましたっ!」
リアナがフルパワーで店に飛び込んでくる。
「昨日より倍の人並みです。対策が必要かと」
リディアが早朝から市場マップを再構成。
「ふん。“厨房は戦場”。気を緩めたら終わりよ」
エレシアが新調されたエプロンをビシッと決める。
「出場申請、完了したわ」
イヴァが仮面を外した笑顔で厨房に入ってきた。
その表情は、もう“過去の女”ではない。
ジロウは新しく届いたフェスタのフライヤーを見ながら呟いた。
「……参加チーム数、168……」
「やば」
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【王都グラン・グルメ・フェスタ】
開催期間:3日間
出場者:王都中の店・料理人・貴族・魔族勢力含む
競技形式:日替わりテーマ制・ポイント制トーナメント
優勝特典:王都グルメ王の称号/三ヶ月間の免税特権
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そして、迎えた初日――
ステージ上に現れたのは、ひときわ目立つ一団だった。
「さあ! 今日のテーマは“地元素材×朝食”! 最強の目覚めを叩き出せ!」
実況が高らかに叫ぶ中、観客がざわつく。
「あの料理人……王女専属って噂の……」
「“氷の貴公子”クラヴィスよ!」
白銀の髪に氷色の瞳、完璧なナイフさばきで名を馳せる貴族料理人が登場。
「久しぶりだな、ジロウ・ミナセ。……いや、“元・勇者ジロウ”だったか?」
「おう、クラヴィス。まだ、マカロニで人泣かせてんのか?」
「フッ、それはそっちのセリフでは? 今日も“泣ける味”を作る気か?」
挑発が熱い。周囲の熱気がさらに高まる。
「やってやろうじゃねえか。泣かせるけど、ちゃんと朝から笑顔にできる“旨さ”でな」
⸻
試合開始――!
テーマ「地元素材×朝食」
クラヴィスは、王都南丘の“凍結ミルクパプリカ”を使った冷製シチューと氷パン。
一方ジロウは――
「おい、リアナ、例の“発酵玄米卵焼き”の試作、出してみろ」
「はーい! セルク草の香り、整ってます!」
王都の伝統薬草“セルク”と、現地の発酵玄米、そこに黄身を落として焼いた、
**「ふわとろ温泉卵焼き・地の香仕立て」**が完成!
判定――
「勝者:美食家の楽園チーム!」
観客:
「なにこの卵焼き……香りで目が覚める……」
「朝から泣けるとか反則!」
「イヴァちゃん笑顔かわいすぎる!」
クラヴィスは苦笑い。
「……認めよう。今日の朝は、君に負けたよ」
「明日も負けてくれて構わんぞ?」
「調子に乗るな」
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夜・店のまかない席
「にしても、あの氷の貴公子、やたら絡んできたな」
リアナがスプーンをくるくる回す。
「ジロウと過去に因縁があるのでは?」
リディアが日記に記録しながらこそっと聞く。
「……昔、俺の作った料理で、アイツ、告白失敗したんだ」
「え?」
「卵サンド食ってる時に振られたらしい」
「絶対根に持ってる!!」
店内に笑いが弾ける。
イヴァも、こっそりと口元を押さえながら微笑んでいた。