第十一章 再現されし禁じられたレシピ、王都炎上
「これは……」
ジロウの脳裏に、かつて見たことのない“キッチン”が浮かび上がっていた。
ただしそれは、厨房ではなかった。
祭壇。儀式場。神殿のような石の部屋。
その中央で、彼は――“ひと皿”を差し出していた。
「思い……出したか?」
王都魔術局の老魔術師が問いかける。
「……あれは、“命を呼び戻す”料理だった」
魔力でも蘇生できなかった王女を、“食”によって再生させた奇跡。
それがジロウの最初の転生の記憶――そして、“禁じられたレシピ”の正体だった。
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その頃、王都南区・魔術院地下。
ひとりの男が、ジロウの記憶断片を元に、模倣された調理式を起動していた。
「ふふ……“世界を変える味”か。そんなもの、我が呪核錬成術で完全再現してくれる!」
男の名は、バステル。魔術局を追放された“錬呪術士”。
彼は禁忌の魔核を素材に、再現不能とされた“レシピ”を再構築しようとしていた。
「味のない人生に、終止符を!」
だが、完成した“魔核調理式”は暴走。
不完全な記憶と不完全な素材により、王都の魔素が爆発的に乱れる――
――ボンッ!!!
王都南区上空に巨大な黒炎柱が立ち上がった。
「……何の音?」
リアナが振り返る。
「瘴気です!しかも異常な密度……!」
リディアが顔色を変える。
エレシアは一歩前に出て、空をにらむ。
「“料理”を――冒涜したわね」
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ジロウは静かに包丁を握った。
「行くぞ。“食”ってのは、人の命を繋ぐもんだ。
それを毒に使おうとする奴は――俺が調理いてやる」
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魔術院地下――暴走した調理陣式の中心、
黒煙の中でバステルが高笑いする。
「お前が“元祖”だな、ジロウ!
俺のレシピが不完全だったのは、貴様の記憶がまだ欠けているからだ!
さあ、その記憶を寄越せ!」
「……あー、うるせえ。てめえ、なんでそんなギトギトした脂臭え声してんだ」
「なっ……!」
ジロウが一歩踏み込む。背後にはリアナ、リディア、エレシア。
「俺たちが出すのは、命を潤す“食卓”だ。
そっちは“ただのエゴ”。不味いんだよ。全部、食材にすらなってねぇ」
「ふざけるなああああああああ!!」
暴走魔核がバステルの体と融合し、巨大な肉塊の魔獣へと変貌していく。
リアナが叫ぶ。「ジロウさん、後ろから焼き場つくります!」
リディアが指示を飛ばす。「中心部の反応抑制、今こそ、あの調理式を!」
ジロウは包丁を構えた。
「いくぞ――スキル発動!」
《特級調理技法・再現解放式》!!
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大量の蒸気が炸裂し、ジロウの記憶にあった“最初のレシピ”が完全に具現化する。
それは、白く光るひと皿のポタージュ。
人を温め、目を覚まさせる味。
「――喰らえ、命の一匙!」
その光を核に投げ込んだ瞬間、魔獣の叫びが止まった。
黒い瘴気が音もなく溶けていき、調理式は完全に“浄化”された。
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バステルは崩れ落ちる寸前、何かをつぶやいた。
「……あれは……確かに……うまそうだった……っ」
ジロウは包丁を収めると、肩を回して言った。
「やれやれ、また営業妨害か。……でもまあ、たまには出張厨房も悪くないな」
ヒロインたちが駆け寄ってくる。
「ジロウさん!おつかれさま!」
「今のレシピ、完全に“奇跡”でしたね……」
「ふん、ちょっとだけ感動してやったわ」
ジロウは微笑む。
「さて――じゃあ本番だ」
「“王都臨時支店・美食家の楽園”、いよいよ開店だ!」