幕間 焼ける肉と溶ける距離、復興バーベキュー大会!
呪核の騒動から数日後――
街は少しずつ、でも確実に元の暮らしを取り戻していた。
そして今日。「美食家の楽園」主催の復興応援炊き出し&バーベキュー大会が始まった!
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「さあさあ、焼けたぞー!遠慮すんなよー!」
ジロウが手際よく分厚い肉を返し、香草とニンニクをすり込む。
ジューッと火が走るたび、町の子どもたちが「うわーっ!」と歓声を上げる。
「こっちは魚介担当よー!」
リアナは巻き髪をゆらしながらエプロン姿で焼き台に立つ。
だが、汗ばんだシャツが少し透けていて――
「ジロウさん、見すぎ!」
「あー、いや、火の具合をだな……」
「ふーん……じゃあ、この貝の向きも見てくださいよ?」
(あざとい。だがかわいい)
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一方、リディアは大鍋スープの前で魔導書を広げながら奮闘中。
「温度調整は魔石第3層。香味は先にローリエを……」
「なあ、それ詠唱しないとダメか?」
「雰囲気ですよ、雰囲気。今日は気分がいいので少し“中二病モード”で」
ジロウが手伝おうと鍋に手を伸ばすと、指先がリディアの手とふれる。
「……っ。す、すみません、わたし、汗……」
「いや、こっちも手ぇ冷えてたから助かった」
(……静かな照れ顔、破壊力やばいな)
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その隣で、エレシアはワイン片手に焼き野菜をつまむ。
「ふん、下々の集まりも悪くない。特にこの肉、熟成具合が絶妙」
「自分で漬けたソースだからな」
ジロウが差し出したのは、赤ワインと味噌をブレンドした特製ソース。
「……一口だけ、試してやってもいい」
エレシアが口元を開く。ジロウがそのまま肉を差し出すと――
「……あ、あーんとか、そういうつもりじゃないからなっ」
「俺も何も言ってねぇぞ?」
「くっ……!!(でも美味しいぃぃぃぃ!)」
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陽が傾く頃、宴は最高潮。
町の人々は笑い合い、子どもたちはお腹をさすって満足そうに座り込む。
ジロウは焚き火の前で一息つき、肩を回す。
「……やっぱり、こういうのが一番いいな」
そこへ王都からの伝令が一通、届く。
封を切ると――そこにはひとこと、
「王都魔術研究局、並びに王家より通達。
“元・勇者 ジロウ”に対し、記憶および記録管理に関する聴取のための召喚を行う」
(――来やがったか、ついに)
手紙をポケットにしまい、空を見上げる。
「ま、たまには王都メシも悪くないか……だけど、こっちの肉のほうが、うまいけどな」
エレシアが隣に座り、リアナとリディアが両脇を囲む。
「……次は、どんなメニューが待ってるのかしらね」
「王都でも出張店舗、開きますか?」
「ダメです、私たちの定休日はしっかり確保しますからね」
ジロウは肩をすくめながら笑った。
「はいはい、じゃあ“移動式・美食家の楽園”ってことで」
焚き火がパチ、と弾ける。
その音が、まだ続く冒険の“前菜”であることを、彼はもう気づいていた。