第7話 サボり魔くんの華麗なるハンティング
「じゃ、授業始めるぞー」
教壇から全く見えていない訳は無い。だが三浦は平然と授業を進めようとしている。
たたたたたたたたた
微かで、軽やかなタイプ音は、止まる気配を見せない。
(すごいタイピング速度! 画面がどんどん進んでいくし、なにあのプログラミング言語。羅列……全然追えないっ! さすが都会者ね)
男子生徒——薮 孝志郎の眼がせわしくプログラム言語を追って動く。
天麗には、その何かを探す視線視線にに覚えがある。
ゲームに没頭する自分が、ゾーンに没入仕切っている時のソレだ。とすれば彼は今、授業に始まったこの場で何かを追っているに違いない。
エネミーか?
レアアイテムか?
レベルアップの経験値か?
人目の多い教室、授業を始めようとする教師を前にしての超集中。
なんという胆力!
なんという背徳感!
端から見ているだけでハラハラドキドキと、脈拍が上がって気持ちが滾り、昂る。
一心不乱な薮の様子を見れば、タブレットの先に広がるモノが、相当稀有で価値あるものだと判断できる。冷静な中にも、秘めた熱を放つ視線は、捕獲者のそれだ。
「ねぇ、どんな凄いものを捕まえようとしてるの?」
「ぅふぁあっ!??」
椅子を転がす派手な音を立てて、薮が腰を浮かせた。
隣の席から身を乗り出し、下から覗き込んだ天麗と目が合った途端の反応だ。これまでの無関心を差し引いても、お釣りが来る。
たが、チラチラと振り返る生徒は居るものの、教師の三浦は痛む頭を押さえるように額に手を当てつつ授業を続行している。特に注意するつもりも無いらしい。
ならばとばかりに、天麗は薮との距離を縮めるべく、覗き込んだ姿勢は維持したまま「だから、何を捕まえるの?」と囁く。
「は? 捕まえるって?」
キョトンと大きな瞳を見開いて、天麗を見詰める。ようやく見えた薮 孝志郎の面立ちは、整ってはいないが、鼻も目もくりんと丸い癒し系だ。一旦その顔を見てしまえば、脇目も振らずにキーボードを叩く姿が、リスやハムスターが一心不乱にヒマワリの種を食べている愛らしい姿とダブって見えてくる。
「そ。違うの? すごく良いモノなのよね?」
微笑ましく見える、齧歯系の顔にニッコリ微笑めば、薮は更に大きく目を剥いて「履き違えるな、僕。勘違い警察案件だ」と呟いて深呼吸をする。
じっと見詰める天麗と目が合ってはスーハーと大きく息をするのを繰り返すこと数回。
「捕まえるとは違うな。起こしてるんだ。0の泡に埋もれた眠り姫を」
ようやく答えを返した。話し出せば、彼自身が夢中になるジャンルの話だけあって、饒舌に言葉が溢れ出してくる。
「実は半分くらいもう助け出してる。けどまだ全貌が見えないミステリアスな姫なんだ」
「何それ!? 面白そう!」
授業を忘れて満面の笑顔を交わす二人に、三浦は、やっぱりこうなるよなと、ひっそり遠い目をしたのであった。