第6話 ゴロにゃん猫ちゃんかぶりの腹黒天使降臨
朝のホームルーム開始前は、何かと慌ただしい。
登校した生徒たちは、通学リュックに詰めた教科書を机に移し、各々のタブレット端末を操作して学園マザーコンピュータに接続する。
「あーっ! んだよ、ファイルがとんでるし」
「AI助けてっ! 3問目当たってたんだけど、忘れてたっ! え!? 解くためのヒントって、そんな時間ないんだけどぉ」
「皆ギリギリにデータ送付しすぎー! データ転送重いんだけどぉ」
「みんな一斉に家庭学習送るんだから仕方ねーだろ。って俺のデータも行かねー」
AIといえど完璧ではなく、些細な問題は起こる。その問題もAIに相談して対応策を瞬時に練る。そうやって、生徒とAIとの補助関係がある程度構築された2年生。
今日も、いつもと同じ騒がしい一日が始まる。
そう皆が思っていた、新年度開始から一週間を経た朝のホームルーム。
「惣賀 天麗です」
真新しい濃紺のジャケットに、白いブラウス。アクアブルーの幅広リボンタイをふわりと結び、グレーの膝丈プリーツキュロットを履いた、黒髪さらさらボブヘアーの美少女、いや、天使が降臨した。
「父の急な仕事の都合で、始業式から遅れての転入となりました」
(ウソは言ってないわ。ホントは単身赴任予定だった父さんが、大好きな母さんとわたしから離れたくないーなんて大騒ぎして、予定になかった家族での引っ越しになったんだもの。
父さんの醜態をバラさなかったのは、娘からの慈悲ねっ。にゅふふ)
慈悲とは言うものの、父親の我儘を聞く代わりに、公立中学ではなく教育の最先端と名高い私立高校への転入できるなら——と、しっかり交換条件を飲ませて居る。
外見は天使だが、しっかり腹の中は黒い天麗だ。
男子生徒は雑談を忘れ、女子生徒は社交の愛想笑いを忘れて、清雅な美しさの彼女を見ずにはいられない。
(わたしだってやれば出来るのですよ。印象良く、浮かない様に。敵を作んない様に。人当たりの良い、いい子ですよーってゴロにゃん猫ちゃんしとくのです!
ホントは今だって、いつメンとレイドボス討伐に参戦しときたいとこだけど我慢っ。足場固めで居心地良いホームグラウンド・ゲットなのです!)
「前に座って皆に注目されすぎるのも落ち着かないだろうからな。取り敢えず一番後ろの、薮 孝志郎の隣に席を用意しといたから」
担任・平瀬が指し示した方向を見ると、方々からの視線とぶつかる一方で、全く天麗を見ようともしない、俯いたままの男子生徒の隣の席が空いている。窓際、最奥の席だ。
「よろしくね」
「――」
声を掛けるが返答どころか、反応すらない。
俯き加減の視線は、机上のタブレット端末に固定され、彼の手元は休むことなく忙しく動き続けている。
(えーと。これって、どう見ても授業に関する事じゃなくって内職っていうか、サボり魔くん……だよね?)