遠くない
その昔、雨上がりに、
寝転んだ古い縁側。
忘れられた風鈴の音が、
幼心に降っていた。
夏からそう遠くない
蝉の音が消えた頃か。
できるだけ思い出そうと、
だけど、途切れてゆく。
自分はどこにいて、
何と何をしていたのか。
誰も知らないあの場面、
大切になっている。
退屈になり、折り始めた
折り鶴の作り方は、
いつ誰に尋ねたのか。
それとも、おりがみ全書か。
うつ伏せで、折っていた。
歪めないで、拗らさないで。
たぶんそれが好きだった。
たぶん夢中になっていた。
自分は誰に会い、
何と何を尋ねたのか。
いつの間にか知った
自分だけの折り方。
折る指先の向こうで、
小さな蟻が歩いていた。
触覚を盛んに動かしながら、
どこへゆくのやら。
風鈴は夏から降り続き、
折り鶴はいくつも折れた。
蟻が探していたのは、
蟻が欲しいものだったか。
自分はどうだろう。
何と何を探したのか。
自分が欲しいから
探し求めたはずの。