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三題噺もどき3

作者: 狐彪

三題噺もどき―ごひゃくはち。

 


 お気に入りの音楽を流しながら、気分を上げていく。


 車の運転中。

 好きな歌手のCDを流している。

 セットリストも頭に入っているくらいに聞きなれた。曲が終われば、次の曲の頭がすぐに脳内で流れ出す。答え合わせをするように、スピーカーからも流れてくる。

「……」

 いつもなら、歌いながら運転しているんだけど。

 今はもうそんな気分にもなれないくらいに憂鬱だ。せめてもの抵抗で、いつもよりほんの少しだけ音量を上げて聞いている。

 外の音が聞こえなくなってはいけないので、そこに支障がない程度に。

「……」

 あまり行き慣れていない道。

 とは言え、自分の住んでいる町なのでいつもよりは気を付けつつ、車を運転している。

 これだけでも、少しストレスがかかるのに、これからのことを考えるとさらに胃が痛くなってくる。食事をしに行くのにこれではなぁ。

「……」

 憂鬱な、あの人たちとの。送迎会。

 まだ、ランチだっただけマシなのかな……。これが夜の居酒屋とかになってしまったら、一体何時に帰れるんだろうなんてことになっていたかもしれない。車を運転するから飲酒もできないし、ただの地獄の出来上がりだったな。あまり酔うこともないので、どちらにせよ自分にとってはきつかったかもしれない。

「……」

 遠くに見えた標識を確認し、車のスピードを落とす。

 ここを、右に曲がる……と。

 指示器で右に曲がることを伝えながら、一時停止をする。信号がないので、車の往来を確認しながら、進んでいく。

 時間帯の問題なのか、それともこの道はそもそもそうなのか。あまり車通りはないようだ。すんなりと右に曲がれた。

「……」

 ここをこのまま真っすぐ行けばあると言っていたが……。

 あぁ、あの看板か。

 初めて来たのだが、割と有名なところらしい。母に知っているかと尋ねたら、とてもおいしくて有名なんだと言われた。たまに母の職場でも行きたいなという話になるらしい。仕事柄、ランチは難しいので、いいなぁとも言われた。

 何もよくないので、そんなことを言われてもと言う感じでしかなかったが。

「……」

 これ、駐車場は……こっちなのか。

 道路挟んで反対側にあるとは。

 店の隣にもあるにはあるが、数台しか止められないようだ。

 まぁ、一応、こちらに止めておこう。あっち側は上の人たちが止めるだろうし……。

 砂利の敷かれた駐車場に入り、一番端の方に止める。

「……」

 まだ誰も来ていないのかと思ったが、一台見知った車があった。

 あっちもこちらに気づき、車から降りてきたので、エンジンを切り、気持ちを切り替えて降車する。あの人はまあ、早いだろうなとは思っていたが、一番に来るとは……。苦手な人ではないので別に苦ではない。

「お疲れ様です」

「おつかれー」

 軽い会話をしながら待っていると、一台また一台と見知った車が入ってくる。

 そこまで広い店内ではないだろうから、今日はほとんど貸し切り状態だろう。

 幹事をしてくれた人が来たので、まだ上の人たちは来ていないが暑いから中で待っていようと言うことになった。どうやら、急遽の予定か何かが入ったらしく、それで遅れてくるらしい。さすがにこのままここで待つのも疲れるので大歓迎だ。

「……」

 中に入ると、冷たい空気が一気に外に流れ出てきた。

 一瞬ふるりと身震いをしたが、それもすぐに治まり、店内の冷えた空気に安堵を覚える。

 中はいかにもおしゃれという感じの雰囲気で、なるほどランチには持って来いな感じだった。窓には花瓶や、小さな動物の置物があったりして、思わず母が好きそうだななんて思った。……あの試験管なんて、あんな風に花を挿せば一気におしゃれ感が増すんだからすごい。一輪だけのモノなのに、それだけでかわいい。あれぐらいなら家でもできそうだよなぁ。いまなら百円ショップとかにも試験管みたいなの売ってたりするもんな。

「……」

 数分ほど待ったが、まだこれそうにないので、先に席に座っていることになった。

 注文も各々で済ませ、飲み物やサラダなどもそれぞれ確保していった。

 後は料理が来るのを待つだけというタイミングで、やってきた。

 どうやら、なにか不機嫌なようだ。が。

 机がべつなので、こちらの知る由もない。

 幹事の人が気を使ってか、同期と同じ机で良いよと言ってくれたので、お言葉に甘えることにしたのだ。少し苦手タイプの子ではあるが、あの人といるよりは話も弾むし、気が楽なので、ホントにありがたい。

「……」

 それからは、食事を楽しみ、会話を楽しみ。

 残念ながら、上の人たちがいるので、愚痴大会とはならなかったが。

 今までよりは、気楽に話せたような気がする。

 残念ながら、お涙頂戴なことになるわけもないので、食事が終われば早々にお開きになった。送迎会っていったって、食事をして終わりだ。変に大きくされるよりはこっちの方がいい。


 なんとなく集合写真を撮った帰り際。

「今日は、ありがとうございました」

「また、月末よろしくね」

「はい」

 出来るだけ、笑顔で、明るい声で返事を返した。

 まだ仕事があるんだろう、さっさと帰っていく車を見送り、自分の車に乗り込む。

「……」

 他の社員も帰っていく中、どっど出た疲れで動けなかった。





 お題:試験管・涙・標識

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