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9.聖地巡礼


 うわー! うわー!


 さっきから、ぽかんと、口が開きっぱなしになっている。


『ここ見たことある!』の、連続である。


「おおおおにいさま! お願いです! ちょっとそこに立ってください!」

「え?」


 カイルにとっては何でもない所だろうが、後ろの窓から、庭の池が少し見える。この角度だ! 廊下でキャラに会った時の背景はここだ!


「そう! そこ! それでポーズはこんな感じで……ああ、そう、眼鏡のブリッジに指を乗せて…… ちょっと斜めに……あっ、そんな感じ! こっちに目線お願いしまーす!」


 うわあああ!!

 廊下で会った時の絵だよ!  お前に興味はないが、ケンカする事もないから笑っとくかっていう気持ちを、隠すつもりもない笑顔が最高だよ!!


 私は大興奮で、心のシャッターボタンを連写する。

 そして、カイルのそんな笑顔も、さすがにだんだんひきつってくる。


「……マグノリア。さっきから一体なんなんだい……」


 せっかくだから案内しよう、と、カイルに連れられて色々回っているのだが、ここ知ってる!! の連続で、私はもう興奮状態。しかも最高のモデルもいるのだ。


「お兄様! あの橋! 池の橋のところに私行きますから、迎えにきてください! ちょっと乱暴な感じで!」

「何でだよ」


 ついに突っ込まれた。幸せ。

 マグノリアとヒロインが池のところで喋っていると、カイルが二人を引き離しに来て、強引に連れ去るシーンがありましてね。

 あの時のマグノリアすっっっごい可愛いんですよ。カイルに引っ張られながら、困った顔で微かに笑って手を振るの。

 マグノリアならやっておきたいじゃない!? ヒロインまだいないけど。


 カイルは最初はよくわからないながらに、私の勢いに押されて付き合ってくれていたが、つい調子にのってポーズ指導まで始めると、何かおかしい事に気がついたようである。


 ふん、と、息を吐くと、


「僕はもう行くよ。なぜか矢鱈と詳しいみたいだし。僕は図書館にいるから、帰る時は声をかけてくれ」


 と、ついに見放されてしまった……


 でも、意外とカイルは押しに弱いようだ。さっきも押しまくったら、数ポーズは付き合ってくれた。心のアルバムを念写できる魔法を探そうと思う。きっと有る。


 それに、帰る時は声をかけてねって、一緒に帰れるって事……!?

 何この人生楽しすぎる。


「マグノリア、俺が代わりにやろう。こうかな?」


 あまりの興奮と幸せに、息も絶え絶えになりながらカイルの後ろ姿を見送っていたら、なぜかずっとついてきていたレオンが、さっきまでカイルがいた所に代わりに立つ。

 そしてなぜか颯爽とポーズを取り始めた。


 体育会系イケメンが、インテリ眼鏡イケメンと同じポーズをすると何かがおかしい。

 そもそも眼鏡かけてないから、なんか目もとを押さえる指のせいで中二病っぽいポーズだ。カイルだと流し目が色っぽいのだが、レオンだと眼力が強すぎて、これから必殺技でもだすのかな? って感じだ。


「うーん、……レオンはたしか、まっすぐ立って、片手を軽く腰に手をあてて……」


 ポーズ指導通りにやってくれる。


「あー、そう、こんな感じだった」


 見覚えのある画角になったので、心のシャッターを一回だけ押した。


「池の橋だっけ? 迎えに行く。乱暴……にはしないけど」

「いや、それはいいわ」


 そのイベントはカイルとマグノリアですからね。レオンにやってもらっても違うだろって思う。

 断られたのがショックだったのか、何だかしゅんとしている。レオンのイベント……うん、ごめん、何も思いつかん。


「あ、ならこの窓枠のところにこんな感じで寄りかかって……」


 せっかくだから、スチルっぽいポーズでもとってもらおうと思って色々指示すると、パッとやってくれる。さすが騎士見習い。あいまいな指示でも正確に理解し、そして体幹がよいのか、どんなポーズもピタっと決まる。


 何だかモデルみたい。

 レオンのスチルはよく覚えていないが、騎士だったらこんなかなーというポーズをとってもらう。なかなかかっこいい。


「あー、カメラ欲しい」

「かめら?」

「こら、何をやってるんだ」


 レオンにポーズを取らせて遊んでいると、後ろというか上から、呆れた声がかけられた。


「ルーカス!こんにちは!私、今日からなのよ!」


 振り返ると、ルーカスがいつのまにか後ろにいた。ルーカスは大きいので、見上げるようになる。神官の服もまた、ルーカスの大きさを目立たせているのだ。白くて面積が大きい。

 私が挨拶すると、ルーカスは優しそうなタレ目を和ませた。


「はい、マグノリア、こんにちは。レオンも、こんにちは。人が集まってきちゃったよ。何やってるの」


 周りを見ると、お嬢様たちが遠巻きに見ていた。レオンをみて、きゃーきゃー言っている。

 カメラがあれば、絶対囲みができていたと思う。かっこいいもんなぁ。


 ルーカスがそれを見回して、私にお小言を言ってくる。真面目に教員をやっているようだ。さすが社会人。


「……学友にコスプレイヤーの真似事をさせるのは宜しくないんじゃないかな?」

「大丈夫よ!レオンはよくわかってないもの!」

「うん、よくわかってないから、ダメだよね?」


 私が怒られていると思ったのか、レオンがすっと間に入ってきた。


「ルーカス、俺はマグノリアのものですので、大丈夫ですよ」

「……うん? ……もの? ……マグノリア、レオンとどういうご関係?」

「レオンは私の騎士なの! ルージュ公にいただいたの!」


 私は自慢気に胸を張る。レオンがそれに合わせて片膝をついて、両手で私をひらひらと指す。この子が主人ですよ、と、アピールしてくれてるみたいだ。

 意外とノリがいい。


「ほーほほほ!」


 気分が良くなって私は扇を取り出し高笑いを決める。


 ルーカスの笑顔が引き攣る。

 非難がましい目で私を見て、口をあけずに、私にしか聞こえないように低い声で言った。


 「俺のマグノリアをこれ以上おかしくすんな」


 誰がお前のマグノリアだ。


 そしてルーカスは一つため息をつくと、レオンの肩を叩く。


「レオンはそろそろ魔法剣の授業だよ、もう行きなさい。マグノリアの面倒は引き受けるから」

「しかし、俺は、マグノリアの騎士ですので、授業よりお側にいるべきかと」


……この人何のためにここに来てるんだ? 学生だろ?


「レオン、授業は受けないとダメだと思うわ」

「マグノリアが言うなら……」


 レオンはものすごく名残惜しそうに去っていった。

 何度も何度も振り返りながら、トボトボと去っていった。ぺたんと垂れた耳と尻尾が見えるようだった。


 私はもしかして、騎士の責任感を甘く見ていたかも知れない。

 ちょっと、レオンの付き合いが良すぎるとおもう。


 ゲームでは、護衛という事で送り迎えはされていたが、ついたら別行動だった。

 ゲームはただの護衛で学友、今はルージュの騎士と主人、だからだろうか。



 +++



「さて。あと見てないところは? 案内するよ」


 ようやくレオンが見えなくなって、集まっていたお嬢さん達も散っていった。

 ルーカスが私を見下ろす。


「ルーカスもちょっとそこに立ってみ……」

「いやだ」

「ちぇ」

「マグノリアはちぇ、とか言わない」


 ルーカスに連れられて教員室に入る。そういえばゲームで、ルーカスに会いたいときは教員室だった。ほとんど行かなかったけど。


「おおー、まんま立ち絵だー本物だー」


 なんだか感動してしまった。


「それはもういいから。せっかく通うんだからカリキュラム決めたりしないともったいないだろ」


 どさどさ、と、いろいろな本を出して広げていく。


「お前が何歳まで生きてたか知らないけどさぁ、大人になったら一回くらい考えたろ、学生時代もっと勉強しときゃ良かったって」


 なんだか世知辛いことを言う。


「そうかしら、テストの点数より、もっと遊べば良かったと思ったわ」

「お前はちゃんと勉強してたヤツだったんだなぁ」

「そんなに覚えてない……」


 でも確かに、アルフレッドの婚約者だし悪役令嬢だし、ほかのお嬢さんを見下せるような成績はほしい。

 それに成績を上げれば、カイルの「なかなかやるじゃあないか」をいただけるかもしれない。成績を上げると、カイルが一目置いてくれるんですよ。何の科目でもいいから、成績でカイルと同率一位を取るのがカイルルートの必須のフラグなんで。そのフラグが立った時のセリフが、「なかなかやるじゃあないか」。


 そう思ってやる気になった私は、ルーカスに相談しながら、カリキュラムを組んでいった。


「できるだけカイルと一緒がいいな!」

「無理だ。カイルの優秀さは人外だよ。もう大分前からここで学べることなんてないんだ。まだ通ってるのは、今後の人生で必要な人脈のためじゃないかな」

「人脈? 手駒の間違いでしょ?」

「お前、カイル大好きじゃなかったのか?」


 手駒の方がいいじゃないか。カイルらしくて。


「あ、せめて! せめてダンスの授業だけは……!」

「はいはい、それは大丈夫だね。アルフレッドもレオンも一緒だよ」

「ダンス授業イベントだー!」


 模擬舞踏会みたいなイベントがあって、そこで攻略対象と踊るスチルがある。それまでに仲良くなっていると、それぞれエフェクトまでつくのだ。カイルの黒い羽根が舞うエフェクトがですね。中二病大爆発みたいな感じで最高だったんですよ。


「なにそれ、俺は授業出ないじゃん」

「ルーカスは、秘密特訓に付き合ってくれるっていうのがあったよ」

「へえ、それじゃ一応、俺も練習しとくか」

「そのルートは阻止するから」


 ヒロインがルーカスのルートに進むと、カイルが生き残るエンディングはない。

 間違ってもこの男に惚れさせてはいけない。絶対にだ。


 軽口を叩きながら、授業の受け方や施設の使い方を説明してもらう。

 ルーカスは説明がわかりやすい。わかる言葉で理解できるように説明してくれる。

 素直で真摯で、チートとか関係なく、信頼できる感じがする。……やっぱりチートじゃないんじゃない?


 それに、話が分かる人がいてよかった。世の転生仲間がいない悪役令嬢の皆さんは、このツッコミたい気持ちをどう発散しているのだろうか。


「こんなかんじかな」

「ありがとう! 私もこれで立派な悪役令嬢になれるわね」

「うーん、それはどうだろう」

「それにしても、ルーカスは説明が上手ね」

「まあ、元のルーカスのチュートリアル能力と、転生前の職業がうまい事マッチしたとは思う。聖堂はクソ客いないから天国。定時で帰れるし」


 攻略対象がクソとか定時とか言わないでほしい。


「じゃあ、図書館に寄って帰るわね。この間言ってたブランの地図探してみる」

「うん、頑張って。俺は大体ここにいるから」

「はーい、よろしくお願いします、ルーカス先生!」


 お礼もかねて、出来るだけマグノリアらしく、笑う。

 色々教えてくれたので、サービスである。


 いつも無表情なマグノリアがにっこり笑うシーンは、二回くらいあるのだが、とても可愛らしく破壊力抜群だ。ゲームでもアニメでも、画面に向かって、「この子は!この子は!攻略できないんですか!?」と、叫んでしまうほどだった。残念ながら百合ルートはなかった。


 中身が違うとどこまで再現できたかはわからないが、ルーカスの表情を見ると、まあ成功だったのだろう。

 口を手で押さえて真っ赤になっている。


 私は、目を丸くしてフリーズしているルーカスに小さく手を振って、図書館に向かった。



2025/4/5加筆修正

ルーカスとレオンの活躍と、マグノリアのカイル愛を増やしました。

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― 新着の感想 ―
「なかなかやるじゃあないか」―― いいですね。各方面で使えそうです。
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