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7.転生したら攻略対象だった件


「何とか有給取れたからさぁ、婚活の待ち合わせ場所に向かっていたら」

「婚活」

「いい年だけど仕事忙しくてさ。アプリでマッチングして」

「アプリでマッチング」


 何だろう、ファンタジー感が一気に消失した。


「交差点でトラックに引かれて」


 お、転生ものになったぞ


「気が付いたら、神官だった」


 転生したら、神官だったか。

 前世のことを、随分とはっきり覚えているらしい。


「この世界での自分、ルーカスのこともちゃんと覚えているんだけど、どっちかっていうと、いきなりこの姿になっていたっていうか……で、しばらく普通に過ごしてたんだけど。気づいたわけよ。これ、グランディーア物語じゃん、って」

「あなたもゲームやってたの?」

「いや、あれアニメでしょ? ああ、原作ゲームだったっけ」


 アニメ勢か。

 アニメはアルフレッドのルートを元にしたオリジナルストーリーで、原作改変甚だしく、魔法バトルファンタジーだった。

 魔導兵器とかいうロボットも出てきた。原作乙女ゲームファンからはかなり辛辣な評価を受けていたが、アニメとしては意外と評判が良かった。


 少女漫画らしいキラキラした演出とロボットのデザインが妙にマッチしていて、動きも綺麗だった。


 しかし、カイルがだいぶ「悪役」を強調されてて、ゲームだと嫌味ったらしい言葉遣いのインテリ系悪役、と言う感じだったのに、アニメだと鬼畜だった。

 アルフレッドを倒す事に執着していて、そのためなら何の犠牲も厭わない。特にマグノリアを酷使していて、マグノリアが少しでも口答えするとパァンと平手打ちをするのだ。

 あのシーンは解釈違いで憤った。あれはさすがにない。あんなのカイルじゃない。


「魔導兵器もないし、最初気が付かなかったんだけど。この前ルージュ姐さんが聖堂に来ててさ、あれ、あのお姉さん知ってるなって」


 ルーカスは首を傾げながら言う。


「そう思ってみると、アルフレッドにカイル、そのほかにも見覚えあるのがいてさ、これ、俺見たことあるわって気づいて。そんで、マグノリアのこと思い出したんだよ」


 アニメでは、マグノリアは(カイル)側の悲劇のヒロインだった。おとなしくて従順で可愛くて一途でセクシーダイナマイツボディ。

 ひどい(カイル)に尽くしまくり、最後はカイルを止めようとしてカイルに殺される。可哀想すぎる。


 ……そして男性人気が高かった。


「俺、学生時代アニメにハマってて、マグノリアが好きでさあ……まあ、多感な時期の青少年だろ、本当に、いろいろ、いろいろ思い出があって……」


 本当に大好きだったようだが、しかしそれは、……本人に言う事では無い。気持ち悪い。私も気をつけよう。


「ああ、これはマグノリアに会えるチャンスだ、と思うと、神様のプレゼントかと思ったのに……」


 私を見て、ため息をつく。


「本当に残念過ぎる……」

「見た目は変わってないんだし、いいじゃない」

「可憐さとか一途さとか儚さとか、そういう雰囲気がなくなってんだよ!!」


 失礼である。

 泣きそうな目で嘆く大人の情けなさに心底呆れていたら、キッと睨まれた。しかし、涙目なので迫力は無い。


「マグノリアはそんな、アホみたいな顔はしない!」

「……」


 困ったなぁ…… これはどうしたらいいんだ。


「それに何だその格好は! けしからん! 可愛すぎる!!」

「はあ?」

「マグノリアはそんな、可愛らしい格好はしないだろ!? あとツインテールは反則だ。危険すぎる! 国が滅ぶ!」


 力説するルーカスだが、言ってることがただのオタクである。


「え、でも可愛くない? マグノリア、超可愛いから何でも似合うんで、めっちゃ楽しいんだけど」

「だよなー。何でもにあうよなー。ツインテールはまじ神だわ。やっぱ銀髪無表情はツインテール似合うよなぁ。これからも期待してる」


 うんうん、と、噛み締めるように頷く。

 何なんだこのおっさん。……しかし、グランディーアが学生時代……同年代な気はする。


「そういえば、チートって何よ」

「お前はなんか無いの?」

「無いと思うけど……考えたこともなかったわ」

「いや、異世界転生といえばチートだろ、なんかあるはずだと思っていろいろ試してみたんだよ。ステータスオープン!とか、叫んでみたりさ。何も起こらなかったけど」

「……」

「でも、あったんだよなぁ〜、さっきもみたろ、俺はだれであろうとも」


にやーっと、神官にあるまじき黒い笑顔でルーカスは言う。


「信頼されるんだ。俺の言う事を聞かせられる」

「……」


 ……いやそれほんとにチート能力か? この世界、神官の服着てたら大体信頼されるし、ルーカスの人畜無害っぽい感じとか、今まで積み上げてきたものではないのか?


 と、思ったが、確かにカイルすら、この不審者を家に上げてしまうのである。意外とすごいのかもしれない。


「目を合わせて、納得させる、と言う条件はあるけどね」


得意げに言うが、信頼できる立場の人に、納得できる説明をされたら、……普通、言うこと聞く、わよね?


 本当に、それ、チート?


 同じ転生者だからかわからないが、効かなかったのは私が初めてだということだ。


 ……彼が言う通り、思いのままになると言うことなら、効いてたらほんとどうなってたんだ。男性向け同人誌展開はシャレにならない。本当に、本当に良かった。


「あっ、違う!違うんだ!!別に君をどうこうしようってわけではなくて……このままストーリーが進むと、マグノリアやばいじゃん!? 今だって監禁されてんだろ? DVとかモラハラとか受けてんだろ!? 思い出したら、助け出さなきゃと思って、いてもたってもいられず」


  私が不審者を見る目で見ていたのに気が付いたのか、慌てて弁解する。


 アニメのストーリーでは、マグノリアは極悪非道のノワール家で政略結婚の道具として監禁状態で、好きなカイルは気持ちに気づいてくれないどころかDVするし、婚約者のアルフレッドは邪険に扱うし、悲劇のヒロインとしてどんどん内に籠ってふさぎ込んでいる時だ。

 なんか、蔓薔薇が張っている塔に幽閉されてるカットがしょっちゅう入ってた。やたらとメロディアスな音楽とともに。


 そして、クライマックスでカイルに殺される。かわいそうすぎる。


 確かに、推しが不幸だと気が付いて助け出そうとした、というのであればまあ、わかる。私と同じだ。


 でも、この世界は乙女ゲーム準拠だ。ノワール家は意外と、結構居心地がいい。確かに見た目はおどろおどろしいが。

 それに、マグノリアは監禁状態ではない。お父様は引き篭もりのマグノリアを外に出そうと頑張ってさえいる。


 そうすると、殺されることはないし、ラストは領地追放だ。

 それをルーカスにそう言うと、


「まあ、死なないなら良かったな。で、お前どうするの? 領地に追放されてスローライフとかのやつ?」


 なんだその、やつ?って。何となくわかるけど。


「スローライフもいいけど、とにかくカイルを助けたいのよ。……私、すごい好きなの。カイルが」

「……あー、へえ、そうなんだ」


 その気持ちは全くわからないぞ、という興味のなさそうな相槌をうたれた。

 酷い。


「マグノリアはカイルに依存しまくってたから、それでそう思ってるだけじゃないか?」


 ルーカスは気の毒そうに私を見る。


「違うわよ!! カイルだけはエンディングも全部みたし! ……本当に、語っていいの? なんなら世話役ルーカスと候補カイルのカプ」

「やめろ! それ以上はやめろ! 人権問題だ!」


 申し訳ないが、私はカイルに至っては雑食である。夢だろうが腐だろうがなんでも来いである。


 ……まあ、作品数少ないんだけどね。自家発電も厭わないのだけれども。


「そんなことより、私は、そんな世界の秘宝たるカイルに天寿を全うしてもらいたいの! ダークグレーなおじいちゃんになっても十分格好いいと思うし!」


「まあ、好きなキャラに死んでほしくないっていうのはわかるよ、俺もそれでここまで来てみたんだし」


「私は全然大丈夫だしむしろご褒美なんでほっといていいから。協力してよ」


 ルーカス、変な人だが、知識があるのは助かる。


「うーん」


ルーカスは何やら頭を指をトントンと叩きながら悩んでいる。


「現実的な俺としては、ほっとけと言っているが、優しいルーカスは縁があったのなら助けるべきと言っている」


なんだそれ、二重人格か?


「まー、手伝ってやるよ。マグノリアにツインテールさせたお礼だ」


意味がわからん。まあでも、手伝ってくれるなら何でもいいや。


「お父様を助けるにはノワールの反乱が起こる前に止めないといけない。だから私は計画を探るわ。でも、もし、どうしてもストーリー改変できないなら、カイルを助けるにはカイルルートのハッピーエンドしかないのよ。だから、ヒロインをカイルルートに進ませておきたいの。それでお願いがあるんだけど」


「なに?」


「リリアンがブラン候補になるのが2年後でしょ、その前にカイルを売り込んでおけないかと思って。あ、あの時の!?みたいな。そんな出会いがあるといいかなって。リリアンがいるブランの辺境の街、特定してくれない?」


 私の知る限り、ヒロインのリリアンが生まれ育ったのは、『ブラン領の辺境の街』となっていて、街の名前がついていなかった。


「いやー、俺が特定したらまずいよ、どこに神託が下りるか先に解っちゃったら、どうやったのか拷問にかけられそう」


 神託がいつどこに降りるかは予測ができない。だからこそこの世界は上手く行っているんだろうけど、次の神託がいつどこに降りるかわかればいろいろやりやすくなる。それでいろいろな人が、その研究をしている。


 ブランは特に難しい。国一番の心優しい正直者、みたいな、そんな絶対わからない基準らしい。

 それを特定した後に神託があったら、確かに身の危険があるかもしれない。


「聖堂の図書館にブランの地図があるから、それであたりをつけてみれば? お前が偶然旅行で立ち寄った、とかならまだましじゃない?」


 ルーカスが正攻法のやり方を提示してくれる。確かにそうだ。今ならお父様に旅行をねだれば行けるかもしれない。


 聖堂に通うようになったら、図書館に行こう。図書館に行くとカイルに会える可能性も高い。

 あと、あの名シーン、壁ドンの聖地である。

 聖堂にはルーカスもいるし、これでいろいろ動きやすくなった気がする。


 よし。


「じゃあここから、本題なのだけど」


 私は仕切り直すように手を合わせてにっこり笑った。


「私の知らないカイルの話、聞かせてもらいましょうか!? あのひと、候補のとき、どんなだったの!?」


 そこから、チート(?)から覚めたカイルが様子を見に来るまで、小一時間、問い詰めたのであった。



読んでいただいてありがとうございます。

よろしければブックマーク、評価、よろしくお願いいたします。



2025/4/3 大幅加筆。ルーカスの気持ち悪さが倍になりました。いいやつなのに・・・

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― 新着の感想 ―
アニメ準拠のルーカスと乙女ゲーム準拠のマグノリアで、話が噛み合わなかったり、噛み合ったり……。ややこしくなりつつも、二人の共闘(?)が成立したみたいでなによりです!
ツインテールは国を亡ぼす! 大事なことなのでもう一度! ツインテールは国を亡ぼす!笑 ……これ、テストに出ますよね?笑 しかしルーカスのチートは凄いですね。 うーん。なんというか、目ぢから?(違う
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