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[完結]破滅する推しの義妹に転生したので、悪役令嬢になって助けたいと思います。  作者: ru
第二章 グラスコードの悪魔

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40.これ以上完璧になられても困る

 

「マグノリア様、おはようございます」


 メイドの声で目が覚めた。

 何かとても良い夢を見た。カイルがとてもとてもやさしくて……


「昨日はそのままお休みになってしまったのですね。お世話できずに申し訳ありませんでした。湯の準備を致しましたので、起き上がれますか?」


 そうだ、昨日は帰ってきてそのまま寝てしまった。もぞもぞと起き上がる。ぼんやりする。

 されるがままに顔を洗い、服を着替え、髪を結う。

 少し、目が覚めた。


「カイル様から、お支度が出来ましたら厨房までおいでになるようにと申し使っております。私は今日はこちらに控えております。お一人で大丈夫でしょうか?」

「ええ、そのくらい大丈夫よ。ありがとう」


 厨房に行くと、とても良い匂いがした。朝食の匂いだ。

 スクランブルエッグに、サラダに、バゲット。スープまである。

 いつものノワール邸の朝食とは趣が全く違う。なんだか、お母さんが張り切った日のおしゃれな朝食みたい。


「起きたか。おはよう」


 私は夢の続きでも見ているのだろうか。


「マグノリア、使用人はお前のメイドを残して昨日から3日、別邸に下がらせている。悪いが給仕はいない。運んでくれ」


 朝日の入る厨房で、シャツの袖を腕まくりし、腰にエプロンを巻いたカイルが、……料理をしていた。


「なにをしてるんですかお兄様」

「言ったとおりだ。使用人はいない。あと2日くらいどうにかなるだろ」

「お、お兄様、ノワール公爵、継いだんですよね?」

「公爵になったからと言って食事の用意くらいできる」

「……それ以上完璧になられると、なんというか」

「そんなに大したものは作れない。食べられれば良いのなら多い時で30人分くらい作ってた。数人分くらいどうということはない」


 ルドルフさん、何をやらせてたんだ……


「せめて、準備と盛り付けくらい手伝います」

「ああ、食堂まで行くことはない。そこのテーブルまで運んでくれ」


 マグノリアになってから食事の準備なんてしたことがない。食堂で待っているものだったから。

 給食当番みたいな気分になってちょっとワクワクしながら、皿に盛り付けて厨房の隅のテーブルに運ぶ。普段はここで、厨房の使用人たちが休憩したりご飯を食べたりしているのだろう。


「レオンはまだ起きてこないのですか?」

「いや、ちょっと遣いにやっている」


 そんな話をしていると、どたどたと足音が近づいてきた。


「おい、ここノワール邸じゃねえか。俺を悪の巣窟に引きずり込もうってのか!!」


 足音とともに聞き覚えのある声が聞こえてくる。大変に、口が悪い。


「カイル、連れてきましたよ。マグノリア、おはようございます」

「おはよう、具合は良くなったみたいね」


 レオンが顔を出す。顔色も元に戻っている。寝れば治るというのは本当だったようだ。


「ここじゃあなんだから、応接にでも通しておいてくれ。朝食の前に片付けよう」

「わかりました」

「え?? なになに?? 俺なんかした?」


 レオンはそのままそれを引きずっていく。誰を連れてきたのかは分かった。説明が欲しい。

 カイルは不思議そうな顔をしている私に、にやりと笑って見せた。


「ちょっと、借りを返してもらおうと思ってね」


 そういいながらエプロンをとって火の始末をするカイルは、とても家庭的に見えた。




 カイルと一緒に応接に入る。

 逃げないようにレオンに肩を抑えられ、ルーカスが座っていた。

 カイルはにこりと笑ってルーカスの正面に座った。

 カイルがいるから、よそ行き(ゲーム版)ルーカスである。


「一体、どうしたのですか? 朝から突然説明もなく、このような事をして。私にも都合と言うものがあるのですよ」


 そう言ってルーカスは視線をぐるりと巡らす。

 その、とろりとした視線と目が合うと、朝からわざわざ来てもらって悪かったな、と、なぜか思った。


「私も仕事がありますので、生徒が登校してくる前に戻らなければ……」


 困ったような視線を投げかけられたレオンが、思わず、というようにルーカスを抑えていた手を離す。ルーカスがゆったりとした動作で立ち上がろうとする。その時、


 ドン!


 と、音が響いた。

 カイルが机を叩き、ルーカスの目をギロリと睨む。


「ルーカス。君、なにやら妖しい術を使うらしいじゃ無いか」


 ルーカスが支配していた空気が一気に引き戻された。


「言われてみれば、僕も君と話した後に考えてもいなかった行動をする事が何度かあった。例えば、旅行に行こうと思ったり」


 ゴゴゴ……と、背後に妖気が漂っているように見える。


「……この家から出ることが正しいと思ったりとか、な」


 あ、怒ってる。結構怒ってるよ。


「いや、結果的には良い事が多かったので感謝はしているよ。感謝はしているが……」


 顔を上げてルーカスを見下すように見る。背もたれによりかかる。ぎし、っと椅子がなる。


「誑かされたと思うと、面白くは、無い」


 ルーカスの額に脂汗が浮かんでいる。かろうじて微笑みは浮かべてはいるが、顔が引き攣っている。

 わかる。怖いよね。それ。

 何でそんなに圧かけてくるんだろうね。


 カイルは、パン、と手を打って相好を崩す。


「そこでお願いだ。ここは一つ、僕の頼みを聞いてくれないだろうか?」


 わざとらしいがあくまでもお願いという事にするらしい。


「君に感謝しているのは本当だよ? 君が僕に広い視野を授けてくれたからこそ、今、このような大それた事が出来ているのだからね」


 そうしてにこにこと笑いかける。術を破られたルーカスごときがカイルのお願いを断れるわけがないのだ。

 ルーカスは助けを求めるように私を見た。なあ、こいつ怖いんだけど、と、目が訴えている。


 ……でもね。


 私も、感謝はしてるよ?

 カイルを変えるきっかけは、ルーカスが作ったのだから。特に旅行の件は、大変感謝しておりますよ。


 でも、遊学を言い出したのがルーカスだったとは知らなかった。

 しかもそのタイミングで、ルドルフさんから話が行くように根回しまでして。


 さっき、カイルから『借り』の話を聞いて知ったのだ。


 ……私からカイルを引き離した張本人は、お前だったのか!! ルーカス!!


 なので、私は、ルーカスの味方は出来ません。

 ふん、とソッポを向いた私を見て、ルーカスはがっくり項垂れた。



明日3話更新して完結いたします。


読んでいただき、ありがとうございます!

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