32.ロボットには乗りたい
「マグノリア、以前言っていた、カイルが何か企んでたら報告する件、まだ必要ですか?」
「あたりまえでしよ!!?」
『カイルが何かしようとしたら教えて』、二年前にブランでレオンに言った事だ。確かにあの後すぐにカイルは追放されて、ひと段落ついたような感じになっていたが。
そういう重要なホウレンソウは、もういいと言われるまで有効です。
「カイルは国の掌握に向けて動いていますが、俺も手伝ってるんで、安心してください。進捗は順調です」
得意げに親指を立てて見せる。
「安心できない! 順調ってなに!?」
「順調なんですが、ブルー公を紹介して欲しいんですよ。あと、魔導兵器について知ってる事教えてください。そっちはルーカスに聞いた方がいいですかね?」
「最初から!順序立てて!説明して!」
レオンが説明するのをまとめると。
カイルは国を掌握するために、五人の公爵を纏めようとしている。
すでにルージュ公も賛同していて、それもあってレオンも手伝っている。
ルドルフさん経由でジョーヌ公とも意気投合している。
あとはブルーとブラン。ブランはリリアンがいるからそこから進めるとして、ブルー公を紹介してほしい。あと魔導兵器っていうのが欲しい。という事だった。
ええええ
どっから突っ込む……?
『……この国を我が手中に収めるのだ』
あれ、まだ覚えてたの??? 中二病の黒歴史として、掘り起こしてはいけないものになってたんじゃないの??
あと、何でレオンまで手伝ってるの??? ルージュお姉様何やってんの!?
魔導兵器ってアニメの設定でしょ!? 何で出てきてんの!??
「あと、これはあまり関係ありませんが、執事をやってたのはジョーヌ公の屋敷です。お嬢さんがとんでもなくヤンチャで、9歳の誕生日パーティーのためにカイルがマナー講師で入ったんですよ」
「なにそれ一番重要な情報じゃない! ずるい私もマナー講師されたい! びしびし扱かれたい! お嬢様は馬鹿でございますかとか言われたい!」
「マグノリアはやれば出来るんだから必要ないでしょう」
そうか、あのグラスコードの意味がわかった。明るい金色の鎖に黄色い宝石。
一度見かけたことがある。ジョーヌ公のお嬢さんはイエローゴールドのキラキラした髪に明るい黄色の瞳。
……マーキングしたなあの小娘
はっ、いけないいけない、貴重な同担とは仲良くしたい。ましてや相手は9歳の子供である。
「レオン! 帰りに王都に寄るわよ!グラスコード、特注で作ってくれるお店に!」
「はい、マグノリア」
どうしよう、銀のチェーンにアメジストは流石にやり過ぎかしら。ノワールらしくていいと思うけどそれなら黒い方がいい? 家の雰囲気に合わせるとそれはもうただの悪魔になるけど仕事に差し支えないかしら?
頭の中がその事で一杯になってしまい、レオンにいろいろ聞くのを忘れてしまった。レオンの扱い方を覚えたつもりでいたが、レオンも私の扱い方を覚えていたのだ。
「ではマグノリア、ルーカスの所に行きましょうか」
「え? ああ、うん」
なんだったかしら。そう思いつつも頭の中は買い物のことでいっぱいで、気が付くと教員室の前まで連れてこられていた。
+++
「ルーカス、ちょっといいかしら」
「おや、マグノリア。今日はレオンも一緒なんですね」
私だけじゃないからか、ルーカスがよそ行きである。何だか気色悪い。ゲームのルーカスぶっている。
「レオンが聞きたいことがあるんですって」
「ルーカス、魔導兵器について知ってる事があれば教えて欲しい」
ぶっ
ルーカスが笑顔のまま器用に吹き出した。
「なんて?」
「魔導兵器」
全く動じず繰り返すレオン。
「ちょっとマグノリアと2人で話してもいいかな?」
「いいが、いつも聞こえてるぞ。2人で話してることは大体把握している。今更外しても意味はないと思う」
ルーカスと私は驚いてレオンの顔を見る。何だかとても恐ろしい事を言われた気がするのだが。
え、聞き耳立ててるって事?
「ルーカスも、俺にマグノリアに話すみたいに話して構わない。2人には何か秘密があるようだが、マグノリアに悪そうなもので無いから気にしない」
ルーカスが沈黙ののち、はあ、と机に肘をつく。
「俺たちそんなに声大きい?」
「いや、普通は聞こえてないと思うから問題ない」
「さすがメインキャラ……」
ルーカスもメインキャラだ。モブみたいな空気を出そうとしているがもっと自覚を持ってほしい。
「カイルが魔導兵器を探していると言っていて、ルーカスとマグノリアが話していたのを思い出した。何か知ってるか?」
ルーカスが何とも言えない顔をして頭を抱える。
「ええー、えー、これどうやって説明すればいいんだ?」
「とりあえずそのまま話してみたら? レオンなら何か、何となく理解してくれるんじゃ無い?」
レオンって、アレをソレしてとか、ガッとしてパッとやって、とかで通じるのよね。大体。
「俺でわからなそうならカイルを連れてくる」
「やめてくれ。カイルが納得できるように話す方がハードルが高い」
カイルだと世界の定義から聞かれそうだ。
「俺が覚えてる……知ってる限り説明してやるけど、本当にあるかどうかはわかんないぞ。無くても文句言うなよ……」
前置きして、説明を始める。
「魔導兵器は、聖霊公爵がそれぞれ所有している、魔力を込めると動くロボット……乗り込んで動かせる大きな人形みたいなモノだ。その領の伝承がモチーフになってるって設定で、ノワールは『霧の騎士』」
よく覚えてるな……
「どこにあるか……うーん、アニメでは最初からあったんだよなぁ。だから多分、そんなに特別なものじゃないんじゃないかな。霧の騎士は、マグノリアが宝珠に祈りを捧げると、こう、黒い霧がぐわっと広がってさ、その中から騎士風のデザインのヤツが出てくるんだよな」
確か黒い水晶玉みたいなのの前でマグノリアが祈ってた。そうするとそれが輝いて、黒い霧が出てカイルの悪そうな顔が、ばっとアップになってからのドーンとポージング、だった。……あれって普通に乗り込むのどうするんだろうか?
「でも多分、祈るのはマグノリアじゃなくてもいいんじゃないかな。魔力を込めればいいんじゃないか」
「ルージュは?」
レオンが口を挟んだ。
「ルージュは、ルージュ姐さんが召喚すると騎士団が乗ったやつが並ぶんだよな。小さいやつが12機」
気のせいか、レオンがワクワクしている感じがする。
「俺も乗れる?」
「レオンは指揮官だったよな。乗ってるシーンは無かった」
「そうか……」
とても残念そうである。男子は巨大ロボットに乗りたい本能があるのだろうか。
「レオン、今のでわかったの?」
「魔力を込めると動く、乗り込んで操縦できる兵器みたいなのがあるんだろ。それぞれの聖霊の宝珠に祈ると出てくる。で、俺のは無い」
ルーカスが腕を組み直す。感心したようにレオンにいう。
「お前、よくこれでわかったな。凄い」
まあ、2人とも攻略対象だしね。いろいろ抱えてるし高スペックなのよね。
+++
「これで良かったの?」
教員室を出て、レオンを見上げる。
「はい。カイルに伝えればあとは考えてくれると思います」
「そういえば、今まで話を聞いてたって言ってたけど」
「はい」
「どういう事を、わかっているの?」
私は、ルーカスには前世の記憶も含めていろいろ話している。私が何なのか、ルーカスが何なのかも知っているのだろうか。
「聞いてたと言っても、マグノリアに害があるかどうかしか考えてなかったので……魔導兵器という強力な武器があるというのは気になってましたし、ルーカスは人の気持ちを変えるような術を使うというのを聞いてからは、マグノリアに何かしてないか警戒してましたが。あとは別に」
なるほど、実害がなければあまり興味ないのか。
「ああ、それから、マグノリアはカイルが大好きなんだなぁとか。たまに、俺の事格好いいって言ってくれてるのは嬉しい」
……結構、拾ってるな。
私そんなにカイルとかレオンの話してるかな? 恥ずかしいので、あまり話さないようにしよう。
「さ、じゃあ買い物に行くわよ」
「はい、行きましょう」
そしてその日は、王都でショッピングを楽しんだのだった。




