30.そっちではない
残念なことに、リリアンとレオンにフラグが立つことはなかったようだ。
リリアンとアルフレッドの仲は深まり、私なんぞになすすべなく、ゲームは着々と進んでいく。
ダンスのイベントが終わって、次は夏休みのイベントがある。
リリアンの帰郷に攻略対象がついていく。その中でランプを送りあうイベントもある。
そのイベントも、入り込む余地がなかった。
アルフレッドがついていったし、私もリリアンに一緒に行きたいなと言ってみたが、やたらと過保護になってしまったお父様は旅行を許してくれなかった。
そんなわけで、夏休みは。
いつかのアルフレッドではあるまいが、私は有り余る時間を使って、カメラを完成させたのである。
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その日、リリアンと中庭の東屋でお話ししていた。ここはゲームでは、ヒロインがマグノリアによく合う場所だ。
リリアンが同情に染まった表情で私に訴えてきた。
「アルフレッドに聞いたの。婚約は、あなたの兄が勝手に決めた事で、あなたには別に好きな人がいるって」
おっと、まさかここで、その話に。
ゲームでは、婚約者がいることを気にするリリアンに、アルフレッドがマグノリアの本命の話をちらつかせるんですよね。
それを聞いていたリリアンは、マグノリアのカイルに対する態度を見て、マグノリアの本命を察するのだ。
……考えてみれば、ゲームのアルフレッドも大概クズだな。
そうやって、ヒロインの婚約者へ遠慮する気持ちを取り除いていたのだ。
あと、いつのまにか、様が取れてる。これはよく無い傾向ですよ。親密度が上がってますよ。
「ごめんなさい……あなたがそんなに辛い思いを抱えていたなんて」
「いえ、それはもういいの。もう、それは前の話だし、アルフレッド様と婚約してからは吹っ切れて……」
「そんな!!いいのよ、無理しなくて! だってお二人はとてもお似合いですもの」
ん?
「いつもあなたを守る眼差しは愛情に溢れているし、あなたが彼を見る眼差しは信頼で溢れてる。結ばれない恋なのは辛いけど、私は2人の幸せを応援するわ!」
うーん?
「まって、一応聞くけど、誰の事を言ってるの?」
「決まっているじゃない!」
リリアンは私の手を両手で握り締め、キラキラした目で言った。
「あなたの騎士、レオンよ!」
おっと、そうなったか……そこの代役をしてほしいとは思ってなかった。
「この間、踊った時に少し話したの。とても素敵な方ね。あなたの事をとても気にかけていたわ」
……レオンに狙って色仕掛けができるわけがなかった。嘘がつけない所も、レオンの魅力なのだ。でも、普通にかっこよくやってれば、十分魅力的なのに! 何でそれが彼氏に挨拶された報告みたいになってるの!?
もっと頑張れ。燃える炎のエフェクトはどうした。キャンプファイアーはどうした。
「二人のダンスもとても素敵だったわ……みんな注目しているのね。一昨年から話題になっていて、二人のダンスを楽しみに参加した方も多かったと聞いたわ」
そ、そうだったの?
「それなのに、家の都合で無理やりほかの人と婚約させられちゃうだなんて。アルフレッドが言ってたわ。あなたのお兄さんは本当に酷い人ね。あなたの幸せを全く考えず、ただ自分の利益のために婚約を無理やり進めたんでしょう?」
ああ……。うん。それは、その通りなので否定できない。
「だから、アルフレッドはあなたを自由にしたいと言っていたわ。結婚は仕方ないけれど、心の中は自由だって」
何だかすごく、話が捻じ曲がっている気がする。
あと、別れるつもりはないけど妻が浮気していて冷え切った関係、みたいな、不倫の定番の話になってない?
「そういえばマグノリア、一昨年ランプを買ってくれたでしょう? あの時、大好きな人にあげるんだって、とても悩んでいた事を思い出して……」
あーーー
思い出して顔が赤くなった。
恥ずかしい。ああいう、想いをこめたグッズに私は弱いのである。何かしら意味をこめて、プレゼントしたりしたい。
でも、こめたい気持ちが多すぎて、どうしようかとものすごく悩んだのだ。相当長い時間、あれでもないこれでもないと悩み、結局、末長く健康で幸せに長生きしてね、という、リリアンいわく、おじいちゃんとかおばあちゃんにお勧め、というのを選んだ。
そのランプはあの夜ブランの宿で、カイルの窓辺に置いてきた。
「あれは、レオンにあげたのね」
「ち、違うわ」
「隠さなくても良いのよ! アルフレッドがあなたから受け取ったと言っていたのは違ったから……」
そこに、アルフレッドがやってきた。
「リリアン、こんなところにいたの? マグノリア、君の騎士くんが探していたよ」
アルフレッドが廊下の方を指さすと、レオンがこちらに気づいて向かってくるところだった。
「なんだ、あんなに焦って。恋人の婚約者に妬いているのかな?」
いや、あれはアルフレッドが何か嫌な事をいうのではないかと心配してる顔だ。
「アルフレッド様、何度も申し上げますが、レオンはそんな……」
「いいんだよ。無理しなくて。行こう、リリアン、邪魔しちゃ悪いよ」
「本当に、一途で素敵な方ね」
リリアンはうっとりしている。
「マグノリア、どうしましたか?」
タイミング悪く、駆け寄ってきたレオンが心配そうに声をかける。
「何でも無いよ。では」
アルフレッドはリリアンを伴って研究室の方に去っていった。一時期キャバクラのようだった研究室は、今はリリアンのために整えられていて、他の女子はいれないようにしている。
複数から1人へ、状況は良くなったのかもしれないが。
――『舐められているな。僕は君を買い被っていたようだ』とか、カイルに言われそうだ。
「なんでもないわ…… そもそも、あなたが近すぎるのよ。離れててよ」
レオンに八つ当たりする。
「もう少しだけ我慢してくれませんか。カイルが帰ってくるみたいなんで」
「え!?」
カイルが帰ってくる、その情報だけで、嫌な気持ちが全て吹き飛んだ。
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さて、ここで、時系列としては最初につながる。
王都で待ち合わせて歓迎会を開き、私はカイルの写真をゲットしたのであった。




