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[完結]破滅する推しの義妹に転生したので、悪役令嬢になって助けたいと思います。  作者: ru
第二章 グラスコードの悪魔

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26.帰ってきた眼鏡

<Kyle> 



「ルド、今までどうもありがとう。今後何かあったら、僕は必ず君の力になるよ」

「またいつでも来い。お前がいると楽でいいからな」


 ジョーヌ領と王都の境界で、馬車を降りた。


 ルドルフは世話になった商隊のリーダーだ。二年間兄のように面倒を見てくれた。なかなかスパルタで、これは死ぬかもと思うような目にも数回あったが、切り抜けるたびに信用を深くしてくれた。

 考えてみたら、最後の一ヶ月程は僕がルドの仕事をしていて、彼はずっとサボっていた。


「カイー、がんばれよー」

「ちゃんと飯くえよー」


 すっかり兄貴面をするようになった商人たちに手を振って応え、僕は歩き出した。


 ジョーヌ側から王都を見ると別世界のように見える。整然と整った街並み。区画ごとに整理され、そこにいる人の服装も区画によって異なる。美しい分、なんとも窮屈に見えた。

 ノワールは王都に準じた街づくりがなされているのであまり気にしたことがなかった。領ごとに王都の見え方が違う、というのは、ずっとノワールにいたら分からなかったことだ。


「さて……」


 そうはいっても、人も物も多く、にぎやかな街並みは心が躍る。

 家に帰る前にちょっとした用事がある。待ち合わせの場所へ向けて歩き出した。





「お兄様ー!!!」


 あれだけ目立たないようにしろと伝えていたのにすっかり忘れてしまったようだ。

 待ち合わせていた店の前に立っていたらレディーに有るまじき大声と足音が聞こえてきた。


 目深に被ったフードの左右から、ゆるく巻いた銀糸の髪が流れている。ずいぶん髪が伸びた。大きめの外套に身を包んでいるが、無邪気な動きが二年前から変わっておらず、つい顔が綻んでしまう。

 勢いよく飛び込んできたので、咄嗟に受け止めようと身構えた。


「危ないですよ」

「きゃ」


 彼女の身体が僕に届く前に、鍛え上げられた腕に抱き止められる。


「怖がらせたらどうしようって、さっきまで仰ってた癖に」

「そうだったわ……お兄様を見たら頭が真っ白になって」


 レオンを伴ったマグノリアだ。あのような事があったのに、変わらず僕を慕ってくれているようだ。実際に会ったらやはり怖がっているのではないかと思っていたが杞憂のようだった。


「久しぶりです。カイル。目立つ前に入りましょう」


 食堂に入る。夜は酒場になる雑然とした店だが、昼から開いていてメニューが多い。まさかこんなところに公爵家の兄妹が居るとは思われないだろう。マグノリアを周りから見えない席に座らせる。


 二年間の禊ぎ――というには僕にとって有益な時間であったが――を、終えて帰ってきた。しかし、大事な娘に手を出したと思われているのだ。家に帰っても歓迎はされないだろう。


 なので家に帰るまえにこっそり歓迎会をしたいと、マグノリアが言ってくれた。


 手紙のやりとりはしていたが、二年ぶりだ。

 久しぶりに会うマグノリアは背丈が少し伸びていて、女性らしく、とても美しくなっていた。

 目深に被ったフードをとり、大き目の外套を脱いだ時、まるで牡丹の花のような美しさについ目を奪われ、あわてて逸らした。その服はいけない。胸元が眩し過ぎる。


 僕の肩をレオンがぽん、と叩いた。目を合わせて力強く頷く。相変わらず表情が変わらない奴だが、何を言いたいかは分かった。頷き返すのも気恥ずかしく話を逸らす。


「レオン、君、随分背が伸びたな」

「もう、お兄様、私は? 私も大きくなったでしょう!? むnっ」

「マグノリア、それ以上はダメだ」


 レオンが素早くマグノリアの口をふさぐ。

 ……確かに……いや、言及は避けよう。


 相変わらず、レオンは距離が近いように思うが、マグノリアが以前より堂々としているせいかあまり違和感がない。ちゃんと主従関係に見える。

 世話焼きの護衛兼従者と無邪気なお嬢様、といった雰囲気だ。


 レオンは大きくなっていた。そのままの意味だ。以前は僕とそう変わらなかったはずだが、今では見上げるほどだ。やや浅黒い肌に赤い髪が映える。磨き上げられた肉体の美丈夫である。マグノリアと並んでいると何やら芸術作品でも鑑賞しているようだ。


「ところでお兄様、……眼鏡、変えられたんですね??」


 マグノリアが頬を赤く染め、何やら両の指先をもじもじとさせながら上目遣いでチラチラとこちらを見る。

 よく気がついたな。眼鏡が好きなのは変わらないようだ。二年ぶりに会ってまず眼鏡、というのはどうかと思うが。


「縁あって数ヶ月執事の真似事をしていてね」

「しっ!?」


 がたっと音をさせて立ち上がるマグノリアをレオンが抑える。


「最後まで聞こう、マグノリア」

「この眼鏡を支給されたんだが、気に入ったのでいただいた」

「……服は?」

「え?」

「執事服は!?」

「あ、ああ、タキシードを着てたけども」

「そのお宅に、同志がいる気配を感じます。どちらですか??」

「仕事で、それなりの格好をするのは特別な事ではないだろう?」

「眼鏡まで指定するのは拘りを感じます」

「落ち着いてマグノリア、カイルは一般人」


 そ、そうでしたそうでした、と、マグノリアは深呼吸して座り直す。


「前の方が良いだろうか? 特に誰にも指摘されなかったので気にしてなかったが」


「いいえ!! 以前のもとてもとてもよくお似合いでしたがこちらもお似合いです! 眼鏡もですが、眼鏡チェーン(グラスコード)がこんなに似合うなんてお兄様か悪魔くらいですわ!」


 ……? 悪魔? それは褒められているのか?


 とても美しくなったのに、くるくる動く表情が子供っぽい。中身は余り変わっていないように見える。


「君は、そのリボン、まだつけてるんだな」


 僕の目の色に似ていると言って得意げにつけていたリボンが髪に揺れているのに気がついた。


「いいじゃないですか! このくらい、アピールしても!」


 何のアピールなのかはよくわからないが、以前もそんな事言っていたな……

 僕と兄妹である事をアピールする事で利を得ているのかと思っていたが、そうでもなさそうだ。


「あっ、そうだ! お兄様、まずは写真を撮りましょう!」

「しゃしん?」


 次から次へと何を言い出すのか予測がつかない。

 レオンが荷物から黒い板のような物を出し、僕の方へ向ける。ツヤツヤした板には鏡のように自分の顔が映った。

 マグノリアは席を立って、僕の後ろに回り込み、板に入るようにする。


「レオン、もうちょっと上……もう少し立てて……あ、そこでストップ」


 レオンに指示を出して板の位置を調整する。

 自分や僕の位置も慎重に直している。


「はい、そこでいいわ。お兄様動かないでくださいね。はいチーズ」


 一瞬板が光った。


「あー!! やっと願いが叶ったあああ!」


 光が収まると、黒い板の光沢が失われその表面は白くさらさらした質感に変わっていた。そこに、先ほど映っていたマグノリアと僕が並んだ姿がそのまま張り付いている。鏡に映る姿をそのまま紙に写したような……絵というには精巧すぎるものだ。


 マグノリアはその板を大切そうに抱いて喜んだ。


「何だそれ、初めて見たぞ」

「最近やっと完成した魔道具です。1回しか使えないし素材に中々手に入らない鉱石と加工が必要でまだまだ改良しないと流通は難しいと思うんですけど、はっきり言ってこの写真を撮るために! お兄様とツーショットの写真を撮るために! めちゃめちゃ頑張ったので! 目標は達成致しました!」


 一生宝物にします!と、大喜びしている。


「デジカメみたいに何枚も保存しておけるといいんですけど。せめてチェキみたいに一枚ずつ紙になるとか」


 何を言っているのかわからないが楽しそうで何よりだ。




 料理が運ばれてきても、写真とやらに夢中で話を聞かないので、勝手にレオンと乾杯した。



本日から第二章更新いたします!


しばらく毎日更新しますので、よろしくお願いします。

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