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[完結]破滅する推しの義妹に転生したので、悪役令嬢になって助けたいと思います。  作者: ru
第一章 銀縁眼鏡の悪役

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25/55

25.悪役令嬢と反乱計画

 翌日。聖堂の教員室にて。


「マグノリア……それはダメだ。やってはいけない事をしてしまったな……」

「反省してます……」


 家では私が被害者という事なっており、誰も懺悔を聞いてくれないので、ルーカスに聞いてもらっていた。


「カイルは一般人だから。推される事前提に生きてないから。怖かったと思うぞ」


 そうだよなぁ。カイルも一般人だもんなぁ。


「可愛いから許されるとか無いですかね……」

「お前の好きなカイルは、可愛いからってファンに手を出すやつなのか?」

「ち、ちがう! ああ見えて意外と紳士なのよ! この前も宿屋で二人きりの時ベッドに座ったら優しく怒られたし」

「まて! 宿屋で二人きりだと!? レオンは何をやってた!?」


 ルーカスは青くなって私の肩を掴む。痛い。


「……いいか、前々から思ってたんだけど、お前、精神年齢が身体に引っ張られてるんだよ。人生二回目ならもう少ししっかり考えて、もっと自分を大事にしろ。男をそんなに信じるな。俺にしろレオンにしろ守ってやりたいと思ってるけど、自分から突っ込んで行かれるとどうしようもないんだよ。もう画面の向こうのキャラじゃ無いんだから、危機感をちゃんともってーー」


 くどくどくどくど

 カイルよりよっぽどお兄ちゃんだ。いや、お父さんかもしれない。

 説教モードになってしまった。こういう時はこうだ。


「うん。心配してくれてありがとう。ルーカスがいてよかった」


 手を口元に、上目遣いで言う。ルーカスは大体これで黙る。

 はー、と大きく溜め息をつくと手を離してくれた。


「でも本当に良かったよ、マグノリアが無事で。そのまま監禁でもされてたら、今なら内乱が起こってもおかしくない」

「レオンが暴れてくれそうよね」

「レオンが単体で暴れるくらいならまだいいけど、お前の婚約者、王子だからな? きっかけは何であれ、理由ができたら乗っかりたいのはいるんだよ」


 今日は聖堂に来てまっすぐ教員室に来たので、まだアルフレッドに会っていない。


「カイルはどうしてる?」

「お父様がお怒りで、自宅謹慎よ。お部屋から出してもらえないの。お父様、私の話、全く聞いてくれないんだから」

「そうか。じゃあ帰りに寄ってみるか。俺なら会えるだろ。フォローしといてやるよ」

「ありがとう、よろしくね」


 そう言って席を立つ。


 ちょうど入口からアルフレッドが覗いた。


「あ、マグノリアここにいたんだ」

「アルフレッド様、おはようございます」

「カイルには少し痛い目を見て貰わないとな」


 アルフレッドに挨拶しているとき、後ろでルーカスが何かつぶやいた。


「え?なに?」

「いや、何でもないよ。アルフレッドが待ってるぞ」


 アルフレッドは爽やかに笑いながら手を伸ばす。


「カイルは休みなんだろ? 今日は、貴女を独占できるね。行こう」


 キラッキラである。

 カイルがいないので気が軽いのだろう。


 まあいいか。あんな事をしてしまった後にカイルにまたベタベタしたら、怖がられてしまう。しばらくカイルは謹慎だろうし。

 ここは一つ、カイルのためにもゲーム本編の為にも、アルフレッドと親密度を上げておこう。



 +++



「え? 遊学?」


 事件から数日経ったが、まだカイルは部屋から出してもらえない。

 今回の事がきっかけで、これまでのカイルが隠ぺいしていた色々な問題も発覚したようなのだ。それでお父様が大変お怒りなのである。


「そうだ。とは言え、長くても二年ほどだがな。カイルもそれを希望した」


 そしてカイルは家を出ていく、という話になってしまった。私が怖がらせてしまったせいだろうか。


「ジョーヌからも、この間の商隊に少し預けてみないかと話もあってな。ちょうど良いので頼む事にしたよ」


 今日は久しぶりにお父様と庭でお茶をしていた。美味しい紅茶とマフィン。私が作った。前にカイルに教えてもらったものだ。カイルほど綺麗に焼けないのだが、まあまあ、味は、良い。焦げているところは削って欲しい。


「そんなに大事にしなくても……」

「いや、今のままの彼でノワール公を継ぐことは私が認めない。少し成長してもらわなければ」


 お父様は眉間の皺を深くする。


「カイルも若い。今なら、余裕がある。こういう事も経験した方がいい。……そういう事情もあるのだ」


 カイルが、期間限定とはいえ、王都を出ていく。

 リーダーの顔が浮かぶ。随分カイルを買っていた。あの人についていくなら大丈夫だろうけど。


「私も行っていいですか?」

「……君がカイルを庇うのはまだ混乱しているからだよ。暫く離れていなさい」


 混乱させたとは思うけど、混乱してるつもりは無いんだけどなぁ。


「寂しくなります……」


 手紙くらいは出せるだろうか。たまには帰ってきてくれるだろうか。


 旅行の時の活き活きと仕事をしているカイルを思い出した。あんな顔をするなら、王都追放も悪くは無いだろう。ここで追放されておけば、ゲーム本編の処刑エンドは逃れられるかもしれないし。


 そのうち帰ってくるのだ。私はここで待っていよう。



 +++



「お兄様!」


 見送りくらいは許可してもらえた。


 久しぶりに会えたカイルは憔悴してさらに細く、さらに青白くなっていた。それはそれで吸血鬼みたいで美しかったけど、心配になる。


「お兄様、この前はごめんなさい。私、歯止めが効かなくなっちゃて。訳のわからない事を申し上げましたよね。忘れてください」


 やっと謝れた。

 少し気持ちが軽くなる。


「ああ…… いや、あれは僕が悪かった。何であんな事をしてしまったのか」


 ボソボソと消え入りそうな声だった。それでもやっぱり久しぶりに声が聞けて嬉しい。


「ここしばらく、一人でよく考えた。君を犠牲にして僕は何をしたかったのだろうかと」

「お兄様、いいのです。私はお兄様のためなら何でもできますわ。ただ、お兄様を不幸にする事はしたく無いの」


 カイルは私を見て微かに笑う。

 目は暗いが、優しい感じがした。


「考えたんだ。やってしまった事は今更無かった事にはできないが、言ってくれただろう。やり直せるって」


 ヒロインのセリフだなー……つい言っちゃったやつだなー


「二年。待っててくれ。僕ならできるだろう。必ずそれに見合うだけの実力はつける」


 うっそりと笑う。

 そして、とても低く、美しい声でこう続けた。


「……この国をわが手中に収めるのだ」


 ????


「え? ちょっと待って、どこでそんな話に?」

「たとえ僕が君を手放しても、君は自由にならないだろう。ノワールの姫というだけで様々なものに囚われている」


 確かにカイルが追放されたとて、私がアルフレッドの婚約者であることは変わりなく。

 そして私が降りてしまえばほかのお嬢さんがあてがわれるだけなので、今後もアルフレッドと仲良くやっていくつもりでいたのだが。


「君は、この国の歪さがわからないのか?」

「確かにちょっと王と公の制限が多いなとは思いますけど」

「だろう。不要なものは捨てることも大事だ」


 不要って……

 ゲームのなかで、そんな事言いながらアルフレッドに剣を突きつけていたシーンが思い出される。あれが処刑の一番の理由じゃないか。


「こっ、この国は平和だし、このままでいいんじゃないかなーって」

「公の姫の犠牲が必要な国が、平和であるわけがない」

「いや、そうかもしれないけど」


 カイルは妙にすっきりした顔で優しく微笑んで見せた。


 そして、「ああそうだ、見たいと言っていたのだっけ」と言いながら眼鏡を鼻の方にずらす。


 レンズを通さない目が私を捕らえる。

 目の奥の紫色が、少しはっきり見えた気がした。


「すべて僕に任せておけ。君に、この国を捧げよう」


 眼鏡を上げて口の端をニヤリと上げる。

 そして流し目を残してカイルは去って行った。


 魔王のように進化したカイルの隣で、高笑いしているマグノリアのイメージが浮かぶ。

 私はどうやら、無事、カイルの反乱計画の仲間になる事に成功したようだ。

 ……随分と重要なポジションになり、私の破滅フラグまで建立してしまった気がするが……



 だがそんなこと、今はどうでもいい。


 リクエストにお答えしてくれた眼鏡ずらしに腰が抜けて、私はその場に崩れ落ちたのだった。



ここまで読んでいただきありがとうございました。

評価、ブクマ、いいね、本当にありがとうございます。読んでもらえるだけでも本当に嬉しいのですが、反応をいただけるというのがこんなに励みになるとは。

ありがとうございました。


次から第二章です。


ストックを書き溜めてからスタートしますので、お待ちいただけると幸いです。


よろしければ評価とブックマークをお願いいたします!


本当に、本当に、ここまで読んでいただきありがとうございました!!


明日から、別の連載として転生先となったグランディーア物語を投稿します。全5話です。設定話なので読まなくてもこちらに影響はありませんしキャラも違いますが……カイルが何したかをまとめるのに書きましたら長くなってしまいました。


第二章は時間としてはゲームと同じですが、設定とは全く違う話になるのでネタバレにもならないです。

ストーリーは何とかまとまったので、必ず完結させます。


私が読みたい話を書いていますが、誰かに、インテリ眼鏡いいよねーと、共感していただけたら、これほど幸せな事はございません。

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