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2.悪役インテリ眼鏡は尊い


「お兄様、少しよろしいかしら」


 まずは、現状確認である。


 記憶によると私は一四歳、と言う事はカイルは一五歳。ゲーム本編開始まであと二年半ほどか。

 できればもう少し早く転生したかったなあ。カイルの小さい頃をもっと味わいたかったなあ。今もとっても綺麗だけど、美少年だった頃があるのだよなあ。声が高かった頃もあるのだよなあ。あ、にやけてきてしまった……


 慌てて無表情を取り繕う。


 実は、どんなに記憶を探っても、マグノリアはノワールの悲願とかいうクーデターの話は、かけらもない。

 お父様もカイルもマグノリアには隠しているのかもしれないが、おそらく昨日までのマグノリアに、これっぽっちも興味がなかったせいだろう。マグノリアは、カイルにどう思われているかにしか興味がなかったのである。


 そして、ゲームの知識を掘り起こしても、やっぱり計画についてはよくわからない。なんか企んでるなー、というのが随所に出てきて最後にクーデター。もう少しわかりやすく伏線を張ってほしかった。

 設定資料もカイルのところは相当読んだから、正直何なのかはわかっているのだが、いつからどうやって計画を練っていたのか、それは出ていなかった。


 ちゃんとカイルの生まれたところから、年表とか作ってほしいものである。


 そんなわけで、私はまず、「計画」の進行について探りを入れ始めた。



「おやマグノリア。どうしたんだい?」


 ……推しと、一つ屋根の下に暮らしているというのはすごいことですね。


 会いたいときには課金せずとも、ノックすれば会えるのですよ!?


 チケットとか、そういうのもないんですよ!?



「ぐふっ」


 ノックをして声を掛けたら扉が開いて、そこにはカイルが取り繕った笑顔でほほ笑んでいた。


 目の前には、推し。


 カイルは攻略対象の中では一番背が低い……設定は175センチだった……それが二年後だから、今はもう少し低いかもしれない。でも、マグノリア(14)からすると、見上げるほど大きい。

 黒いタートルネックの細身のカットソー。スキニーかと思うほど細いパンツ。そんなに細さを際立たせてどうするんですか。

 目の前の、胸板が、薄い。心配になる細さ。でも戦う時は強化魔法ゴリゴリで、身体より大きい剣とか召喚しちゃうんだよ☆ ~~~~かあああああっ 


「大丈夫かい?」

「……立ち眩みがしただけですわ」


 前に立っただけではかなく倒れそうになった私を支えもせず、呆れたように眼鏡の奥の冷たい目を細める。


「……とりあえずお入り」


 カイルの一挙一動、声、匂い、視線、すべてに反応して息が上がっている私をこのままにするわけにもいかないと思ったのか、カイルは自室へ招き入れた。


 あわわわわわ

 し、しぬ


「君は我が家の重要な駒だからね。誰よりも体には気を付けてもらわないと」


 悪役っぽいセリフを吐きながら、私をソファーへ座らせる。

 ちゃ、チャージ料金とか、大丈夫ですかね……?

 

 挙動不審な私に、黒に金の竜の飾りが入った杯に水を一杯入れて渡してくれた。

 ……どこに売ってるんだこれ。


 ノワール家も全体的にそうなのだが、骨とか、魔法陣とか、竜とか、そういうのがこの家は好きなのだ。カイルの部屋にも角の生えた巨大なヤギの頭蓋骨のようなものがかかっているし、廊下には等間隔に古い金属の鎧が置いてある。絶対夜動くやつだ。 ちなみにマグノリアの部屋の窓辺にも、謎の瓶詰めがいくつかあった。マグノリアはおまじないが大好きだったから。ちなみにラベルはルーン文字。頑張って調べた記憶がある。書庫には魔導書っぽい装丁の本も山積みだし、完全に悪のアジトである。


 まあ、そんなセンスも最高だよねー。


「君から僕のところに来るなんて珍しい。どうしたんだい?」


 カイルは隣には座ってくれず、斜めの位置に、微妙に距離を開けてオットマンを置いて座った。

 これはこれでね、顔がよく見えて、いいですよね。


 いやいや、本題に入らなければ。


「先ほど、お父様と”我が家の悲願”についてお話しされていたでしょう? 私の婚約が大きな一歩となると。考えてみたら私、内容を知らないわ。いざというときうまく立ち回れるように詳しく聞いておきたいと思って」

「へえ」


 カイルが私を見つめて、笑みを深くする。私の動悸は早くなる。

 あ、これ、ほんとむり。

 絶対私今赤くなってる。そして目が泳ぐ。むり。ぎゃーって声が出そうになるのを必死で抑える。


「その必要はないよ」


 くす、と笑って、カイルは足を組む。

 わあ、あしながーーーい ほそーーーい


「君の役割は一つ。誰よりも魅力的なお姫様になって、王子を篭絡することさ」


 カイルは目を細めて首を少し傾ける。薄い赤い唇が片方少しだけ上がって、白い歯が見えた。

 目の奥に、めんどくさそうな色が浮かんでいる。


 ……これは適当にあしらわれているんだ……


 くっ…負けない。これで引き下がったら、昨日までのマグノリアと変わらないではないか。

 そうだ、私も仲間に入れてもらうんだ。計画の仲間に入れば、どこかでひっくり返すこともできるかもしれない。

 それに、悪だくみをしているカイルはとても魅力的である。こうして私を掌の上で転がそうとしているカイルもいいけれども、せっかくなら!! カイルと悪そうに目くばせしあう仲になるんだ!!


 それにはいちいち照れていられない!!


「魅力的なお姫さまって、どんな風かしら?」

「そうだなあ……」


 カイルは私をじろじろと見る。頭のてっぺんからつま先まで。遠慮なく。

 いやほんと、ほんとすみません、生きててすみません。身の置き所がなくて心の中で弁解するようにつぶやいてしまう。


「艶やかな銀糸の髪、透き通るように白い肌、アメジストの瞳、血のように赤い唇、つまり君のようなお姫様ということかな」


 カイルは心にもないことをペラペラと言う。このチャラ眼鏡め。


「そ、そうではなくて、中身の問題はどうでしょう? やはり王子と渡り合うにはそれなりの教養が必要では」

「それはそうだけど、ノワール家の御令嬢はそのあたりは大丈夫だろう」

「こ、これから、わたくしに期待することは?」

「うーん、まだ発展途上だからわからないけれど、……王子が君以外に興味を持てないほどの成長は期待しているよ」


 ちらりと胸に目をやる。私を物としか認識していない目。


 ……そうですか。ナイスバディがお好みですかお兄様。

 確かにゲームのマグノリアはボンキュッボンのナイスバディでした。アニメではあからさまにセクシー担当でした。先見の明がおありなのですねお兄様。


「ああそうだ、聖堂に通うのは嫌なんだっけ?」


 食い下がる私に、めんどくさそうにカイルは言った。

 嫌だと言わせて、この会話を切り上げるつもりだろう。


 聖堂とは、主人公のブラン候補が通う学園のようなものである。

 マグノリアはゲームでは聖堂に通っているが、14歳現在まだ通っていない。通う資格はあるしお父様も通わせたがっていたが、昨日までのマグノリアは行きたがらなかったのだ。知らない人と話すのが怖かったから。


「通います」


 私は即答した。昨日までの私とは違うのだ。一瞬でも長くカイルを見たいのだ。


「なんだ、嫌なのかと思ってた」


 カイルはちょっと目を丸くした。へえ、意外だな、という顔に少しだけ私への興味が見えて、勇気を出して私は言った。


「一緒に通学してくれます……?」


 一緒に!! 馬車に!! 乗りたい!!!

 カイルは顎に細い指を添えて少し考えると、


「時間が合えばね」


 と、ほほ笑んだ。


 よーーーし!!! 言質はとったぞおおおおお!!!

 毎日玄関で、早朝から待ち伏せするぞ!!


「そうと決まれば早速!!お父様にお願いしてきますわ!」


 私はやる気満々でお父様にお願いしに行った。

 お父様は大喜びですぐに手続きをしてくれた。


 楽しみだ。ダンスの授業のカイルのスチル、すごい好きだったんだよなあーーー!

 エフェクトでぶわって、黒い羽根が散ってー!

 あと、図書室の壁ドン。


 その二つは、私でも見られるのかなー?? ヒロインがやられているところでもいいから見たい。見たいぞ!!



 気が付いてみたら、計画については何もわからずじまいだったが、聖堂に通うことでカイルとの距離も近くなるかもしれない。

 そうだ、何とかして、計画を話してもらえるほどの仲になろう。私はそう決意した。


 でもスチルも見たい。


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― 新着の感想 ―
これは、あれだ。実況配信ですね! 間近で見る、だけじゃなくて会話する。そりゃ課金も心配になろうというもの!
これは一風変わった悪役令嬢ものですね。 無料の推し活。 これに勝る生活はないですね。 マグノリアが悪役令嬢になる過程も楽しみです。
大丈夫ですよ! 毎日玄関で、早朝から「出待ち」しなくても一緒の馬車に乗れますから!(笑 でも、そうと分かっていてもしたくなる「出待ち」。 ごはんをより美味しく食べるためにお腹をすかせるように、推し様に…
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