表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[完結]破滅する推しの義妹に転生したので、悪役令嬢になって助けたいと思います。  作者: ru
第一章 銀縁眼鏡の悪役

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/55

19.お忍びの旅というのはロマンですよね


 ルーカスって実は最強なのでは……


 と、幌馬車の中で揺られるカイルを見ながら思った。


 馬車の中には荷物が積まれ、その間に商家の子のような恰好をした、私とカイル。御者はレオンである。


 なんだか信じられないが、お忍びで3人で行く、というのをカイルが了承したのだ。



 +++



「ブラン領へ行きたがっていただろう。連れて行ってやる」

「え!いいのですか!?」

「僕の利になると判断しただけだ」


 ルーカス、何をどう言ったんだ……


 不思議だったが、とりあえず、カイルに連れて行ってもらえることになった。


「ルージュの騎士にも付いてくるように言っておけ。ただし目立たないようにな」


 カイルは、レオンとは合わないようだったので、わざわざ自分から言いだすとは。

 ルーカス、恐ろしい子……


「お忍びで行きましょう! レオンがいれば護衛も十分でしょう? ノワールの兄妹だと思われなければ、逆に安全でしょうから。レオンと三人で、兄弟という設定で!」


 お忍びで旅行!憧れではないか。


 レオンも兄弟ということにしてしまえば3人でいてもおかしくないし、なによりも! いつもと違う、商家の小倅的な衣装のカイルが見たいぞ! 見たい見たい!


「いいだろう」


 ですよねー、って

 え……??


 なんだか、カイルが素直に頷くと不安になるのだが。

 絶対通らないと思ったが。


 むしろ、レオンと兄弟は嫌だと言わせて、お忍び衣装だけでも通そうと思ったのだが。


 ……本当に良いのだろうか。何が裏があるに決まっている。


 カイルは困惑を隠せない私をフンと小馬鹿にし、わざわざ説明してくださった。


「ルーカスに、他人の意見を尊重し成長を促すのも、これからの僕に必要なスキルだと言われた。確かにその通りだと思ったからな、この旅行に関しては君の計画に乗ることにしよう」


 ……うん?

 何だその管理職研修。


 そして、にや、と、挑戦的な笑みを投げられる。


「やってみろ。とても、楽しみに、している」


 ……社員旅行を丸投げされた新人の気分である。


 心の中で、むりやり『君との旅行、楽しみにしてるよ』と、変換し、プレッシャーを無視する事にした。


 いやまてよ。

 好きにやっていいんだよね?

 ホウレンソウが足りないとか言わないよね?


「ふ、ふふふふふ」

「なんだ気色悪い」

「私、とても、やる気が出てきましたよ……」



 +++



 そうして実現した、私しか得しないカイルの黒くない格好。


 私が全身コーディネートしました!

 いつもと違う彼にドキドキですよ。白い、少し大きめのシルエットのシャツを着ているだけで別人のようです!

 本当は、茶色いジャケットを着せたかったんだけど夏だしちょっと暑いよね、と思って、ベストにしました。ポーラー・タイがよく似合ってます。

 もちろん、眼鏡も髪型も変えました。レンズが大きい古金縁の丸メガネ。これだけでぐっと親しみやすくなっておりますね。

 前髪は下ろして、左のサイドだけ後ろに流しています。良いですね、さわやかです。

 怖さも悪さも当社比60%オフです。逆に詐欺師っぽい怖さが出てしまいましたが、それはそれで良しです。

 さすが私です。眼鏡キャラの研究には余念がないのです。商人の息子なら丸眼鏡です。


 ……カメラ……カメラをくれ……


 そんな格好をさせ、商人の子供が他領の様子を見て回っている、という設定にした。


 流石に子供3人旅は不安なのでお父様に相談したら、その担当のトップ……ジョーヌ公に話を通してくれて、丁度良い商隊について行かせてもらう事になった。


 お父様の人脈の狭さと深さに驚きである。いいのか。娘の我儘のために政府高官のコネみたいなのを使って。


 とにかく、夏休みなので勉強のためにくっついて来た何だか偉い人の知り合いの子供、という事で、同行させてもらう事になった。

 嘘ではない。すごい。


 カイルはこうしていると賢そうな年相応のお坊ちゃんに見える。生徒会長とかやってそうな雰囲気だ。大商人の跡取り息子っぽい。

 これなら知り合いに会っても大丈夫だろう。たとえアルフレッドでも気づかないのでは。


 ちなみにレオンはあまり違和感がなかった。騎士服だろうが商家の子供だろうが、多少服装髪型を変えようが、レオンはレオンだった。この差は何なのだろう。筋肉か? 体幹か?


 私もイメージを変えて、花柄のワンピース。完全に、ただついてきた物見遊山のお嬢様である。

 自分では難しいので、縦ロールはやめた。ツーテールを、いつもより下の方で結んでいる。


 そしてお忍びということで一番の成果がこちら。


「メグ」

「グふっ」


 愛称呼びをしていただく事に成功した。


 内心いちいち動揺というか大爆発しているのだが、外面はがんばっている。真っ赤になるくらいで耐えている。


 ちょっと変な声が漏れるが。


「……恥ずかしいなら、全くの偽名にした方が良いんじゃないか?」

「だ、大丈夫よ、お兄様……」


 鼻血は出てないから。問題ないから。


「ならば、外にいる時だけでいいだろう?」

「いえ、咄嗟に、私が反応できないかもしれませんから、どうぞそのままで。慣れさせてください」


 すみません最近めんどくさい兄とか言いましたが推しは推しです声も最高なんですしかも私が選んだ服を着てるんです以前のマグノリアと別に私が認知されたみたいなそんなアレなんですすみませんありがとうございます


 真っ赤な顔を手で覆って蹲っていると、ぽんぽんと、頭を撫でられた。


 カイルの頭ぽんぽん、久しぶりな気がする。


 しかし……猫がネズミを突いているような……そんなポンポンである。


 そして取り繕った甘ーい声が掛けられた。


「メグ、僕の可愛い妹。どうしたんだい? 顔を上げておくれ」

「は、ひゃ ゲホゲホ」


 息を呑んで、思わずむせてしまった。

 攻撃力が高い。なんだこれは。カイルもいつもと違う環境で調子に乗っているのか?


 絶対、絶対、未回収の良い顔をしている。

 しかも近い。近くに顔がある。


 誘惑に負けてちらっと顔を上げる。指の間からカイルの顔を覗く。


「うう…お兄様」


 そこには、まあまあ予想通りの、ものすごく楽しそうなカイルの顔があった。


 ニヤニヤ、ニンマリ、獲物を追い詰めて遊んでいる猫のような……

 両目と口がそれぞれ三日月みたいに弧を描いている。


 こんな、楽しそうな顔初めて見たわ……

 人が嫌がることを全力で楽しんでいる。


「ねぇメグ、もっとちゃんと、顔を見せて、ほうら」


 私の手を、顔から剥がそうとしてくる。

 ひ、ひい! 細いのに筋張った白い指が私の手首を……!


「やっ、やめてください」


 ガタン


 と、大きく馬車が揺れて止まる。


「カイ」


 御者台からレオンが顔を出した。


「そろそろ代わってください。俺も少し疲れました」



 +++



 意外な事に、カイルは馬車を御する事ができた。しかも結構上手かった。

 さすが何でもできる男である。馬に鞭を振るう姿にドキドキである。いや、それにしても似合うな、鞭。


 馬車に乗っているのがあまりにも暇過ぎたようで、文句も言わずあっさりレオンと変わった。

 妹いじりも飽きたらしい。助かった。


 カイルが御者でレオンが向かいに座ってるのもなんだか変な感じだなぁと思うのだが、兄弟設定は徹底するようだ。旅の初めから変な喧嘩もせず、同等の立場として接している。


 たまにピリピリしてるが、仲良くもないのに遠慮もない所が、逆に歳の近い兄弟っぽい。

 やるなら徹底的に、というのがカイルらしい。


「レオン、助かったわ、ありがとう」

「レオ、ですよ、メグ」

「ああ、そうね、私が言い出したのになかなか慣れなくて」

「……メグ」

「何? レオ」

「俺が呼んでも赤くならないんですね」


 なぜか少し不満気である。

 まさか、レオンも私で遊びたいのだろうか。だからわざわざ、馬車を止めて……?


 もしかして、楽しそうだったから入れてもらいたかったのかな?


 意外と寂しがりやである。

2025/4/26 加筆修正

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ