9.脱出
「むむ!外の光が見えて来ましたぞ」
しばらく走ると外の光が射し込んでくる、光に向かって走ると外の風が吹き込んで来た。
「うっ、眩しい……」
長時間暗がりにいたことで外の眩しさに顔を手で覆い、眼をつぶるイゼル。
「もう朝なのか?」
眼を開き外の景色を視界に納めるイゼル、そこに広がっていたのは一面に広がる平原と上がり始める朝日、遠くには森とその先に高い山々が見える。
「む……ワシがテレポートしてから数時間しかたっていないはず……夜が明けるにはまだ早いですぞ」
「つまりそれだけ俺達が遠くに来たわけか……」
「まずは近くの街を目指しましょう、幸運な事にここからすぐ近くに街があるようですぞ」
平原の小高い丘に立つ遺跡からは、石壁に囲われた街の姿が確認できる。
「……」
イゼルが背後を振り返るとダンジョン化した遺跡の姿が、なんらかの神殿だったのか崩れた柱や像が年月の経過を物語る。
(ここは何の神様が奉られていたのか……最初に飛ばされた場所も何かの祭壇だったみたいだし……まあ今は考えてもしょうがないか)
「ふぁ~」
緊張が解けたのかイゼルが欠伸をする。
既に普段なら眠っている時間、ノーフェイス達の強襲を受け戦い、馴れないダンジョンで長時間過ごした、イゼルの疲労が出てしまうのは仕方ないことだった。
「どれ坊っちゃん、ワシがおんぶしてあげましょう」
「いっ、いいよ……ガキじゃあるまいし……ふぁ」
眠気を隠しきれないイゼル、ミスタがヒョイと軽く持ち上げ背負うがイゼルからの抵抗はない。
「スゥ……スゥ……」
ミスタがイゼルを背負って歩いていると、イゼルの寝息が聞こえ始める。
「やはり相当お疲れだったようですな……」
ミスタの背で熟睡するイゼル、前世では夜更かしは得意のイゼルだったが、子供の体になったことでよく寝る子になっていた。
「今日はよく頑張りましたな、今後はミスタが必ずお守りしますぞ」
イゼルを背負ったミスタが街を目指す、そこはウェーリズ王国から二つ程国を挟んだロープレス聖王国、聖王国の辺境に位置するヘンピの街だった。
☆
『それで結局は逃がしたのか?』
「まあそうなるね……」
そこはノーフェイス達の隠れ家の一室、闇に満たされたその室内で、ノーフェイスは一人光輝く水晶に向かって話していた。
『まあいい、今回の失敗は不問としよう……王国にすぐ帰って来るようならその時を襲えばいい』
「へーそれで良いのかい?一応居場所の目星はついている、また襲うこともできるけど?」
水晶の中に映る人物が不敵に笑う。
『ふっ、既に王国では死亡したものとして扱われている、時を置いて帰って来たときには、自分が王子であることを証明することは不可能になる』
「だが王子にはあの執事がついているはず、彼が王子であることを言えばいいんじゃない?」
『騎士であったころならいざ知らず、今は一介の使用人に過ぎない、あれが何を言おうがこちらで握り潰せるさ』
「そうかい、まあ君がそれでいいなら僕はかまわないよ」
水晶の中の人物がカップに一口つけ、一息入れると話を続ける。
『流石に今回は派手に動きすぎた、しばらく王国内では警戒を強める事になる、王国での活動は控えるようにしてくれ』
「ああ、わかってるよ、当面は帝国、聖王国辺りで活動することにするよ……んっ?」
ノーフェイスがこの部屋に近づいてくる足音に気がつく。
「おっと、それじゃあこの辺で……」
『ではなノーフェイス、天の鎖のリーダーとして務めを果たせ』
「君に命じられるままのお飾りだけどね」
水晶の光が消えるとそこに映し出されていた人物が消える、それと同時に部屋の外に誰かが来たようだ。
「おいノーフェイス、今後の事で話があるんだが」
「やあテレポス、僕からも話したい事があるんだ、入っておいでよ」
ノーフェイスがテレポスを中に招き入れながら、懐に通信用の水晶を隠す。
「……話し声が聞こえた気がしたのだが、気のせいだったか?」
「話し声?この部屋に僕以外いるように見えるのかい?」
テレポスが室内を見回しても、当然誰もいるわけがない。
「いや……まあいい、それより今後の事だが……」
「当面は帝国か聖王国方面で動くことにしようか、しばらく王国に近づくのは得策ではないね」
「そうか、ファントムにもそう伝えておく」
テレポスはそれだけ伝えると部屋を出る。
「はぁ……テレポス、君の生真面目さもたまには厄介だね、ファントムが君を嫌うのも分からないでもないよ」
ノーフェイスがやれやれと首を振る。
「イゼルにリュート……イゼルは捕り逃し、リュートからは逃げる羽目になった……しばらく大人しくするつもりだが、あのガキ共にはいずれ思い知らせてやるさ」
ノーフェイスがその口を歪め、暗い笑みを浮かべていた。