7.強襲2
「これはいったい!レイン様何があったのですか?」
王宮の大広間の大扉前、胸から血を流したランスロットが床に倒れ、レインが彼を支えていた。
「あなたはイゼルの執事の……」
「イゼル様は、イゼル様はどこに!?」
「ミスタか……すまない、イゼル様は向こうに……ゴフッ」
血を吐き出し意識を失うランスロット。
「向こう?向こうとは、どういう事だランスロット!」
「あとは私が話します、騎士ランスロットは休んでください!」
ミスタがランスロットを問い詰めようとするが、そこにレインが割って入る。
「実は……」
レインが事のあらましを話す。
「くっ、そんな事態になっていたとは……!早くイゼル様をお助けに行かねば!」
ミスタが懐からペンダントを取り出すと、そのペンダントが魔力の光を放ち出す。
「イゼル様の元へ!テレポート!」
魔力の光がミスタを包み込む。
「待って!お願い私も連れていって!」
「それは出来ません、イゼル様が貴女の安全を優先した以上その願いは聞けませんな」
ミスタはレインの願いを拒否すると、光に包まれてこの場から消え去る。
「そんな……」
(イゼル……お願い無事に帰ってきて……帰ってきたら何であの仮面の変態と同じ魔法を使っていたのか問い詰めてやるんだから!)
「おい!何があった……騎士ランスロット!?これはいったい!」
ミスタがその場を後にすると、入れ違いに周囲が騒がしくなってくる、王宮内の騎士達が駆け寄って来ると重傷のランスロットを見つけ大至急運び出されていく、気づけばレインの周りには人だかりが出来ていた。
「レイン無事か!?」
「……!お父様!イゼルが、イゼルが!」
人だかりの中からレインの父、シービル・シーズ侯爵が歩み出てくる。
「レイン、まずは落ち着きなさい、何があったのか父に話してごらん」
「その話私も聞きたいな」
「陛下!なぜここに!?」
シーズ侯爵の後ろから国王アーサーが歩み出てくる。
「なに、自分の騎士があれほどの傷を受けることになった理由を知りたくてね」
「陛下!確かに騎士ランスロットの容態も気になりますが、イゼルが、イゼルが大変なんです!」
「なに?イゼルがだと?」
「はい!実は……」
レインはミスタにしたのと同じ話をシーズ侯爵とアーサーの二人に話す。
「そうかイゼルがな……最後は男の意地を見せたわけか、我が子ながら誇らしいものだ」
レインの話を聞き嬉しそうな表情を見せるアーサー。
「陛下!どうかイゼルを助けに!」
「ふむ、そうだな、そうしたいのは山々だがイゼルがどこにいるかもわからない、残念だが諦めるしかないだろう」
「そんな……」
「もちろん捜索はするが、あまり希望は持たないことだ」
アーサーがポンとレインの肩に手をのせると、彼女に慰めの言葉を残しこの場を去る。
「お父様、イゼルは……」
「レイン、残念なことではあるが陛下のおっしゃる通り、あまり希望を持ちすぎるな」
「グスッ……はい、わかりました……」
レインの瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。
☆
「ミッ、ミスタ!いったいどうやってここに!?」
「ワシが渡したペンダント、ちゃんと持っていてくれたおかげですぞ」
イゼルが懐を探ると、そこには以前ミスタから贈られたペンダントが。
「そのペンダントとワシが持つペンダントはリンクしていて、常に坊っちゃんの居場所がわかるように……そして一度だけ転移の魔法で坊っちゃんの元に駆けつける事が出来るようになっているのですぞ!」
(マジかよ!?去年ぐらいにこのペンダントを貰ったはずだが……そう言えば俺が王宮を抜け出すようになったのもその時期か)
イゼルが王宮を頻繁に抜け出すためにミスタが用意した物だったが、幸運にもそれがあったおかげでミスタが助けに来ることができた。
「へーまさかそんな物があるとはね、取り敢えず邪魔だから死のうか!」
痺れを切らしたノーフェイスの一人がミスタに飛び掛かる。
「……!坊っちゃん話は後に!」
イゼルとミスタがゆっくり話し続ける余裕はない、彼らを取り囲む者達がそれを許しはしない。
「我々の事を忘れられては困るな」
「へっ、どうせ雑魚が一匹……いや、こいつはまさか!?」
テレポスとファントムもそれぞれに攻撃を仕掛け、周囲には霧が立ち込め始める。
「遅いわ、円月」
ミスタが円を描く斬撃を放つ、それが放たれた事に気づいたのはノーフェイス、テレポス、ファントムが切られた瞬間だった。
(なんて速度だ!ミスタは普段の訓練の時も手を抜いてくれてるんだとは思ってたが……俺の想像以上だ!それにあの武器は……!)
ランスロットの一撃を越える神速の速度で放たれた斬撃は、気づけばミスタの右手に握られていた刀によって起こされていた。
「へへっ、警戒しといて良かったぜ、感謝しろよテレポス」
「ちっ、ああ今回は素直に礼を言っておく」
「む?なぜ切れていないのだ」
立ち込める霧から出てきたのは無傷のファントムとテレポス、確かに切られたはずの者達がそこにはいた。
「ミスタ!闇雲に攻撃してもダメだ、こいつら魔力を使わない異能力を使いやがる!そっちのメガネはテレポート、そっちの頭悪そうな奴は恐らく霧による幻影、幻覚を作るぞ!」
「むむ!なんですと!それは少々厄介ですな」
「誰が頭悪そうなほうだ!ぶち殺すぞ!」
「いちいち喚くな、王子を殺すのはどっちにしろ変わらないだろうが、本当に頭が悪いのか?」
「んだと!?てめぇもやってやろうかテレポス!」
イゼルに頭悪そうな奴と言われたファントムは怒りを見せる、メガネをクイッと光らせるテレポスはここぞとばかりにファントムを煽る。
「君ら喧嘩するのもいい加減にしてくれよ、君らがやらないなら僕がこいつらをやるよ」
さらに四人に増えたノーフェイスがミスタとイゼルを睨み付ける。
(あの顔無し野郎の能力、あいつだけが能力がハッキリしない、恐らくは分裂系の能力だろうが……この手の能力には本体をたたかないといけない場合と、分裂した奴全部を同時にやらないといけない場合がある)
イゼルは前世の知識を総動員し敵の能力を探る。
(前者の場合は本体がこの場にいない可能性もある、後者の場合はあいつらを同時に一掃する余力がない)
イゼルはミスタに近づくと、耳元で小声で話し始める。
「ミスタ手短に話す、あの顔無し野郎の能力はだいたい見当が……」
イゼルとミスタが話している一方で、イラつくノーフェイスをファントムが止めていた。
「待てよノーフェイス、こいつはウェーリズ王国の元筆頭騎士、鬼神のミスタだ……生半可な攻めじゃ返り討ちにあうぞ」
「なるほどな執事にしては強いのに納得だよ、まさかそんな人物が王子のとはいえ、ただの執事をしているとはな」
「俺も流石に本気を出す、三人で連携して確実に仕留めるぞ……それでいいなテレポス」
「ああ、異存はない」
話し合いが終わったのか、ノーフェイス達がイゼル達に向き直る。
「では坊っちゃん、手筈通りに」
「おし!やるぞミスタ!」
両者が睨みあい、一触即発の沈黙が流れる。
「ちっ、いつまでも睨みあっていてもしょうがない、僕から行くよ!」
四人のノーフェイスが同時に走りだし、イゼル達に迫る。
(ここだ……!)
「フラッシュ!」
イゼルが両手をかざすと、そこから目映い閃光がフロア内を満たす。
「くそがぁ!」
「目をやられたか……!」
まさかの一手にファントムとテレポスが目を押さえ怯む。
「光魔法による閃光か、だが眼の無い僕には関係ないね!」
「だろうな!だがこれならどうだ……!ソードレイン!」
イゼルが片手を振り上げるとその周囲に数十本の剣が現れる。
「お得意の剣を操る魔法か?そんな数を出したら魔力がもたないんじゃないか?いや、もったとしてそんな数操れるわけ……」
「なら操らなければいいんだろ!」
イゼルが手を振り下ろすと、数十本の剣が前方に無作為に飛んで行く。
「くそっ、無差別攻撃か!」
イゼルの攻撃で足を止めるノーフェイス達、剣の雨の中でまともに動けるものだとそうそういるわけはない、だがそれが可能な人物がこの場に一人。
「ふん!冥月」
剣の雨の中を駆け抜けたミスタが、神速の居合い切りでノーフェイス達を木っ端微塵にしていく。
「よしミスタ!とどめをさすんだ!」
「やべぇ!こっちに来る気か!?」
「まずい……!」
イゼルの一声にファントムとテレポスが防御を固めようとする。
だがいつまでたってもイゼル達からの攻撃はない。
「くそがぁぁぁ!やられたぞ!」
「ちっ、こいつは……」
ようやく視力が回復してきたファントムとテレポスが目を開けると、そこにはイゼルとミスタの姿はない。
フロアの出入口に目を向ければ、イゼルを抱えたミスタが走って出ていく所だ。
「追うぞ、僕をここまで怒らせたのはあいつらが初めてだよ」
数えきれないほどの人数に増えたノーフェイス達が立ち上がると、その口調からは怒りを感じさせる。
「よっしゃあ!戦う感じを出しながら速攻で逃げるよ作戦、成功だな!」
「坊っちゃん、ここからは敵の追撃が始まります、油断するには早いですぞ!」
ミスタの脇に抱えられたイゼルは、作戦の成功に興奮していた。
イゼルは人相手の初めての実戦でら相手を出し抜けた事に高揚していたのだ。
「ここからは速度を上げますぞ!あんまり喋ると舌を噛みますぞ!」
「だいじょう、ぶっ!」
案の定イゼルは舌を噛んだ。




