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双生のラグナロク  作者: 高天
プロローグ
5/25

5.舞踏会

「舞踏会を前に楽しい時間を過ごせました、イゼル王子ありがとうございました、次は私の故郷リヴェリスにお越しください……それではまた今夜、舞踏会で」


「ああ、今夜はまた君に会えると思うと楽しみだよ」


レインがニコッと淑やかな笑みを浮かべると、ドレスの裾を持ち頭を下げて退室する。


「ふう……なんとか乗り切ったな」


額の汗を服の裾で拭うイゼル。


「そう言うわりに、途中から随分楽しそうでしたな坊っちゃん」


「まっ、まあ、そんなこともあったような、なかったような?」


イゼルの目は相変わらず分かりやすく泳いでいる。

そうこうしていると部屋の扉が再び開かれる、そこにいたのは騎士ランスロットを連れた国王アーサーだ。


「入るぞイゼル」


「ちっ、父上!」


ノックもなく入室するのは、この国の最高権力者であるアーサーだから許される事だろう。

突然の父の登場に背筋を伸ばし立ち上がるイゼル、反対にアーサーが椅子に腰掛ける。


「それで例の婚約者、シービルの一人娘レイン嬢はどうだった?」


シービルとは現シーズ侯爵、レインの父親の事だ。


「はっ、はい……そうですね……」


(美少女婚約者をありがとうなんて言うわけにもいかんし……うーん、なんと言うべきか)


「むむ!どうやらイゼル様はレイン様を相当お気に召したご様子!あの方が妻となるならイゼル様も真面目に王子としてのお役目を果たしてくれるやも知れませんな」


イゼルがなんと言うべきか考えていると、見かねたミスタがアーサーの質問に答える。


(ミッ、ミスタ!何を勝手に話してやがる!)


「おお!そうかそうか!あの子はお前のお眼鏡に叶ったようだな」


「ふっ」


アーサーは膝をパンパンと叩くと嬉しそうな笑みを浮かべる、アーサーの背後に立つランスロットもなんだか嬉しそうだ。


「シービルとは学院時代からの友でな、あいつの娘とお前の年が近いこともあって将来結婚させたいとお互い思っていたんだ」


学院とは王都より数十キロ離れた所にあるウェーリズ中央学院の事だ。

このままイゼルが成長すれば、16歳になる年には彼も学院に通うことになる。


「今日はお前を王太子として皆に発表するつもりだ、あの子と結婚したければ今後は不真面目な態度を取り続ける事は許さん」


(やべぇ、もう腹を括るしかないのか……)


アーサーが発する圧に気圧されるイゼル。


「まずは今日の舞踏会で彼女をしっかりエスコートしてやるといい、しっかり頼むぞイゼル」


「はっ、はい……」


イゼルはもう逃げられない。


   ☆


その時は来た。


「それでは坊っちゃん、健闘を祈ります」


「ああ、行ってくるよ」


控室にて舞踏会に相応しい格好を整えたイゼル、ミスタに見送られ控室を後にする、廊下に出ると魔道具のランプで照らされた廊下が続いている。

魔道具は討伐した魔獣やダンジョン等で取れた魔石を、加工しエネルギー源とする道具の事だ。


(今日はやけに人気が少ないな、舞踏会にみんな駆り出されているのか?今夜は霧も濃いしホラゲーでもやってる気分になりそうだ)


霧が立ち込める夜、王宮の大広間に向かう廊下を一人歩いていると、前方にイゼルを待つレインの姿が。


「イゼル様、お待ちしておりました」


「待たせてしまい申し訳ない」


舞踏会用に着飾ったレインは淑やかに挨拶する。


「それとその……婚約者なんだしもう少し砕けた感じで話さないかレイン?」


「うん、そうね……正直私もその方が助かるわイゼル」


「ふぅ~そう言ってもらえて助かるよ」


猫かぶりが限界だった二人、ここに来てようやく肩の荷が少し降りた気がした。


(あー受け入れてくれてよかった)


(あー向こうから言ってくれてよかった)


二人は似た者同士だった。


「それじゃあまあ、行こうか」


イゼルが手を差し出す。


「ええ、行きましょうか」


その手にレインの手が乗せられる。

レインの手を取りイゼルは2人で大広間の大扉の前に到着する、扉の前にはまたランスロットの姿が。


「お待ちしておりましたイゼル様、中へ」


「うっ、ランスロット……」


(この人常に感情がまったく表に出ないから苦手なんだよなぁ)


「さあ、中へ」


ランスロットの登場に一瞬脚が止まるイゼル、立ち止まるイゼルをランスロットが中へ促す。


「ふぅ……」


扉の前でイゼルは一呼吸つく。

前世一般小市民の彼に人前に立つ機会なんてそうそうあるわけもなく、この扉の先に多くの人間がいるのかと思うと柄にもなく緊張していた。


「?イゼル緊張してるの?大丈夫?」


レインは1つ年上なだけあり社交界に出た経験はイゼルよりある、だが彼女も初めての社交界デビューの時は緊張したものだ、そのためイゼルの心情が理解できてしまう。


「きっ、緊張?俺がこんなことで緊張するわけ……」


結局土壇場で緊張するイゼル、気づけばイゼルの脚が震えていた。


(こえー!この中に大勢の貴族やらお偉いさんがいると思うとこえー!こちとら前世一般人だぞ!)


「大丈夫よイゼル、最初は誰でもそんなものよ」


レインがイゼルの腕にぎゅっと自身の腕を絡めてくる。


「さあ、行きましょう」


「ふぅ……よし、行こう」


(ええい!もうなるようになれ!)


「では開けますよ」


2人を黙って見守っていたランスロットが大扉に手を掛ける、彼が扉を軽く押すと扉が両側にゆっくりと開く。


(うっ、眩しい……)


中は光に照らされてよく見えない、勇気を振り絞り1歩を踏み出すと大広間の中に入る。


「はっ?」


眩しい光が収まるとイゼルの視界が開けてくる、だがそこにはイゼルが見慣れた王宮の姿はなかった。

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