11.vsビースト
「くっ、二人の動きが全く追えない……」
イゼルとビースト、二人の戦いが始まり辺りには砂埃がたち始める、両腕で顔を覆うシーフは二人の戦いをただ眺めていることしか出来なかった。
「マジかよ!?イゼルの野郎あんなに強かったのか!しっかし本当にあのビーストって野郎がまだ生きてたとはな、姉御の謙遜じゃなかったわけか」
予想外の強さを見せるイゼルに驚くゴリスティン、彼の中では今の今までビーストを倒したのはマインになっていて、彼女が謙遜しているのだと本気で思っていた。
「なんとか援護しないとだが……」
「待ってくださいシーフさん、アイツの相手はイゼル君に任せて、僕達は自分達の身を守ることを考えた方がいいみたいですよ」
「っ、コイツらどこから出てきたんだ!」
「「「ジュー、ジュー」」」
シーフがナイフを取り出し構えると、気づいた頃には彼らの周囲をニードルビックラットが囲んでいた。
ニードルビックラットはビックラットの上位種で、その身を針の山で覆っているのが特長だ。
「おわ!コイツらその辺の隙間から出てきやがる!」
「おひょ!ピンチですねぇ!」
「驚いている暇があったら、あなた達も武器ぐらい構えてください!」
「そうよ!あんた達、私の肉壁となって守りなさい!」
テリスとマインに促され武器を構える三人組、戦闘力皆無のマインを中心に五人の冒険者達が円陣を組む。
「ちっ、魔法は今日は使っちまったからな、この斧一本でなんとかするしかねぇか……っ、あぶねぇ!」
ゴリスティンが斧を構えると、ニードルビックラットの一体が彼に突撃し、寸でのところで針の山で串刺しになるのを斧で防ぐ。
「この数はマズイな……」
シーフは的確に、針の山が覆っていない眼を攻撃しながら周囲の様子を探る、自分達が来た道を見ればそこからも魔獣達が入り込んでいた。
「チェーンライトニング!」
テリスから伸びる雷を纏った鎖が、複数の魔獣達を倒していくが、魔獣の数は減るどころか増える一方だった。
(このままじゃ耐えきれなくなるのも時間の問題か……イゼルくん、早くしてくれないと……)
☆
(こいつをさっさと片付けないと、向こうがヤバそうだな)
「おいおい!余所見してる暇はねぇぞ!」
魔獣達が出現し、飛行魔法で宙に浮かび上がるイゼル、シーフ達が魔獣に囲まれているのに意識を向けると、その一瞬の隙にビーストが襲いかかる。
「っ……」
地面を蹴って飛び上がってくるビーストは、さはの鋭い爪をイゼルに振りかざす、辛うじて剣で受けるイゼルだが、勢いのまま後ろの岩の柱に吹き飛ばされてしまう。
「おらおら!まだまだいくぞ!」
ビーストはさらに、宙を蹴ってイゼルに向けて飛びかかると、その拳を彼に向けて叩き込む。
「っ、ぶねぇ」
二発、三発と叩き込まれる拳を、岩の柱を背にしたまま身を翻すことで回避するイゼル、攻撃の衝撃で岩の柱はガラガラと音をたて崩れ始める。
「へっ、今のを避けるか」
「はぁ、はぁ……」
(間髪入れずに来やがる、こっちから仕掛ける暇がない)
楽しげな表情を浮かべるビーストに対して、イゼルは多少息が上がり始めたようだ。
「へへっ、まだ疲れるには早いぞ!もっと楽しい状況にしてやろうか!」
重力に引かれ地面に落ちていくビースト、だがその眼光は鋭くひかり、拳を地面に向け振り上げる。
「ちっ」
(なにかするつもりか!その前にこっちから仕掛けるしかない……!)
イゼルがビーストに向けて宙を加速して飛ぶ、彼の周りを飛ぶ大剣達もビーストを取り囲むように飛びかかる。
「おせえよ!」
ズドンッ!
地面に振り下ろされた拳を中心に亀裂が走り、一帯を揺らし始める。
(この揺れは……あの地震は恐らくコイツの仕業か)
上から落ちる岩を避けながら、ビーストに接近するイゼル。
(皆は無事か?……なんとか大丈夫そうか)
イゼルが一瞬シーフ達に目を向けると、揺れる大地に膝をつきながらも、全員がいまだに無事であることを確認できた。
(魔獣達の足も止まっているか、それならビーストとの戦いに集中して……)
「オラアァァァァ!!!足を止めるなぁ!戦え獣共!」
「「「ジュー!ジュー!」」」
ビーストの咆哮が響くと、魔獣達が我を忘れたように動き出す、いまだに揺れる大地を蹴り、落ちてくる岩に押し潰される者がでながらも、死への恐怖を忘れたようにシーフ達に迫る。
「ちっ、マズイか……!行け、ソードサテライト!」
イゼルが操る六本の大剣が、シーフ達に迫る魔獣達に向けて飛ぶ。
「薙ぎ払え!サテライトキャノン!」
大剣の剣先に魔力が収束すると、魔力のビームが放出され魔獣達を薙ぎ払う。
「やるじゃねぇか!だがてめぇの守りが薄くなったな!ビーストブレイク!」
「ぐうぅっ!」
ガキンッ!
ビーストの爪がさらに一回り大きくなると、赤いオーラを放ちながらイゼルを切り裂こうと迫る、剣で辛うじて受けたイゼルだが、衝撃で剣は砕け、片腕からは血が流れていた。
「いってぇ……」
「まだまだいくぞ!」
イゼルは傷口を片手で押さえると、ビーストから繰り出される連撃を呼び戻した二本の大剣で受け止める。
「剣はデカイが……中身が薄いな!」
バリンッと大剣が砕ける音が響くと、魔力の粒子となって消えていく。
「ちっ、これならどうだ!」
(ソードレイン……!)
イゼルが後ろに下がり、ビーストを視界に入れると、ビーストの周囲に無数の魔力の剣を出現させる。
(串刺しにしてやるよ……!)
ビーストを取り囲むように出現した剣が一斉に動き出す、彼を取り囲んだ剣達はただ真っ直ぐ進むだけだが、取り囲まれたビーストに逃げ道はない。
「この程度、避けるまでもねぇ!」
宙を蹴って飛び上がるビースト、彼は襲いくる剣を避けることもせず、真っ直ぐにイゼル目掛けて進む。
「っ、マジかよ……!」
イゼルの剣達はビーストにかすり傷をつけるが、その剣で肉体を貫くことはできず、そのままビーストがイゼルの目の前に迫る。
「おらぁ!」
「がはっ……」
ビーストの拳がイゼルの腹部にめり込む、ビーストの一撃をモロに受けたイゼルはそのまま地上に向けて叩き落とされる。
「どうやら、そろそろ終わりみたいだな」
ズドンッ!
イゼルが叩き落とされた衝撃で土煙が上がる。
「イゼル!大丈夫か!?」
「イゼル君!」
魔獣に襲われながらも、シーフとテリスが心配そうにイゼルの名を呼ぶ。
「ごほっ、ごほっ……くそっ」
地面に叩きつけられた痛みに悶えるイゼル、肺の中の空気が急激に外に吐き出され咳き込む。
「それなりに楽しませてもらったが、そろそろ終わりでよさそうだな」
地に足をつけたビーストが、ニヤリと笑みを浮かべながらゆっくりと近づいてくる。
(くそっ、正直舐めすぎてたか……アニメみたいに最初から無双出来るわけもなかったか)
「いってぇ……けど、まだ体は動くか」
痛みに耐えながらも立ち上がるイゼル、その眼前にはビーストが立っていた。
「終わらせる前に一つ解せねぇことがある、てめぇまだなにか隠してやがるな?」
「さあ、どうかな」
(くそっ、完全に読まれているか……確かにこの状況を打開する手はあるが……)
痛みに腕を押さえながらも、イゼルの瞳にはまだ力が宿りまだ諦めている様子はない。
「あの女を誘拐した時もそうだったが、てめえは相手の致命傷を避けるように戦ってやがるな?大方手加減するために手を隠さざるをえなかったというところか」
「……」
ビーストの言葉はイゼルの弱点を正確に見抜いていた、そうそれはイゼルが前世の知識、記憶を持つが故の弱点、人を殺す事が出来ないことだ。




