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双生のラグナロク  作者: 高天
プロローグ
1/25

1.異世界の始まり

(あぁ……冷たい)


地面に倒れ伏せる一人の男。

感じるのは冷たいコンクリートの温度だけだ、薄れ行く視界の中には一組の男女の姿が見える。


「ふぅ……大丈夫だったか!?」


「うん、助けてくれてありがとう!」


抱き締めあう恐らくカップルの2人。


(あの制服、高校生なのか……まさか俺だけ轢かれるとは……)


思い返すこと数秒前、歩道を歩いていた所にトラックが突っ込んで来た。


「あぶない!」


「きゃあ!」


カップルの二人は彼氏が突っ込んで来る車にいち早く気づくと、恋人を抱え辛うじてトラックの衝突から逃げることができた。


「えっ?……うあぁぁぁぁぁ!」


しかし地面に倒れた男は不幸にもトラックに気づくのが遅れ、トラックの衝突をもろに受け冷たいコンクリートの道路まで吹き飛ばされていた。


(こんな形で俺の人生終了かよ……まだまだやりたいゲームも、続きが気になるアニメも……とにかくやりたいことはいくらでもあるのに……)


男の脳裏には思い残した事柄ばかりが過る。


「きゃあぁぁぁぁ!」


(なんだぁ……?)


周囲に女の叫び声が響くと、死にかけの男は最後の力でそちらを見る。

見るとそこには建物に突っ込みエンジンから炎を上げるトラックが、ドライバーは既に逃げ出しているが一人の女が腰を抜かしたのかトラックの側で尻餅をついている。


(あの女なんてどんくさい女なんだ……助けてやりたいところだけど、俺ももうダメか……)


「グフッ……」


男が血を吐き出すと遂に視界が途切れる。

こうして一人の男の人生が終わりを迎える、男にはもうトラックの爆発音は聞こえてはいない。


   ☆


(ん?まだ思考ができる……ああ、これがもしかしてあの世ってやつか、あの世は真っ暗なんだな)


視界が途切れてしばらくたち、男はいまだにその意識を保っていた。

だが意識はあるがその視界は黒一色、闇に満ちていた。


「オギャア!オギャア!」


(しっかしさっきからうるさいなぁ、いったい誰の泣き声だ)


男の耳には赤ちゃんの泣き声が聞こえてくる。


(ん?というか徐々に光が差してきたぞ……いや、これはまさか!?)


男の目がほんの少しだが開く、視界の中には小さな赤ちゃんの手が見える。


(おいおい、やっぱりそうだ!この手は俺の手に違いない、恐らくこの泣き声も……これはつまり!)


男の脳裏にある言葉が思い浮かぶ、それは異世界転生という現実に起こるはずがなかった夢の事象を表す言葉。


(おお!誰かが俺を揺すっているのを感じる、このパターンは美人の母かメイドさんに抱えられているはず、次点で美形の父のパターン……!)


男は真実を確かめるためにいまだに力が入らない両目に全ての力を回す。


(うおぉぉぉぉ!俺の両目よ開けぇぇぇ!)


まだ動かし馴れない目が男の気合いだけでゆっくりと開く。


(さあ姿を見せてくれ、俺の第一異世界人よ!)


そして男の目が大きく見開かれるとそこにいたのは。


(は?)


「おお!イゼル様が目を開けられたぞ!」


視線の先には歴戦の戦士を思わせる顔に傷だらけの執事服の男、頭には白髪が混じりだしそれなりの歳なのが察せられる。


(まてまて!こういうのは最初は美人のママンか、後々ヒロインになるメイドさんが相場だろ!?)


「うんうん、元気な坊っちゃんでよかった」


(しかも聞く感じ俺の父って訳でもなさそうだし、なんで最初の異世界人が執事のおっさんやねん!?)


「おや?イゼル様が突然泣き止まれてしまったぞ?」


突然泣き止み、執事の男をじっと見つめるイゼルの様子を心配そうに見つめる執事の男、抱き抱える赤子がしょうもないことを考えているとは夢にも思っていないだろう。


「オッ……」


「おっ?」


「オンギャアァァァァァァァ!!!」


異世界に産まれ落ちた地面に倒れた男もといイゼルは、異世界最初の絶叫を上げると泡を吹いて気絶した。


   ☆


「おーいミスタ、もう終わりでいいだろ」


「むむ!いけませんぞ坊っちゃん!次の舞踏会では華麗な所作を見せてもらいますぞ!」


「はぁ~面倒臭いなぁ……」


イゼルは面倒臭そうに灰色の髪をかく。


(まさかマジで異世界転生、それも一国の王子に生まれ変わるとはな……)


イゼルが産まれて5年、ウェーリズ王国の王子それも第一王子として産まれたイゼルは、次の国王主催の貴族や国の有力者が集まる舞踏会で社交界デビューするために、日夜執事のミスタとダンスの練習に打ち込んでいた。


「うおっ、いってえ……」


「坊っちゃーーーん!お怪我はありませんかぁーーー!?」


仮想の相手とダンスの練習をしていたイゼルは脚を引っ掛け床に手をつき倒れる、イゼルの練習を眺めていたミスタが心配そうに駆け寄ってくる。


「いてて、手を擦りむいただけか」


「むむ!手を擦りむくとは大変ですぞ!早く医者に見せなければ!」


「いや、これぐらいほっといてもそのうち治るだろ」


「いけませんぞ!大事なお体に万が一があれば」


(心配してくれてるのはわかってるが、その顔で心配されても……ププッ)


顔に傷だらけのいかつい男が心配そうに接してくることに、その男に似つかわしくない態度を取ってくるせいで吹き出しそうになるイゼル。


「まったく……あんたが過保護なせいで、いつまでもイゼル様がダンスを覚えてくれないんじゃないかい?」


「む?イセリナか、イゼル様の身に万一があればどうする!」


2人の様子を見ていたベテランメイドのイセリナが口を出してきた、イセリナはイゼルに付けられたメイドでミスタ同様それなりの歳を重ねた女性だ。


「あのねぇ、手の擦り傷ぐらいどうってことないだろ?あんたのその傷だらけの顔でそんなに心配されても気持ち悪いだけだよ」


(そうだ!そうだ!)


「王子もいつまで床に座り込んでいるんですか?さっさと起きて……ん?王子は何処に?」


「むむ!イゼル様また逃げ出しましたな!」


二人が喧嘩を始めた隙に光魔法で体を透明にしたイゼルは、二人の目を盗んでその場を逃げ出した。


「これはイゼル様お得意の光魔法による透明化、まずい……あの方が一度隠れ出せば見つけるのは相当一苦労しますぞ……」


「ミスタあんたが魔法の発動に気づかなかったのかい?」


「むう……イゼル様の魔力隠蔽は既にワシ以上だ、あの方は魔力を操ることに関しては天才ぞ!」


「それが分かってるならもっと警戒しなさいよ!これで何度目だい!」


自慢気に語るミスタに怒りを覚えたイセリナが、拳を握りしめ拳骨をミスタに叩き込もうとその拳を振り上げる。


(ああ……あんなの食らったらハゲが進行し出したミスタの頭髪が……)


「ふうんっ!!!」


「ぬわあぁぁぁ!」


イセリナの拳骨をお見舞いされたミスタは、床にめり込み白目を剥いて気絶する。


(南無……)


そんなミスタの姿を陰ながらイゼルは眺めていた、せめてもの供養に前世式で両手を合わせた。


「ちょっとあんた達、イゼル様がまた脱走したよ!すぐに人を集めな!」


「はっ、ははっ!」


イセリナが近くの騎士達に声を掛けると、騎士達が慌てたように走り出す。


(人が集まる前に逃げよ……さて、今日は何処に遊びに行こうかな)


床に埋まる執事ミスタをしり目にイゼルは王宮の窓から飛び出した、彼は光魔法によって透明なまま風魔法を同時に使用し空を飛んで王宮を離れる。


「今日は王都の外にでも行ってみようか」


(でも空はいいな、この時だけは最高に異世界を感じるぜ)


晴天の空を飛ぶイゼル。

イゼルは空を飛ぶのが一番好きだった、贅沢な悩みではあるが前世では一般人だったイゼルには、王子の立場は窮屈でしょうがなかった、空を飛んでいる時だけがそんな彼に自由を、異世界を感じさせた。

それにこの世界の異物でしかない自身が次期国王になる事に抵抗感を覚えるイゼルは、1つ年下の弟を王太子にしようと王子としての教育には手を抜いている所もありよく王宮を脱走していた。


「ふぁ~しっかし舞踏会なんて面倒臭いなぁ、なんとかブッチする方法を考えないとな」


まあ国王なんて面倒臭い、もっと遊びたいというのが脱走の一番の理由ではあるだろうが。


「ん?おいおい、こんな王都近くで馬車を襲うやつがいるってマジかよ」


空を悠々流して飛んでいたイゼルの視界に、王都近くの街道で黒いローブを身に纏った黒づくめの集団に襲われる馬車の姿が見えた。


「あの水龍の紋章……六代貴族の1つ、シーズ侯爵家の物じゃないか」


港湾都市リヴェリス一帯の領主であるシーズ侯爵家、王国でも六代貴族と言われる大貴族の馬車を襲う馬鹿はそうそういない。


「大貴族の馬車を襲うのは相手が誰かもわかってない、戦力差もわからない馬鹿か、あるいわ……」


遠目に馬車を眺めながら考えるイゼル、その間に3台並んだ馬車の内、真ん中の馬車からイゼルと同い年位の水色髪の少女が飛び出してくる、


「はははあ!ウォーターアロー!」


少女が持つ弓から放たれた水の矢が黒づくめの者達を正確に射抜く。


「お嬢様お下がりを!」


「ここは我等にお任せください!」


馬車を守っていた騎士達は慌てたように少女に駆け寄る、背に彼女を守るように周りを囲む。


「あれがシーズ侯爵の1人娘レインだ!王都に着く前に捕らえるぞ!」


黒づくめの者達が少女を見つけると、彼女を取り囲むように武器を構える、数は黒づくめの者達の方が多い。


(このままじゃ不味そうだな、とはいえこのままの姿で助けに行くわけにもいかないし……そうだ!)


イゼルは懐に入れたままにしていた仮面舞踏会で使うマスクを取り出す、今度の舞踏会に仮面は必要ないのだが、ドラゴンの装飾が施されたマスクに一目惚れした彼は密かにそれを懐にしまっていた。


「それじゃあこいつを着けて助けに行こうか!」


イゼルは目標を黒づくめの者達に定めると、上空から急降下で襲いかかった。

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