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終わりつつある世界、始まりつつある世界

何をそんなに感傷的になっている。

あいつらと俺たちは違う。

そうだろ?

世界が終ろうとしていた。

だからと言って、すさまじい変化がある訳では無かった。

空は青く澄み、心地よい風が頬をなでる。

隕石なんて落ちても来ないし、宇宙人も攻めてこない。

悪の秘密結社もこの世にはいないし、戦争はあるけれど核がどんどん使われるような大規模なものではない。

だがしかし、確実に明日になればこの世界は終わる。

私は最後の晩餐を楽しむでもなく、恋人と永遠の愛を誓う訳でもない。

ただ草原に寝っ転がって空を眺めていた。

「お母さん、僕達死んじゃうの?」

子供の声が聞こえた。

漠然とした恐怖(まるで得体のしれないお化けを怖がるように)で子供は泣きそうになっていた。

子供の不安そうにしているのがよく分かったのか、母親は優しく諭すように子供に言い聞かせる。

「大丈夫よ。この世界の人たちはみんな一回消えてしまうけれど、またすぐに同じように生き返るんだから。この世界は正確には終わるのではなく移行するのよ」

子供には母親の言葉は難しすぎて、疑問符を顔に張り付けている。

しかし、大丈夫というセリフに子供の漠然とした不安は漠然とした安心感によって払しょくされていた。

去りゆく母親の背に私は、移行した世界の私は本当に今の私と寸分違わぬものなのだろうか、という疑問を投げかけたくて仕様がなかった。

私の中にもあの子供のような漠然とした不安があるのだ。

だが、私の中にはこの世界がどのようになっていくのだろうかという期待もあった。

この世界がより良いものになっていくことは、この世界に住む者なら誰もが思うことだろう。

けれどもこの世界が一度死んでしまうことは確かなのだろう。

その時私のこの思考している魂はどうなってしまうのだろうか?

ある神の下では死んだら神の世界に行けて、魂の世界は魂の行った数だけ世界は広がるらしい。

ある神の下では魂は輪廻して、いろいろな生き物になるらしい。

この世界が終る時、私の魂は神の元へ行くのか、それとも移行した世界でも同じ魂でいられるのだろうか?

私には分かりもしない。

確かに今は分からないが、時間がたてばそんなことはすぐに分かることでもある。

だから、私は空を眺め、世界が終るのを待っているのである。


その通りだ。

あいつらは『0』と『1』の二文字で構成され、俺たちは『A』『G』『C』『T』の四文字で構成されている。

この事は決定的な違いだ。

ただ俺は思うのだよ。

世界が終り、次の世界があるとして俺と同じ塩基配列の人間は俺の姿形だけのコピーであり、俺自身ではないと果たして言い切れるのかと。

俺のこの思考する魂にいかほどの価値があるのかと。

お前はそんな事を考えたりはしないのか?

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