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 桜の花が舞っていた。

 その木下に一人の少年が立っていた。

 その少年は遠くの坂の向こうを見ていた。

「何を見ているんだい?」

 僕は思わずその少年に声をかけてしまった。

 少年は何も言わず、ただ微笑んで手にしていたものを僕に差し出した。

 少し季節の早い花だった。

 鮮やかな黄色。

 皐月さつきの花である。

「これを僕に?」

 少年はゆるゆると首を振った。

 そして何もない道を指差した。

「これは僕の。君のは向こうに。ほら僕の花きれいだろ?」

 僕は皐月の花と何もない道を見た。

 僕は手折るべき花を知らず、道に行こうとしていた。

 


 そのまま道を進んでいくと、向日葵畑ひまわりばたけへと出た。

 どこまでも続く道と、その両脇に自分の背丈ほどある向日葵が元気良く咲いていた。

 サフランライスのような鮮やかな黄色が、目にも鮮やかである。

 少し行くと少女が一人かがんでいた。

 麦藁帽子に、白いワンピースが良くあう。

 この暑さに具合を悪くしたのだろうか。

 声をかけることにした。

「大丈夫かい?調子でも悪いのかい?」

「話しかけないで。邪魔しないで。忙しいの」

 少女はこちらに見向きもしないで、一気にまくし立てた。

 気になって、少女の方を覗きこんだ。

 少女の目の前には、蟻が列をなしていた。

 その列に、少女は砂をかけたり、石で道をふさいだりしていた。

「頑張れ、頑張れ」

 少女は蟻たちを応援しながら、また一つ石を置いた。

「何をしているの?」

「だから邪魔だと言ったでしょ。これは私の生きがいなの。迷惑なの。干渉しないで。貴方は私にかかわる前にすることがあるでしょ。さっさと行きなさい」

 少女は道の先を指差した。

 そして、僕は歩き始めた。

 その陽炎揺らめく道の先に。

 なすべきことも分からずに。


 

 道をさらに行くと、かえでの木の葉がはらはらと舞っていた。

 赤や黄色の木の葉と一緒にクルクルと回っている少女がいる。

 スカートをひらひらたなびかせて、楽しそうだ。

「ねえ、見て。きれいでしょ。美しいでしょ。こんなに美しいものなんてこの世に他に無いわ。貴方もそう思うでしょ?」

 少女は僕に尋ねる。

 僕は首をかしげ、

「何だか僕には美しさよりも儚さを感じる。寂しげな感じがする」

 そう素直な感想を言うと、少女は激昂したように一気にまくしたてる。

「貴方は何も分かっていないわ。こうやって役目を終え、散っていくもの達の美しさなんてちっとも理解できないのね。命は散るから美しいのよ。そんなことも分からないなんて最低ね。生きる価値ないわ。さっさと私の前から消えてちょうだい」

 何もそこまで言わなくてもと思うのだが、少女に気迫負けしておずおずとその場を立ち去るのだった。

「結局貴方は何も分かってはいないのよ。だったらとっとと先に行くべきよ」

 そう言って少女は何処に続いているか分からない道を指差した。

 その先に何があるのか確かに僕は知らない。

 それでも、僕は少女の指差す道を歩き始めるのだった。


 

 僕は呆然とその場に立ち尽くしていた。

 辺り一面の真白の世界。

 歩んで来た道の僕の足跡は雪に埋もれ、もう何処から来たなんて分からない。

 もちろん進むべき道なんて分かりもしない。

 もう道なんて雪で埋もれて見えもしないのだから。

 見えているのは枯れ木と雪がしとしと降る様だけである。

 足も埋まってしまって歩くのに一苦労だ。

 よいこらせと掛け声一つ、僕は雪から足を抜き、一歩踏み出した。

 多分こちらなのだろうなという方向に足を運ぶ。

 確かに僕は何も知らないし、分からないけれど、それでも歩み続けるしかないのかもしれない。

 僕を待つ花も、やるべきことも、この世界の美しさも、歩み続ける理由も、何も分かりはしない。

 いつか分かる日が来るのだろうか?

 こんな僕にも。

 そして、また一歩。

 踏み出した足は、雪の中にずぶりとささり、また苦労して抜かなくてはならない。


栖坂月先生


そしてまた春が来る、でしょうかね。

人生なんてそんなもの、なんて言葉に頷くこともありますが、自分の足で歩くことだけは諦めたくないものです。その道が冷たく、あるいは乾いていたとしても、振り返った時にきっと、その形に深い感慨が生まれるであろうと思いますからね。

いやー、こういう作品を見ると私も書きたくなってしまいます。

しかし今の私では煩雑になるばかりで、こう上手くまとめられそうもありませんな。

お見事です。

また来ます。それでは


午雲先生


山羊の宮先生、道、作品読ませてもらいました。幻想の世界ですね。一本の道、道中にすれ違った三名の少年少女、四季の移り変わり・・・・・・この三名はテーマの擬人化と見えます。道は文学的な思索の過程、四季が時間の経過を知らせて呉れます。どのテーマにも未だ打ち込め無い、ーといって立ち止まることは出来無い、ーそんな時期、思索する者なら誰しもが経験するものと思えてふっと共感してしまいます。妖精の声とは自身の内なる声とも受け取れますね。冬来たりなば春近し?その日が至るまで、ゆくのみ・・・ですな。感想でした。

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